採用するか否かに関わらず、企業情報システムの次の一歩を考える上で欠かせない技術動向の1つが、オープンソース・ソフトウェア(OSS)だ。そのOSSを牽引する米レッドハットは、クラウドOSである「OpenStack」、PaaS(Platform as a Service)の「OpenShift」、コンテナ技術を実装した「次期Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」を中核に据えた戦略を打ち出している。物理サーバーや仮想サーバー、プライベートクラウド、パブリッククラウドといったIT基盤の違いを超えて、適材適所なソフトウェアの開発・稼働を可能にするという。
米国本社が先頃発表した事業戦略は、別掲記事『次世代クラウドは「プログラマブルIT」に【Red Hat Summit2014=前編】』を参照して欲しいが、簡単にまとめれば「ハイブリッドクラウドの推進」である。
しかし、日本と米国では、システムインテグレータを含めたITを取り巻くエコシステムや、ユーザー企業の考え方が異なる。「日本では同じようにいかないのではないか」「日本ではどうするのか?」――。こんな疑問を抱いているところに、レッドハット日本法人が事業戦略説明会を開催した。
結論から言えば、展開する製品やサービスは当然ながら基本的に同じ。だが力点の置き方が製品ごとに異なるし、事業展開のアプローチはも大きく違っていた。米国本社とは異なる施策により、「日本法人は市場の倍のスピードで成長する」(廣川裕司社長)ことを目指す。
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廣川社長は、日本における事業のポイントとして、(1)データセンターの刷新、(2)クラウドコンピューティングの推進、(3)ビッグデータ向けのストレージ事業の強化、の3点を挙げる(図1)。このうち、米国と最も大きく異なるのが(1)のデータセンター刷新だ。2013年に設置したばかりの「OSSインテグレーションセンター」と呼ぶ組織を軸に、ITモダナイゼーションを推進する。レガシーシステム刷新の相談を受け付けたりノウハウを共有したりする。
2014年は、同センターを実質的に機能させることが施策の中心になる。「モバイルやIoT(Internet of Things)が広がる中、古いIT資産のままでは勝負できません。最新のREHLやミドルウェアのJBossを駆使し、レガシーシステムの刷新、つまりIT資産のモダナイゼーションを徹底してサポートします」(廣川社長)。クラウド以前にまず既存システムをリニューアルすべきという問題意識だ。
製品面では、近くリリース予定のRHELバージョン7やミドルウェアのJBossを中心に置く。RHEL7は上記の記事で説明した「コンテナ技術」や、最大500TBまで管理可能な新ファイルシステム「XFS」など、先進機能を強化したイメージが強い。だがその陰では、実用面を着実に強化しており、古いUNIXサーバーの刷新に役立つと見られる。
具体的には、システム性能の計測や監視のための新ツールや、マイクロソフトのActive Directoryを使ってRHELのユーザー管理を可能にする認証メカニズムの搭載、OSの起動を高速にする仕組みの実装などである。
(2)のクラウドの推進に関しては、主に日本のデータセンター/IaaS(Infrastructure as a Service)事業者向けにOpenStackを売り込む。「当社はOpenStackの最大の貢献者。その責任もあり、“OpenStack Everywhere”を浸透させていきます」(廣川社長)という。
4月のRedHat Summit2014で改めて強調したPaaSの「OpenSHift」も日本で展開する。「ローカライズが終わるのを待つわけにいきません。ニーズもあるので、6月から英語版のままOpenSHiftを展開します」(同)。ただし米国では、レッドハット自身がOpenSHiftによるパブリックのPaaSを提供中だが、日本ではそれはしない方針だ。
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(3)のストレージ関連の強化は、説明が必要かも知れない。米レッドハットは2011年にSDS(Software Defined Storage:ソフトウェア定義によるストレージ)の1つである「GlusterFS」を開発する米Glusterを買収(図2)。現在は「Red Hat Storage」という名称で販売中だ。大量のHDDを搭載した安価なIAサーバーを使ってストレージシステムを構成できるのが特徴で、カシオ計算機など採用事例も増えている。