グローバル化の進展で、企業のコミュニケーション環境にも変革が求められている。エレベーター/エスカレーター事業を世界展開するフジテックも、経営サイドからグローバルで統一した情報共有基盤の導入を求められていた。情報システム部が選んだ基盤は、米Googleが提供するクラウドサービス「Google for Work」。当初、既存環境からの変化を嫌う社員から難色を示されたものの、ある利用方法をきっかけに全社への導入が急進したという。Googleのイベント「Google Atmosphere Tokyo 2015」の基調講演に登壇したフジテックの友岡賢二 執行役員 情報システム部部長の講演から、その取り組みを紹介する。
フジテックが現在、グローバルで統一した情報共有基盤として利用しているのは米Googleのオフィススイートのクラウドサービス「Google Apps for Work」である。カレンダーやメール、文書作成、ビデオ通話などのグループウェア機能を提供する。
Goole Apps for Workの全社導入では、まずはメールやスケジューラーなどからスタートし、ストレージやファイルの共有、フォームなどへと徐々に利用範囲を広げていく計画だった。しかし、使い勝手が、それまで利用してきたグループウェアと大きく異なったため、移行に対する不満の声が大きく、なかなか浸透しなかった。
こうした状況を一変したのが、エレベーターの保守現場におけるGoogle Apps for Workのある使い方。これが高い評価につながり、一気に導入が進んだという。
エレベーターやエスカレーターは、据え付けると短くとも20年間は稼働し続ける。この間、点検や保守を通じて顧客と良好な関係を維持しなければならない。しかも、その稼働には人命がかかっているだけに、点検・保守でのミスは許されない。万全を期すため、状況によっては設計者や開発者などからもアドバイスを受けなければならない。
従来は、そうしたやり取りには携帯電話を使っていた。しかし、音声だけのコミュニケーションは状況を正確に伝えるのが難しく、逆に点検・保守作業の効率を落とす要因にもなっていた。
そこで情報システム部が点検・保守現場に提案したのがビデオ電話機能を持つ「ハングアウト」である。ハングアウトは、Google Apps for Workに含まれるサービスで、チャット、インターネット電話、そしてビデオ電話の機能を持っている。AndroidおよびiOS向けにアプリケーションが用意されているほか、PCでもブラウザー「Google Chrome」の拡張機能として利用できる。元々はSNS(Social Networking Service)である「Google+」の1機能だったが、現在は独立したサービスとして提供されている。
ハングアウトの利用により現場では、複数のメンバーとリアルタイムで情報を共有したり、画像や動画を使って詳細を伝えたりするようになった。同じ情報が、バックオフィスにいてPCを使っているメンバーも共有できるため、細かな点までアドバイスを受けられる点が現場から評価された。
点検・保守現場でのハングアウト導入には伏線がある。フジテックでは、2014年6月からBYOD(Bring Your Own Device:私物端末の業務利用)を開始。多くの社員が自前のスマートフォンを業務に使用し始めていたが、特にBYODが増えたのはエレベーターやエスカレーターの点検・保守現場だった。ハングアウトを利用しやすい環境ができていたことになる。
加えて、情報システム部から「フレンドリーエバンジェリスト」と呼ぶスタッフを現場に出し、ハングアウトの使い方などを実際のニーズに即して教えることで、支持者を徐々に増やしていった。現場の意向を最重要視するフジテックでは、フレンドリーエバンジェリストが現場で課題を洗い出し、ITを使った解決策を提案する方法を採っている。
点検・保守の作業現場に認められたことで、彼らと情報共有したり彼らにアドバイしたりするオフィスのスタッフの間でも、ハングアウトやGoogle Apps for Workによる情報共有の便利さへの理解が浸透。そこから全社導入に拍車がかかっていった。
フジテックの友岡賢二執行役員は、「答えは現場にある」としたうえで、企業の情報システムについて「壁の中(社内)は中世、ルネッサンスは壁の外(社外)にある」と指摘する。壁の中とはオンプレミスを、壁の外はクラウドをそれぞれ意味している。情報共有環境の変革も「クラウドでなければ実現しなかった」(同)という。
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