企画書、メール、電話、会議、顧客アポイント、出張、報告書、伝票処理、経費精算、有給申請……。実にさまざまな「仕事」を日々効率よくこなすのにはどうしたらよいか? 業種や職種を問わず、だれもが必ず「働き方」の問題に突き当たるはず。そんな当たり前にして永遠のテーマを、ベストセラー『「働き方」の教科書』の著者でライフネット生命保険・代表取締役会長の出口治明氏に、組織で取り組むワークスタイル変革と合わせ、とことん語ってもらった。(聞き手・構成:河原 潤 写真:池辺紗也子)

個人のモチベーションを上げて組織をワークさせる

――50代最強説のこと、もっとお聞きしたいところですが、少しずつ本題に入っていきますね。個人が組織で働くことについて、経営者のお立場ではどんな観点をお持ちなのですか。

出口氏:そうですね、組織でマネジメントを担う者、社長から部長、課長、係長まですべてに通じることとして、最初にリーダーにとっての落とし穴の話をしましょう。

 「リーダーの自分がこんなにがんばっているのに、組織の中で横を向いている人間がいるのが許せない」。そう思ってしまうのが、陥りがちな一番の誤解ですね。なぜなら、どのような組織でもだいたい「2:6:2」ですから(図1)。2割が会社で一所懸命働き、6割はまあまあ。残り2割は横を向いている。だから、僕はいつもこう言っています。「こんなに一所懸命がんばっている自分に部下がついてこないのは変だと思うリーダーは、つまり人間をよく知らないのだ」と。2:6:2を前提に、組織を巧みにワークさせるのが会社のトップやリーダーの役目なのです。

図1:「2:6:2」の法則

 もう1つ、人間はものすごく単純な動物で、どんなときにがんばるのかって言えば、楽しいときにこそがんばる動物です。以前、熊本県八代市にある小さな会社に講演しに行ったときの話です。その会社の就業時間後に講演して、質疑応答が終わったら、もう東京に帰れない時間になっていました。そこで、金曜の夜ですし、残ってくれた社員の皆さんとビールをご一緒しました。

 平均で30歳弱の若い会社で、勉強会の後はよく酒盛りをするそうです。お酒が進むと、数人が口を揃えて言い出したのです。「この時間になると、憂鬱になる」と。金曜日の夜9時、翌日から2日間はお休みなのに。

――えーっ、その時間は1週間で一番ホッとしたり、ウキウキしたりする時間じゃないですか?

出口氏:変でしょう? 彼らに聞いてみたら次のような返答がありました。「出口さん、ウチの会社は人間動物園と言われています。社員がみんなめちゃくちゃ面白い変なやつばかりで、金曜の夜になると、こんなに楽しい仲間と2日間も会えないと思うと、どうしても気が滅入ってしまうのです……」と。

 人間は単純な動物なので、会社が面白くて、面白い社員がたくさん集まってきたら、皆、楽しく働くのです。横を向いていた社員も、何か面白そうだなと思ってバリバリ働き出すんですよ。

――そうなると、ワークスタイル変革のはじめの一歩は、社員をそういう楽しい気持ちにさせる組織体にしていくことになりますね。

出口氏:そうです。まず会社のトップや上司が自ら楽しく働くことを実践してみせて、はじめて社員、部下もついてくるのです。「私の上司はいつもあんなに楽しそうだから、この先昇進したら、きっと楽しいことがあるに違いない」と思わせることができれば、ほとんど成功したも同然です。