IoTと基幹システム、あるいは業務遂行をサポートするシステムを連携させることで、ビジネスの多くを可視化・自動化する。同時に製品中心(Product Centric)からサービス中心(Service Centric)の事業モデルに軸足を移す−−。製造業やB2Bのサービス業に強みを持つスウェーデンのERPベンダー、IFSが開催した「IFS World Conference2016」の内容を要約するとこうなる。先行きが見通せない今日において、「デジタルツイン」と「サービタイゼーション(サービス化)」が鍵になるという認識だ。
「ビジネスをアジャイルにする必要がある。それに向けたステップは4つある(図4)。最初の2つは(1)デバイスやアセットの接続、(2)得られた大量の生データの観察を通じたディスカバリだ。PoCか実践かは別にして取り組んでいる企業は多いが、これらのステップはビジネス価値を生み出さない。だから(3)オペレーションへの反映、計画とアクション、そして(4)ビジネスの最適化が必要になる。これらこそがIoTのポテンシャルだ。IoT BCは、(3)と(4)のステップを可能にする」

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このとき、同氏が「デジタルツインのリファレンスアーキテクチャー」と呼んで示したのが図5。IoTデバイスの接続やデータ収集、分析には、豊富にある外部のサービスを利用する想定である。図5ではMicrosoft Azure IoT Suiteで監視やデータ収集を実行し、やはりMicrosoftのPowerBIやAzure Machine Learningを使って分析・処理する。必要なデータだけをIoT Controller経由でアセット管理やフィールドサービス管理モジュールに送る。各種のIoTデバイスとの接続や膨大になるデータのハンドリングを、外部サービスに任せる点で合理的なアプローチだ。

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すでにIoT BCの初期導入ユーザーが複数存在することもアピールした。石油探査大手の英Songa Offshoreは掘削リグの予防保全とプラント保守業務に、害虫駆除専門のスウェーデンAnticimexは害虫や害獣を捕獲するカゴの状況把握と回収、バッテリー交換といったオペレーションに、それぞれIoTを役立てている。工場専門の保守およびIT機器サービス企業である米ATSは「顧客に高レベルのサービスを提供するために導入した」。日本では知名度ゼロに等しいこうした企業が、少なくとも4つのステップの(3)を実践しつつあることに着目すべきだろう。
事業モデルと複雑なオペレーションの実行をサポート
森の中を走る送電線の模型を使ったIoTのデモも、講演と展示会場で実施した(写真3)。人が簡単に近づけない場所でも、ドローンを使ってGPSと画像認識により障害部位を特定。IoT BCを介してIFS Applicationsに情報を送り、保守要員を派遣するストーリーである。デモそのものは想定の範囲内だが、補修に使う工具や必要な部品を3Dプリンターで製造したり、AR(拡張現実)を組み合わせたりと手が込んでいた。デモを作成したのは消費者向け技術のビジネス応用を研究するIFS Labという社内研究機関である。

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それでもIoT BCだけなら、ERPベンダーが年次カンファレンスで発表する新機能としては迫力に欠ける。IFSは今回、もう1つのソリューション「IFS Enterprise Operation Intelligence(EOI)」を発表している(図6)。詳細は別掲記事で示したが、簡単に言えば、予め作成しておいた事業のモデルと様々な制約や業務ルール、それにIoTやERPなどから得る各種データをもとに複雑な条件を満たす必要のある業務実行をサポートするソフトウェアである。

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IoT BCやERP(IFS9)とEOIを連携させることで、現場の設備や機器の状況を把握し(IoT)、その部品や設備の状況(製造年月や在庫の有無など)を把握し(ERP)、What-if分析などで解決のプロセスを策定(EOI)して実行することが可能になる。実用性の高い業務モデルを作成するのは難度が高いと思えるが、デジタルツインやサービタイゼーションといった概念を具現化するのに欠かせないピースの1つだろう。
(後編に続く)