日本ITCソリューションと三井商事が共同で臨む大規模案件。競合相手の北京鳳凰は、“原価割れ”で提案してくる可能性がある。三井商事の筒井からの「ともかく北京鳳凰に会ってみよう」とのアイデアに従うことにしたが、会議の途中、筒井は「中国企業には“勢”がある」と指摘した。佐々木は、この“勢”という言葉から、孫子の兵勢篇の一節を思い出していた。
「ところで、佐々木さんは今回、どのように参画されるのですか?」
“勢”という一語に思考回路を奪われていた日本ITCソリューションの佐々木に対し、三井商事の筒井が尋ねてきた。この質問に一瞬我に返った佐々木は、今回の出張時に受けた三森事業部長からの命令を反復した。
「私の役割は本社と連携しながら、今回の入札を成功させることにあります」
そう言うと佐々木は、これまでの経歴とスキルを説明した。上海にも3年いたので、広東語は分からないが中級程度の中国語は話せること、中国人の考え方も一応は理解できるようになったなどだ。ただ、今回のような入札で競合相手と交渉する自信はないことも正直に打ち明けた。
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