[ユーザー事例]
新事業「Job-Hub」は常に“現在進行形”、PaaS使いビジネス開発に集中
2014年5月8日(木)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)
IT関連エンジニアの人材派遣事業などを営むパソナテックが注力する新事業の1つがクラウドソーシング(Crowd Sourcing)事業の「Job-Hub」。同事業の核となるWebサイト/サービスは、米Salesforce.comが提供するPaaS(Platform as a Service)である「Heroku」上で動作している。全く新しい雇用形態を生み出す事業だけに、システムの仕様も日々、変化する。PaaS上では今も、新しいサービスの開発が続く。
「新しい働き方を世に出すことを優先した結果だ。市場調査を実施しようにも、そもそも市場が存在していないため調査もままならなければ、明確なゴール設定もままならない。ビジネスと、それを支えるアプリケーションプログラムの開発に人材を集中させるためにもITインフラを抱えるという選択肢はなかった」――。パソナテックのクラウドソーシング事業「Job-Hub」を担当する野宮一生 新規事業開発室マネージャーは、Job-HubのITインフラにPaaSを採用した利用をこう話す。
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2012年8月にベータ版としてスタートしたJob-Hub。2014年2月からは、スキルを持つ人材と委託したい業務のマッチングを図る際に、人が実際に介在できる「仲人型」サービスを追加し、より幅広い業務への適用を後押しできるようにした。以後、PaaSのメリットを生かし、利用者を対象にしたサービスを矢継ぎ早に投入している(表)。
年 | 月日 | 追加した機能と、その概要 |
2012年 | 8月8日 | Job-Hub(ベータ版)をオープン |
8月29日 | Job-Hubの本格サービスを開始 | |
12月12日 | タスクフォーム生成機機能。小規模案件のマッチングを容易に | |
2013年 | 7月11日 | コンペタイプ機能。EC事業などを対象にロゴやコピーのコンペを可能に |
11月8日 | エンタープライズソーシャル「Yammer」(マイクロソフト製)の利用を可能に。アカウントを2万件提供 | |
2014年 | 2月3日 | 「仲人ダイヤル」機能。発注者が、発注からワーカーの選定までの方法を電話で相談可能に |
2月17日 | 「仲人依頼ボタン」機能。発注者が、業務に適したワーカーの候補者選びや選定支援を依頼可能に | |
2月17日 | チームワーク支援機能。発注時にプロジェクトチームの形成を可能に | |
2月20日 | 「見積もり相談」機能。業務範囲や発注金額をコワーカーに相談可能に | |
2月26日 | 中規模開発案件の支援サービス。専任の「仲人」がプロジェクトチームの形成を支援 | |
2月27日 | 動画コンテンツの共有機能。シリコンバレー発の「Collaaj」との連携で実現 | |
3月3日 | アジャイル開発・プロジェクト管理機能。開発統合管理ツール「CAT MDES」との連携で実現 | |
3月7日 | チャットツール「ChatWork」の提供。有料プランを発注企業・受託者の双方へ無料提供 | |
3月17日 | 「GitHubログイン」機能。開発エンジニアの過去の開発実績をプロフィール閲覧可能に | |
3月31日 | 動画コンテンツの発注効率改善。「YouTube」との連携により実現 | |
4月30日 | 個人事業主に向けた請求書発行・郵送サービス。「Misoca」との提携で実現 |
野宮マネージャーは、「オンラインでマッチングするクラウドソーシングで、どうしても契約リスクが小さい小型案件が中心になる。オフラインや実際に人が介在するマッチングを組み合わせることで、高額案件への適用を促し、受注者が得られる収入も高額になれば、クラウドソーシングの適用範囲は、もっと広がるはず」と、仲人型投入の狙いを語る。
人材マッチングの8割が“位置”を理由に不成立
クラウドソーシングとは、人材と委託したい業務のマッチングを図ることで、不特定多数に業務を委託する形態、および、それを可能にするためのWebサービスのこと。クラウド(Crowd:群衆)が持つスキルや経験を、ネットを介して募ることで、発注者は、よりニーズに適した成果を安価に得られ、受注側は、場所や時間に縛られずに自らの価値を商品化できるとされる。
日本では、2008年創業のランサーズや、2011年創業のクラウドワークスが先行。その後、Job-Hubを含めサービス事業者が増えている。矢野経済研究所の調査によれば、国内のクラウドソーシング市場で依頼された業務の総額(未成約を含む)は、2014年度に前年度比前年比230.9%増の246億円が見込まれ、2017年度には1474億円規模になるという。
実は、人材派遣市場における年間依頼総額は7兆円にも上る。しかし、その8割が「発注者と受注者の“位置”的な問題で成立しない」(野宮マネージャー)。それだけに、「人と仕事をロケーションフリーにできれば、マッチング率は高まり、顧客企業にも受注者にもメリットを提供できる新事業が生み出せる」(同)というわけだ。
現在、Job-Hubに掲載されている依頼案件は1000件強。パソナテックが扱う全案件の1割にすぎない。多くの案件が、守秘義務契約を求めるものだったり、前回と同じ人材を指名するリピート型の案件だったりするからだ。
そこに風穴を開けるのがJob-Hubであり、2月にスタートした仲人型サービスになる。仲人型はクラウドソーシングにおける仕事依頼方法や発注案件に多数の反応があった際の最適な発注先の選定方法などへの回答を想定している。大手企業ほど「面識が全くない人に仕事を依頼するなど、B2C(企業対個人)のビジネス文化はまだない」(野宮マネージャー)ためだ。仲人型は「パソナテックならではのクラウドソーシングのあり方の提案」(同)でもある。
新サービスに向け“かっこよさ”を求めRubyを選択
パソナナッテクがクラウドソーシング事業の検討を開始したのは、2010年のこと。スモールスタートしか切れないことと、「システム事業とはいえ、従来のようにインフラ技術者を抱えることにも疑問があった」(野宮マネージャー)ことから、2011年4月にはPaaSを利用することを決定し、同年6月からPaaSの選定に着手する。
Job-Hubの事業推進チームは、わずかに7人。うち、システム開発担当者は3人である。PaaS選定に当たっては当時、「AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureの存在を認知していた程度」(Job-Hub Desk Developerの大久保英樹氏)だった。だが、「折角、新しいサービスを立ち上げるのだから、『かっこいい言語で、かっこいいサービスを』といった気持ちが高まっていた」(同)。そこで、生産性も鑑み、開発言語にRubyを選択。Rubyが動作するPaaSとして、Herokuをサービス基盤に選定した。
Heroku選定後は、初期サービスのためのアプリケーション開発を外部ベンダーに発注したものの、基本的にはチーム内でアプリケーションを開発・運用している。大久保氏は、「自分たちで実行できるほうが良い。開発チームの3人は常に、Job-Hubのサービスのあり方を議論しながら、開発・運用に臨んでいる。ヘルプ機能も充実しているHerokuは、使い方で困ることはない」と話す。
どんなサービス/アプリケーションの開発・投入するかは、開発チケットを発行して優先度を決めるチケット駆動型開発で進めている。基本的に毎週火曜日の定例会議で、事業開発チームの担当者を交えて、利用状況などのKPI(Key Performance Indicator)を見ながら議論し、優先順位を決定する。その後は、チャットで日々、全体の流れを追いながら修正をかけていく。
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