クラウド環境で利用しているCRMやオフィスソフトから社内の情報システムが持つデータにアクセスしたい−−。クラウドサービスの利用が広がるにつれ、顕在化するニーズの1つだ。それに対応するべく、インフォマティカ・ジャパンが同社のデータ連携用ソフトウェア製品をサービスとして提供することを発表した。純粋のクラウドサービスではなくハイブリッド型で展開することで、データにまつわる利用企業の懸念を払拭する。
自社保有(オンプレミス)の情報システムが持つ様々なデータに加え、クラウド上のオフィスソフトやCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)サービスが蓄積するデータ、そしてクラウド上にあるオープンデータなど。クラウドの活用を進めるにつれ、これらデータの連携や統合、ガバナンスの問題が浮上することは間違いない。
オンプレミスとクラウドにデータが散在していると、例えばデータ分析すらできないからだ。データのガバナンスやセキュリティを含め、早期に対策を検討した方が良いことは言うまでもないだろう。
そうしたニーズを先取りする形で、データ連携・データ統合の仕組みを提供するインフォマティカ・ジャパンが、主力製品のクラウドサービスを開始すると発表した。自社のデータ統合製品やマスターデータ管理(MDM:Master Data Management)製品、データ品質管理製品などを、「Informatica Cloud」の名称で月額課金のサービスとして提供する。
とはいえ、オンプレミスのシステム(例えば販売管理システム)とクラウドサービス(例えばSalesforce.comのようなCRMサービス)をデータ連携させるためなら、連携ソフトウェアをオンプレミスで運用しても問題はないはず。特に企業の重要資産であるデータが絡むだけに、データ連携のためのクラウドサービスに、そう強い需要があるとは考えにくい。なぜ今、クラウドサービスなのだろうか?
ユーザー視点で見たとき、3つの利点があるようだ。1つは運用管理に関わること。クラウドサービスなら、ユーザー企業はデータ連携や統合基盤の運用をベンダーに任せ、利用に徹することができる。第2はクラウドサービス同士のデータ連携。日本ではまだ多くはないが、クラウドサービス同士を連携させるなら、オンプレミスの連携基盤を介するよりも、クラウド側で完結させる方が自然だろう。
3番目は費用モデル。クラウド利用が拡大する中、費用を一括支払いからサブスクリプション型にしたいというユーザーが増えている。実際、同社のソフトウェア製品は一括だと数千万円程度だが、クラウドサービスなら月額14万5000円から(実際には50万〜60万円)に敷居が下がり、さらに資産計上せずに経費処理ができるようになる。
ただし、これらはどちらかと言えば後付けの理由。「米国では2006年からクラウドサービスを提供している。一方、日本でも企業の80%が何らかのクラウドサービスを利用しているデータがあり、その比率は今後も高まっていく。2017年にはクラウドサービスの市場規模が17兆円になるという数字もある。その意味では満を持しての投入だ」(インフォマティカ・ジャパンの吉田浩生社長)。これらの数字の是非はさておき、ベンダーとして必然だったというわけだ。
一方、例えばオンプレミスのデータをSaaS(Software as a Service)に送る場合、Informatica Cloudを経由することは、セキュリティ面で必ずしも好ましくないはず。この点はどうなのか?
これに対する回答を示したのが図1だ。クラウド側で実施するのは連携のための定義や設定まで。実データのやりとりは、ユーザー企業に設置する「Secure Agentサーバー」を介してクラウド上のアプリケーションとオンプレミスのシステムが直接実行する。つまり実際の実データ転送はInformatica Cloudを経由しない。セキュリティやデータ転送性能に関わる問題を回避する仕組みになっているわけだ。
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ただ、Informatica Cloudを利用するにはSecure Agentサーバーの導入が前提になる。それに伴うITインフラの調達や設計が当然必要になる。クラウドサービスと考えれば中途半端な印象もあるが、現実的な仕組みと言えるだろう。すべてがクラウドで完結するわけではないという意味も含めて、同社はこれを「ハイブリッドアーキテクチャー」と称している。なおクラウド上にある複数のアプリケーションを連携させる場合は当然ながら、同サーバーを置く必要はない。