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[経営とITを結ぶビジネスアナリシス〜BABOK V3の基礎知識〜]

BABOKとは─ビジネスアナリスト抜きに企業は成長できない:第1回

2015年7月10日(金)清水 千博(IIBA日本支部BABOK担当理事) 新冨 啓明(IIBA日本支部マーケティング/プロモーション担当理事)

業務とITシステムに対する要求を引き出し、それらを分析して解決策を考える--。そうした活動を進めるための知識体系において、国際標準に位置づけられるのが「BABOK(Business Analysis Body Of Knowledge)Guide」である。2015年4月に、最新バージョンとなる「BABOK Guide V3」が発表された。従来版のV2が発行された2009年から6年振りとなる大改訂だ。まずは、今回の改訂の背景と意味を説明する。

新しいビジネスアナリシスの定義

 最初に、BABOK V3が定めるビジネスアナリシスの定義を紹介する。

 ニーズを定義し、ステークホルダーに価値(Value)あるソリューションを推奨することにより、エンタープライズにおけるチェンジを可能にする専門活動

図2:BABOK V3における6つのコアコンセプト図2:BABOK V3における6つのコアコンセプト
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 ここに登場する「ニーズ」「ステークホルダー」「価値」「ソリューション」「チェンジ」に「コンテキスト(文脈)」を加えた6つの用語が、BABOK V3における基本的用語、すなわちコアコンセプトに位置付けられている(図2)。

・ニーズ:対処するべき問題または機会
・ステークホルダー:チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ
・価値:あるコンテキストにおいて、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性
・ソリューション:あるコンテキストにおいて、1つまたは複数のニーズを満たす具体的な方法
・チェンジ:ニーズに対応して変化させる行為
・コンテキスト:チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況

 これらコアコンセプトのそれぞれが、ビジネスアナリシスの基本的な考えである。そしてそれぞれが、他の5つのコアコンセプトにより定義されている。コンセプトモデルに示される6つの定義を明らかにしていくことが、ビジネスアナリストとしての最低限必要な活動になる。

 各コアコンセプトの具体例を考えてみよう。以下は代表例であり、これに限るものではない。無数にあり得る。読者自身のケースで考えてもらいたい。

【ニーズ】対処するべき問題または機会

−それを満たすと価値につながる顧客の真のニーズは何なのか、明確だろうか?
−(言われたままの)要求ではなく、顧客の真のニーズ(まだ気づいていない、潜在的なもの)まで追求すること。大きな潜在価値につながるニーズが重要だ。

【ステークホルダー】チェンジ、ニーズ、ソリューションと関係を持つ個人またはグループ

−ビジネスの本当の顧客は誰だろうか。その真のニーズは何だろうか? 
−ソリューションで喜ぶのは誰だろうか(受益者は明確か)?
−ITを使って、ビジネスをチェンジしようとしている人は誰だろうか?

【価値】あるコンテキストにおいて、ステークホルダーに対する値打ち、重要性、有用性

−今のプロジェクトの本当の目的(価値)は何だろうか?売上増(金額)、利益増(金額)などは明確だろうか?決して、プロジェクトのQCD(Quality、Cost、Delivery)のことではない
−今のプロジェクトが提供するものは、顧客ニーズに対応した価値を提供できるソリューションになっているだろうか?

【ソリューション】あるコンテキストにおいて、1つまたは複数のニーズを満たす具体的な方法

−今のプロジェクトは本当に価値ある(利益の出る)ソリューションを提供できるだろうか?そのことに責任をもっているだろうか?
−ビジネスの差別化に効果がある、企業利益をもたらすITソリューションになっているだろうか?

【チェンジ】ニーズに対応して変化させる行為

−ソリューションを通じて何をどのように変革しようとしているのだろうか?
−変革(チェンジ)は実行できるだろうか。ソリューションは使ってもらえるだろうか?そのためには何をすればよいだろうか?変革しない限り利益(価値)は出ない

【コンテキスト】チェンジに影響を及ぼし、チェンジから影響を受ける状況

−チェンジの対象範囲を考慮すること。専門分野はITだけでよいのか?
−エンタープライズ全体を考えているか?特定の部門だけのソリューションか?
−ビジネスのドメインは日本国内だけなのか?グローバルなビジネスまで考慮する必要はないのか?

