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[技術解説]

待ったなしのモバイルワーク改革を支えるEMM

機動力と安全性の両立に向けて

2017年2月28日(火)森 英幸(IT Leaders編集部)

昨今、声高に叫ばれている働き方改革。その目的は、労働時間の短縮やワークライフバランスの実現にあるが、それを実現するうえで鍵となるのがモバイルワークへの対応だ。そこで急速に重要性をましているのが、EMM(エンタープライズモビリティ管理)と呼ばれるソリューションである。本稿では、このEMMの役割について改めて説明したい。

スマートデバイスとBYOD前提の管理基盤

  モバイルワークへの対応がなぜ働き方改革で重要なのかは、あらためて論じるまでもないだろう。オフィスに行かないと必要な社内リソースにアクセスできないようでは、外出時の業務活動が制限されるし、在宅勤務などの柔軟な勤務形態にも対応できないからだ。

  例えば進行中の商談で「在庫は確保できるのか、正確な納期はいつになるか、これ以上の値引きは可能か?」と顧客から問われた際、「社に戻って確認すると共に上司に相談し、改めてご報告します」といったような悠長な対応は、多くのライバルと競っている状況下では許されない。他社が正確な情報や好条件をすぐさま提示して詳細を詰め、その商談をものにしてしまうかもしれないからだ。

 また、従業員が備える力をいかんなく発揮してもらうという観点に立てば、育児や介護などにあたらなければならない事情があっても、その人に合った時間配分で仕事に集中できる環境を整えることが欠かせない。いわゆるワークライフバランスを支援することは、これからの企業にとっては重要なミッションである。

 昨今のモバイル関連テクノロジーの動向、とりわけスマートデバイスや通信技術などの進化に照らせば、柔軟性や機動性に富んだ業務環境を築くことの敷居はぐっと下がってきていると言える。いつでもどこからでも必要なリソースが利用できるようにすることが身近となり、結果として、社員の無駄な時間を削減したり、ビジネスのスピードを高めたりといったメリットを享受しやすくなっているのだ。

 もっとも、モバイルワークの基盤整備の実務を担うIT部門にとっての悩みは尽きないとの声も聞こえてくる。何しろ、情報漏洩などの事件をひとたび引き起こせば社会からの信用を一気に失墜してしまうご時世だ。管理対象が、PCに加えてスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスに広がるとなれば機種やOSのバージョンを統制しにくくなるし、そうした複雑な状況下でも確固としたセキュリティ対策を講じていかなければならない。

 BYOD(個人所有端末の業務利用)という世界的なトレンドに対しても、「使い慣れた端末の利用を許可することで社員の生産性は確実に高まる」と理解し、できれば対応すべきだと認識しつつも、懸念されるリスクを前にして二の足を踏み先送りにしている例も少なからずあるようだ。

 従業員にとっての利便性や生産性の向上、会社という組織としてのリスクの低減。ともすれば相反するととらえがちな要件をどのように両立していけばよいのか──。ここで、モバイルを軸とするワークスタイル変革に積極的な企業が熱い視線を注ぎ、導入にも弾みがついている代表的ソリューションの1つが「エンタープライズモビリティ管理(EMM)」だ。以下では、その概要について見てみよう。 

EMMを構成する3つの要素

EMMソリューションの3つの構成要素

 EMMに分類されるソリューションはさまざまなものがあるが、代表的なものとしては「MobileIron」や「XenMobile」などがあり、大抵のEMMソリューションは「デバイス」「アプリケーション」「コンテンツ」の3つの管理機能を提供する。

●MDM(モバイルデバイス管理)

デバイスの登録と削除やデバイス機能(位置情報やカメラなど)の制限などをセキュリティポリシーに従って適用する。

●MAM(モバイルアプリケーション管理)

アプリケーションの配信や利用できるアプリケーションの制限、アプリケーション・データの管理といった機能を提供する。

●MCM(モバイルコンテンツ管理)

ファイルの同期や共有など、業務コンテンツへのアクセス機能を提供する。

  時系列的には、市場に最初に登場したのはMDMに分類されるソリューションだ。MDM製品の対象範囲がアプリケーションやコンテンツに拡大していった結果、機能をMDM、MAM、MCMの3つに分解・整理し、それらを束ねる上位の枠組みとしてEMMが定義されたという格好になっている。EMMは登場して間もない用語であり、ベンダーによっては用語としてMDMを使い続けていることもある

  現在のEMMソリューションは当然ながらBYODを視野に入れて開発されており、技術的にはコンテナを利用しているケースが多い。アプリケーションとそのデータをコンテナに格納することで、社員が個人的に利用しているアプリケーションからアクセスできないように分離し、業務データを保護するわけだ。

 その他にも様々な機能を実装することで、ユーザーには違和感なくアプリケーションを解放しつつ、その一方で、業務データを安全かつ厳格に管理することを可能としている。スマートデバイスは機種もOSも頻繁に新しいものが登場するが、EMMソリューションベンダーはいずれも最新環境へのキャッチアップに余念がなく、企業も安心して使えるのが特徴だ。

 IT専門の調査会社であるIDC Japanは、国内のEMMソリューション市場が堅調に推移すると予測している。具体的には、2015年に約97億円の水準だったものが、2016年には121億円、2020年には232億円の規模にまで拡大するというものだ(詳細についてはIDC Japanのリリースを参照)。今後、働き方改革に乗り出す企業が増え、その多くがモバイルワークに照準を合わせることは間違いないだろう。これに伴い、EMM採用の事例も続々と出てくると思われる。

 オフィスの端末がPCしかなかった時代、クライアント管理はWindowsネットワークのドメインコントローラー(Active Directoryサーバー)だけで済んでいた。セキュリティ対策もエンドポイントのマルウェア対策とネットワークの出入り口をファイアウォールで固めるくらいで十分という時代があった。初代のiPhoneが2007年に登場して10年、スマートデバイスは企業の業務の奥深くまで浸透しつつあり、旧世代のデバイス管理・セキュリティ対策は通用しなくなっている。働き方改革を掛け声だけで終わらせないためには、モバイルを前提にIT戦略を立て直すべきだろう。

関連キーワード

BYOD / クライアント管理 / MobileIron / XenDesktop / スマートフォン / タブレット / ノートPC

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