クラウド活用ですら十分にできないのにビッグデータやIoT、AIなんてとんでもない。何よりも時期尚早であり、今取り組んでも苦労するだけ−−。こう考えるITリーダーは少なからずいるのではないだろうか?それに対し「今すぐに取り組むべき」という主張がある。2000年以前の考え方やアプローチでは、2000年以降の指数社会を生き残れないというものだ。
もっともこれだけだと、ナカシマプロペラの生き残り策であり、どんな製造業にも通じるわけではない。しかも単にIoTやAI活用にも聞こえる。そこで最後に久保氏は図11を提唱する。「日本の“ものづくり”や、それに懸ける“こだわり”は素晴らしい。日本の文化的要素が詰まっている。しかし、これだけではグローバルに通用するパワーとして見ると不十分。日本企業が磨いてきた独自の価値を“ソース”とし、それを世界に通用するように"コード"にすることが重要だ」。
拡大画像表示
少し分かりにくいが、久保氏はこんな例を挙げる。「iPhone7の新色であるジェットブラックは日本の漆に似ている。現在のアップルが、そこからヒントを得たのかどうかはともかく、iPodの鏡面加工もそうだ」。つまり日本では普通のことであるがゆえに日本企業は価値を見出さず、むしろ海外に合わせようとする。結果、例えば製造業には欠かせないCAD/CAEソフトウェアなどは、ほぼ海外製品が席巻してしまった。IoTやAI、あるいは自動運転などのテクノロジーも、海外を後追いするだけだと同じ道を辿るかも知れない。
そうではなくIoTやAIを活用する場合でも、そこに日本ならではの価値を盛り込むべきというストーリーだ。単純にビッグデータに頼るのではなく、例えば職人の技をデータ化し、付加価値をつけていくといった論理だろう。「日本の職人は1ミクロン以下の微細な凹凸やゆがみを認識する。デジタルやロボットは点と点を直線で結ぶが、職人は曲線で読み取る(図12)。こうした技をコード化できれば強みになる。しかし個別の企業では、なかなか上手くできない。国のレベルで取り組むべきことだ」
拡大画像表示
「日本のオリジナリティをコード化する」という論理は少々難解だし、そう簡単に実現できるものではないにせよ、だからこそ検討する価値はあると思える。何よりもIoTやAI、そして、その先に出現する技術の活用において「オリジナリティを盛り込む」という発想は、とても重要である。