V3が定める6つの知識エリア

 これらのコアコンセプトを定義し、ビジネスの変革(チェンジ)を進めていくために必要な知識エリアとして、BABOK V3では、以下の6つを挙げる(図3)。

図3:BABOK V3の6つの知識エリアと、その関係図3:BABOK V3の6つの知識エリアと、その関係
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 V3における知識エリアは、従来のV2から大幅に見直されている。まずは概要を説明する。

【戦略アナリシス】

 エンタープライズの現状(AsIs)から将来の望ましい状態(ToBe)に至るチェンジに関する戦略を定義する。V3では、単一プロジェクトへのビジネスニーズから、エンタープライズ全体にまで拡張され、ビジネスアナリシスの意義が大きく変わっている。ビジネスアナリシスの新しい定義がそのまま、この知識エリアに現れている。

【引き出しとコラボレーション】

 価値の源泉となるニーズ(アイデア)の発見から、要求の引き出しに関するタスクと、ステークホルダーとのコラボレーションやコミュニケーションに関するタスクを扱う。

【要求アナリシスとデザイン定義】

 ステークホルダーのニーズをブレークダウンし、ソリューション選択肢を推奨する。そのため、ビジネスアナリストは要求のみならず、デザインの定義にも責任を持ち、ビジネス価値を最大化できるようにソリューションを定義する。V2では、デザインは範ちゅうの外だった。

【ソリューション評価】

 実装されたソリューションのビジネス価値を最大化する。ソリューションの運用中に継続的に取り組む活動で、ビジネス価値の実現に責任を持つ。ここはV2に比べ大きく充実した。

【要求のライフサイクルマネジメント】

 要求のライフサイクルはニーズの発掘から始まり、ソリューションの開発期間を通じて継続し、ソリューションおよび、それを表わす要求やデザインが廃棄されるときに終了する。ソリューションが実装されても、要求マネジメントは終了しない。要求やデザインは適切に管理されれば、ソリューションのライフサイクル全体にわたって価値を提供し続ける。それには専用の要求管理ツールやリポジトリの活用が不可欠になる。

【ビジネスアナリシスの計画とモニタリング】

 ビジネスアナリシスのアプローチおよびの活動の定義について記述する。

 次回からは、本稿の最初に挙げた、読者が抱えているであろう課題例に対し、BABOK V3の知識エリアが、どのように役に立つのかを考えていこう。

筆者プロフィール

清水千博(しみず ちひろ)
IIBA(International Institute of Business Analysis)日本支部BABOK担当理事、KBマネジメント代表取締役。1974年横河ヒューレット・パッカード(現日本HP)入社。営業マネジャー、マーケティングマネジャー、SEマネジャー、SE教育マネジャーを歴任。HPにおけるSE認定制度を確立し、日本・アジア諸国で実施。グローバルCRMの日本導入においてビジネスアナリシスの経験を積む。その後独立しKBマネジメントを設立し現職に就く。人材教育コンサルタントおよび研修インストラクターとして、IIBA認定ビジネスアナリシス教育プログラムの開発と提供に携わる。共著書に『やさしくわかるBABOK』(秀和システム)がある。

新冨啓明(しんとみ ひろあき)
IIBA日本支部マーケティング/プロモーション担当理事、NECソリューションイノベータ
エンタープライズ企画本部 事業企画グループ 企画戦略グループ マネージャー。SIベンダーにおいて、顧客企業のセキュリティやシステム企画の支援のほか、自社での超上流に携わる人材育成の企画・推進に従事。現在は、企業向けソリューションの事業企画グループで企画立案・推進を担当する。IIBA日本支部では2015年に理事に就任し、他団体との連携/コラボレーションやプロモーションに携わっている。

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