2000年代に事実上IT投資を凍結していたミサワホームは、長期の低迷から脱却し、巻き返しを図るべく基幹系システムの再構築に乗り出した。グループ企業の間接業務をシェアードサービス化するという目標を掲げ、オンプレミスでの運用を完全に廃するクラウド移行を推進している。長年にわたりユーザー部門でITに携わってきた経験を生かし、2011年4月に再始動した新生情報システム部を率いる宮本眞一氏に、改革に懸ける信念を伺った。(聞き手は、川上潤司=IT Leaders 編集長)。写真◎赤司 聡
不動産情報を扱う子会社でITと出会った
もともと入社されたのは、ミサワホームグループの情報子会社だったと伺いました。
そうです。不動産情報を扱っていた子会社に1984年に新卒で入社しました。
1984年というと、まだPCも珍しかった時代ですよね。
PCにハードディスクすら搭載されておらず、8インチフロッピーでソフトを起動していた頃です。町の不動産屋さんにPCを使いこなせる人なんてほとんどいなくて、ワープロソフトの使い方やオンラインシステムへのデータ入力の方法などを、一軒一軒まわって教える仕事をしばらく担当していました。
その後、入社4年目にミサワVANという別の子会社で新規事業を立ち上げるという話があり、自ら手を挙げてそこに移りました。
どんな新事業だったのですか。
当時のミサワホームでは住宅建築の現場で天候による工程ロスを減らすため、日本気象協会から気象情報をオンラインで入手していました。この情報を一般向けにも小売りしていこうというアイデアが生まれ、事業化したのです。
プリペイドカードを購入してもらい、そこに記載された暗証番号をプッシュすると希望する地域の気象情報が電話で聞けるという仕組みです。ただ、気象情報だけでは販売ルートを開拓できず、伝言サービスや占いなど商品ライナップを増やすことで、ようやくデパートやコンビニにも置いてもらえるようになりました。おかげで月間2万枚を売り上げるほどの規模になったのですが、その後に携帯電話が普及し始めたこともあり、需要は先細りになると判断して、この事業は10年ほどで畳むことになりました。
最初は情報システム部の“天敵”だった
かなりユニークなITとの出会いだったのですね。
もともと文系出身の営業担当者が、たまたまITをかじったという感じです。そんなわけで本社の情報システム部ともほとんど縁はなかったのです。
それが一転して、情報システム部と深く関わるようになったのは、どんな経緯からでしょう?
ミサワVAN時代にミサワホームに転籍し、カード事業撤退後はグループ内のゲームソフト会社にも出向していたのですが、システム部門との関わりは1994年にCADセンターに異動してからですね。
CADセンターとは、各販売会社が作成したプランを元に構造計算や積算、資材発注、工場への生産指示などのプロセスを一貫してサポートする部門なのですが、販売会社にはそれぞれの地元で馴染みの設計事務所があり、なかなか利用が広がっていませんでした。そこで販売会社への営業担当として、ITの話ができる私に白羽の矢が立ったのです。情報システム部からはその後、まったくの“天敵扱い”をされましたが(笑)。
どんなせめぎ合いがあったのでしょうか。
様々な提案活動の成果が現れて次第にCADセンターを活用してもらえるようになり、CADオペレーターの体制も当初は20人足らずだったのが、ついには400人を超えるまでに膨らんでいきました。そうなると今度は人件費が問題となり、中国・大連へのオフショア/BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を提案するに至ったのです。
そんな中で当時の情報システム部と衝突したのです。彼らにしてみれば、セキュリティやソフトウェア・ライセンスなどの問題もあり、簡単に許可してくれませんでした。
そう言われても、動き始めた現場は止まれないと(笑)。
おっしゃる通りです。半ば強引にリモートデスクトップでつないで始めてしまいました。そのまま黙って半年くらい既成事実を積み重ねてから、経営陣に「こんなに実績が上がりました」と報告し、さらに規模を拡大していきました。そんなこともあって、情報システム部からは、私はかなり危険視されていたようです。
ある意味、ユーザー部門が自力でやってしまったのがすごいです。
実はそれほど大変なことでもないのです。大連に配置したのは普通のPCで、リモートデスクトップの仕組みとして利用したのもWindows標準のRDSです。専用線を引いたわけでもありません。資産計上しなければならないようなコストはかけておらず、わざわざ情報システム部に稟議を回す必要もありませんでした。事務所の一角に50台以上のPC本体を積み上げて使っていたのは、異様な光景ではありましたが。
昨今、情報システム部門の関与しないビジネス部門のIT投資が増加していることを危惧する声をよく聞きますが、この流れは絶対に止めようがありません。自分がやってきたことを振り返ると、よくわかります(笑)。便利なコンシューマーITが今やどんどんビジネス領域に浸透してきており、さらにこの流れは加速していくでしょう。
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