採用するか否かに関わらず、企業情報システムの次の一歩を考える上で欠かせない技術動向の1つが、オープンソース・ソフトウェア(OSS)だ。そのOSSを牽引する米レッドハットは、クラウドOSである「OpenStack」、PaaS(Platform as a Service)の「OpenShift」、コンテナ技術を実装した「次期Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」を中核に据えた戦略を打ち出している。物理サーバーや仮想サーバー、プライベートクラウド、パブリッククラウドといったIT基盤の違いを超えて、適材適所なソフトウェアの開発・稼働を可能にするという。
ただしRed Hat Storageは、元の名称に付く「FS」から明らかなように、ファイルサーバー用途がメイン。大量の非構造データの格納に向くオブジェクトストレージの機能も備えるが、一般企業向けとしては「NAS(Network Attached Storage)」の置き換えが中心である。つまりブロック単位でデータを扱うSAN(Storage Area Network)には適さない問題があったのだ。
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一方、米レッドハットは、この4月30日に、もう1つの有力SDSであり、GlusterFSのライバルと目されてきた「ceph(セフ)」を開発する米Inktankの買収を発表した(図3)。cephはファイル、ブロック、オブジェクトのすべてを扱える。この買収によりSANの置き換えが可能になったので、改めてストレージ事業の強化に注力するというわけだ。
そうなると、Red Hat Storageとcephの位置づけが気になるところ。Red Hat StorageがNAS、cephがSANとも考えられるが、ソフトウェアにより専用ストレージを置き換えるSDSという特徴は共通だ。それぞれがコミュニティを持っているため、レッドハットの都合で、どちらか一方に統合するようなことはやりにくい。このあたりが明確になるには、時間がかかるのかも知れない。
さて日本と米国の違いで最も影響が大きいのは、販売会社やシステムインテグレータの存在規模にある。RHEL7にせよOpenShiftにせよ、これら製品をパートナー企業に理解してもらわなければ何も始まらない。
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そこで日本では、現在250社ある認定パートナーを500社に増やすという(図4)。新規商談がある場合、あらかじめ登録すると特別な割引率を適用する“ディールレジストレーション”と呼ぶ制度も取り入れる。さらに「Japan OpenStackパートナー」という制度を発足させるほか、レッドハットの新製品を使いこなすパートナーのエンジニアの数も現在の3倍に増やすという。
ただ大手企業に対してはレッドハット日本法人が直接働きかける。何らかのレッドハット製品を使っている500社のうち、まず100社に対して、「すべてをOSSにするソリューションを提案します」(廣川社長)。他のIT企業からベテランのIT人材を採用し、業種別・地域別・製品別の営業体制を拡充する。
これら個々の施策の実現性や効果はさておき、レッドハットが積極策を採ることは日本の情報サービス市場に刺激を与えるはずである。ユーザー企業にとっては、良いことだと言えるだろう。