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[飛び出せ!IT部門]

全体俯瞰してみよう!─PgM(プログラムマネジメント)実践の要諦:第5回

2015年12月16日(水)福田 洋平(アビームコンサルティング)

前回までは、「攻めのIT」を推進する上でのキーワードのうち「接点強化」について、その重要性や具体的な施策を4回にわたって紹介してきた。「攻めのIT」を推進するIT部門に生まれ変わるために必要な考え方や、IT部門が「カスタマーである経営層」や「ユーザーである業務部門」と積極的にコミュニケーションを取ることの必要性、そしてIT企画を生み出すうえでサービスデスクが担う役割などをご理解いただけただろう。今回は「攻めのIT」を推進するためのもう一つのキーワードである「全体俯瞰」について、「接点強化」を担う人材や時間を捻出するための考え方と具体的な取り組みについて事例を交えて紹介する。

 一言「全体俯瞰してみよう」と言われ、あなたは「それができたら苦労しないよ」と思ったかもしれない。そもそも「全体俯瞰」できているイメージさえ湧かないかもしれない。「全体俯瞰」とは言葉の通り、端から端まで(=全体)を高い所から見下ろすこと(=俯瞰)であり、ディテールよりも状況を漏れなく大局で把握することが重要である。「木を見て森を見ず」という表現があるが、「森を見て木は後で」といったイメージである。

 「全体俯瞰」実現のための一歩踏み込んだ現実解として、PgM(プログラムマネジメント)やSLM(サービスレベルマネジメント)の整備・運用があり、これらの実行により視界は広がり、全体把握が可能になることで、今まで気付かなかった改善のポイントやヒントを得ることもできる。「攻めのIT」によりビジネスをリードするIT部門に生まれ変わるためのベースを、「全体俯瞰」で構築することが可能なのである。

PgM(プログラムマネジメント)

 IT部門が担う3つの領域(企画・導入・保守運用)のうち、特に導入フェーズに対する「全体俯瞰」の有効な手法として、「PgM(プログラムマネジメント)」がある。プログラムマネジメントを端的に言えば「複数プロジェクトの同時並行的マネジメント」である。具体的には「個々にマネジメントすることでは得られない成果価値を実現するため、依存関係のある複数プロジェクトを「プログラム」として扱い、調和を保ちつつ一元的に統括管理する」ことであり、“プロジェクト間依存関係”“複合成果価値”“統括管理”という言葉がキーになる。

 例えば「IT戦略の実現」のように個々のプロジェクトの複合的な成果によってもたらされる、より大きな成果の達成をマネジメントすることに適した手法である。
実際、プログラムマネジメントを導入している企業のうち多くの企業が「経営戦略」を支える「IT戦略」を実現するための手法としてプログラムマネジメントを導入してきており、そのプログラムマネジメント導入自体が競争優位や成長をもたらす「攻めのIT」と言える。

 プログラムマネジメントの導入効果として、以下の3つを挙げることができる。

  1.  レポーティングスキル・品質の大幅向上
  2.  1.による判断の迅速化・適正化
  3.  1.と2.により業務が円滑に進むことによる余力の創出(コア業務へのシフト)

 各効果の詳細については後述するが、これらの効果を実現することにより、これまで述べてきた「IT部門が現場に飛び出していく」ための基盤が構築され、「攻めのIT」へ強力にシフトしていくことが可能となるのである。

 ここまで簡単にプログラムマネジメントの概念について触れたものの、正直皆さんは「PgM(プログラムマネジメント)」と聞いて、「またなにかバズワードが出てきた」と思ったかもしれない。実際のところプログラムマネジメント自体はPMI(プロジェクトマネジメント協会)が2006年に「プログラムマネジメント標準」を発表した歴史のあるマネジメント手法であるが、現実は、まだITの世界での市民権を得られていない状況だと考える。

 例えば、ある企業でPGMO(プログラムマネジメントオフィス)を立ち上げてプログラムマネジメントを導入した際の経験であるが、「プログラムマネジメントによって関連ある複数プロジェクトを管理して、IT戦略を実現しましょう」と現場の担当者に説明した際、「プログラムって何?」「プロジェクトマネジメントと何が違うの?」といった回答を頂くことがほとんどであった。中には構成管理ツールを用いたプログラム資源の管理のことだと勘違いする人もいた。CIOを含む経営層が適切な判断をおこなえるよう、現場の担当者が複数プロジェクトの状況を総合的に報告し適切な経営判断を仰ぐといった、重要な役割を担うプログラムマネジメントだが、実際の理解はまだ進んでいない。

 このように知名度の低いプログラムマネジメントを導入し安定運営を実現するにあたっては、「理解の壁」「組織の壁」「実行の壁」「定着の壁」の大きな4つの壁がある。

図1 プログラムマネジメント 安定運営に向けた4つの壁
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 「理解の壁」についての例は前述した通りであるが、組織面でもプロジェクトマネジメントと比較して関連する組織が多く、各プロジェクトにも個々の成功責任があるという中で、会社の限られたリソース(ヒト、モノ、カネ)の取り合いによる利害関係が発生する。こういったことが「組織の壁」として大きく立ちはだかるのである。このようなプログラムマネジメントならではの難しさが、続く「実行の壁」「定着の壁」をも非常に高いものとするのである。

 これらの4つの壁を越えていくために、共通して重要なことが「説明を尽くす」「効率化を同時に実現する」ことである。

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