[ユーザー事例]

タブレットを活用し事故調査を効率化、ワークライフバランスを実現─テクノ・セイフティ

2014年12月24日(水)緒方 啓吾(IT Leaders編集部)

自動車事故の専門調査会社であるテクノ・セイフティが、タブレットを使った業務改革を進めている。調査案件を管理する業務システムを構築。タブレットを使って、調査に必要な情報を確認したり、調査結果を登録したりする仕組みを整えた。

タブレットの活用風景写真:テクノ・セイフティは自動車事故の調査業務にタブレットを導入。業務効率化とワークライフバランスの改善を図っている

 自動車事故が起きると損保会社は支払額を算定するため事故状況を調査する。どこで事故が起きたか、当時はどんな天候だったか、どこでブレーキを踏んだか…。道路幅やブレーキ痕を調べ、関係者に況を聞き、公正な視点で全容を明らかにする。

 こうした調査業務を損保会社に代わって担当するのが自動車事故調査会社と呼ばれる企業だ。テクノ・セイフティは、そうした企業の1社。2012年以降、業務効率化とワークライフバランスの実現を目的としてタブレットの活用を推し進めている。

 損保会社から依頼される調査は全国各地に及ぶ。そのためテクノ・セイフティは北海道から九州まで30を超える都道府県に担当者を配置。各調査員は自宅をオフィスとして活用し、本部の指示を受けて調査に出向く。

 いつ調査案件が舞い込むか分からない。加えて、1人ひとりがカバーすべき地域は広大だ。さらに、従来の業務フローは手間ひまがかかった。こうした状況が、調査員の生活を少なからず圧迫することになっていた。抜本的な解決策として同社は各調査員にPCとタブレットを支給し、業務の改革に乗り出した。

 基本的な業務の流れを見ておこう。まず損保会社からFAXで送られてくる依頼書を受け取る。東京もしくは大阪のオフィスにいるスタッフが内容を案件管理システムに転記。現場撮影や関係者聴取といったタスクを設定した上で、事故が発生した地域や現在の業務量などを考慮し、調査員に割り当てる。

 調査案件をアサインされた調査員は、PCやタブレットで詳細を確認し、事故現場や関係者のもとに赴く。タブレットは拠点外に持ち出すことを許可している。外出先では調査項目や関係者の連絡先を確認したり、調査の結果を書き込んだりし、システム上でレポートを提出する。

従来は業務を意図的にアナログ化

 実は同社はこれまで、業務を意図的にアナログ化していた。過去に一度、調査員が外出先で調査依頼書を紛失したことがあったためだ。再発防止策として、ノートPCや調査依頼書の持ち出しを禁止。筆記用具とデジタルカメラだけで外出するよう義務付けていた。

 そのため、調査業務で必要となる情報、例えば、事故現場の住所や関係者の連絡先は可能な限り記憶する。メモ帳に書き写す場合は、紛失に備えて暗号で記述したり、複数のメモ帳を突き合わせないと内容を特定できないようにしたりしていた。

 こうしたルールが業務効率を下げていたことも事実だ。外出先で必要な情報を失念してしまい、本部に電話で確認する調査員も多かった。自宅に戻ってレポートを作成する段階になって、調査すべき項目が漏れていると気が付くこともあった。

 望月隆世社長は、「札幌在住の調査員が片道350kmもある北見まで調査に向かうこともある。ただでさえ移動に時間がかかるのに、旧態依然とした仕事の進め方では調査員に負荷を強いるばかり。本部でサポートするスタッフの仕事も増やしていた」と、当時を振り返る。

社長交代後にシステム化を推進

望月氏写真:テクノ・セイフティ 代表取締役 望月隆世氏。2010年入社後、ITを積極的に活用して業務改革を進める

 状況が変わり始めたのは、2010年前後のことだ。スマートデバイスの普及を受け、テクノ・セイフティでもiPadを導入。案件依頼書を外出先でも閲覧できるようにした。ただ、最初のシステムはセキュリティを意識するあまり、実用性に欠けていた。

 具体的には、PDF化した案件依頼書を閲覧できるだけだったり、搭載されているカメラやボイスレコーダーはもちろん、ブラウザなども使用できなかったりしていた。導入から間もなく、スタッフはiPadを持ち歩かなくなった。紙とペンを上回るメリットを見い出せなかったためである。

 そんな経緯があった後に入社したのが、現社長の望月氏だ。社長就任後、保険会社や事業主として調査業務を経験してきた知見を活かし、2012年末にタブレットを使った業務効率化を本格的にスタートさせる。

 システムの要件は望月社長が自らまとめ、以前から付き合いのあったシステム開発会社のアドトラックスに構築を依頼した。望月社長が強く要望したのはセキュリティだ。「今回の取り組みは1つの賭け。事故調査でタブレットを活用している企業はまだない。取り組みが失敗すれば、会社の評判に大きな影響を及ぼす」(同)。

 タブレット端末は、金融機関での導入実績を持つ富士通の「ARROWS」を採用した。アプリケーションは、データセンター上のシステムを閲覧する方式とし、データは端末内に一切残さない。そのために、ジェーエムエーシステムズ(JMAS)のセキュアブラウザ「KAITO」を組み込んだ。

 データセンターとタブレット間は閉域網で接続する。「当初、VPN(Virtual Private Network)を使用する方法を提案した。だが、セキュリティに対する社長の強い意向を反映し閉域網に切り替えた。提供元であるNTTドコモによれば、このプランを契約したのは2社目だった」(アドトラックスの加藤氏)という。

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