国内スーパーゼネコン5社の一角である大成建設は、ITに対する先駆的な取り組みでも業界のトップランナーとして知られている。2007年に「ゼロバジェット型」の新規投資体制に移行し、IT部門のイニシアチブを強化。現在は、建設業のワークスタイル変革を見据えたBYOD導入を推進している。一連の取り組み、そして、そこに臨む上での信念を、同社 社長室 情報企画部長の柄登志彦氏に聞いた(聞き手は、川上潤司=IT Leaders 編集長)。写真◎赤司 聡
貴社のITへの取り組みは非常に動きが速く、建設業界の中でも常に一歩先、二歩先を歩んでいるように見受けられます。
ありがとうございます。当社には、もともと先頭を走るのが好きな気風が渦巻いてまして(笑)。例えば、終戦(第二次世界大戦)後に財閥解体が進められる中、業界で最初に非同族の株式会社となり、株主となった社員が、社長や役員を選挙で選出したという経緯があります。“建設”という言葉を社名に入れたのも、我々が最初なんですよ。
そんな歴史がDNAに刷り込まれていて、ITの取り組みでも業界のトップランナーになりたいとの思いが強いのかもしれません。当然、前例のない施策は失敗するリスクも大きいのですが、先頭を走り続けていれば必ず良いこともあるし、何より仕事が楽しくなります。
さまざまなことへのチャレンジを具現化する上で、IT投資においてはどんな方針で臨んでいるのでしょうか。
2007年に、事業本部ごとに新規投資予算を持たせない「ゼロバジェット型」に移行しました。全社共通のITインフラに関しては、情報企画部がグランドデザインを描いて5カ年の投資計画を立てます。また、事業本部ごとに必要なITシステムは、当該本部が起案した上で審査を行い、情報企画部と一緒になって投資計画を立てるというのが基本方針です。
情報企画部が担うべきリーダーシップが、より鮮明になったとも言えますね。
そうしないと、ユーザー企業におけるITの取り組みは、どんどんブレることにもなりかねない。本業ではないだけに、モチベーションを維持することも容易ではありません。グループ全体の発展のために何を目標とするのか、各事業部門から求められたことをただ実行するのではなく、新たな方向性を示していくことが情報企画部の大きなミッションです。
ところで、柄さんご自身は、ずっとIT畑を歩んできた?
いえいえ、もともとは建設土木分野のエンジニアです。入社して最初に加わったのが、本四連絡架橋の児島坂出ルートの建設プロジェクトで、その後も様々な建設現場を担当してきました。
IT部門に転身されたのは、いつ頃でしょうか。
2002年に技術センターの技術企画部 情報技術室長を拝命しまして…。そこで5年ほど事業部門の立場からITを統括し、2007年に現在の情報企画部に移りました。2008年からは、IT子会社の大成情報システムの社長も兼務させていただいています。
建設の現場から異動した当初は、世界が随分違うと感じられたのでは…。
そうですね。外からIT部門を眺めていた頃は、何だか難しそうだけど、この人たちはいったい何をやっているのだろうと思っていたぐらいで(笑)。ただ、実際に身を置いてみると、ITも建設もインフラやアーキテクチャといった言葉が重視されているように、どちらも“機能美”を追求すべきという本質は、相通じるものがあると感じました。
ITシステムが追求すべき“機能美”とは
柄さんにとっての機能美とは、具体的にどんなものでしょうか。
ビルや橋梁などの構造物を設計する際には、シンプルで無駄がなく“研ぎ澄まされた”ものを創りたいと考えています。それによって醸し出されるのが機能美じゃないかと。ITシステムもまったく同じです。
例えば、データマネジメントが不十分でコード体系が統一されていなかったり、様々なシステムがスパゲティ状態に絡まったりしている状態は、美しくありませんね。
ええ、そういうのは受け入れがたい(笑)。私が常日頃から言い続けているのは、「フレキシブルなシステムを作ろう」ということです。
ビジネスが激しく変化していく中、一度作ってしまえば、いつまでも使い続けられるというシステムは存在しません。環境や条件が変われば、それに合わせてシステムも迅速に改変していく必要があり、開発を担当した本人でなくても、誰が見ても理解できる設計やプログラミングがなされていなければなりません。
そして、もう1つ重視しているのは“スケジュール意識”の徹底です。
それも興味深い観点です。どういうことでしょうか。
IT一筋でやってきたエンジニアは、完璧主義者が多いように思うのです。それ自体は決して悪いことではありませんが、良いシステムを作るためであれば多少時間がかかっても仕方がないという“甘え”が生じがちです。
建築物でそれは決して許されることではありません。工期が遅れたら完全にアウト。なので、2007年に情報企画部に移ってきた時、最初に部下たちに言ったのは「常にゴールとスケジュールを考えろ」ということです。機能美は時間をかけたから実現するというものはなく、むしろ、厳しい時間の制約の中から生まれてくるというのが私の考えです。
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