人間が手作業で行っているPC操作を、ソフトウェアロボットによって自動化するRPA(Robotic Process Automation)は、この1年でにわかに注目を集めるようになったITキーワードだ。注目を集めるだけでなく、実際の導入も急速に進んでいるという。本稿では、RPAツールの導入支援を数多く行うアビームコンサルティングの安部慶喜氏による講演をもとに、RPAの市場拡大の背景と、導入時のポイントを論じてみたい。

時短圧力の高まりがRPA導入を後押し

アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル 戦略ビジネスユニット 安部慶喜氏アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル 戦略ビジネスユニット 安部慶喜氏

 本稿で紹介する安部慶喜氏の講演は、今年7月の「RPA Summit 2017」(主催:一般社団法人日本RPA協会)で行われたもの。講演の冒頭、安部氏は「RPAの特徴は“システムとシステムを繋ぐ”ことができること」と、あらためて強調した。

 これまでも自動化ツールは企業で使われてきたが、その多くはアプリケーション内部に閉じられたものだった。身近なところでは、VBAで作られたExcelマクロがその代表例と言えるだろう。これに対し、RPAツールは複数のアプリケーションを横断する一連の作業を自動化することができる。

 例えば、メールで届いた情報をExcel上で整形し、ある程度まとまったらCSV形式で出力、業務システムに登録する、といった作業があるとしよう。Excelマクロは情報の整形とCSV出力の部分しか自動化できないが、RPAツールなら最初から最後まで自動化できる。

 確かに画期的ではあるが、それだけで現在のRPAブームとも呼べるような市場の盛り上がりを説明できるわけではない。その背景には、歪んだかたちで進行する日本の働き方改革があると、阿部氏は指摘する。

 「2015年、日本政府は15年後の2030年にGDPを1.6倍にするという目標を掲げたが、一方で労働人口は0.9倍に減る。1人当たりのGDPは1.8倍ということで、生産性を約2倍にしなければならない。この目標は、単純な効率化だけでは達成することは不可能であり、企業にはより付加価値の高い新規事業の開発など、イノベーションの創出が求められている」(阿部氏)。

 生産性の向上は、働き方改革の大きな目的の1つであるが、同時に労働時間の短縮やワークライフバランスの実現など、他の目的を実現するための前提条件でもある。ところが、過酷な長時間労働による自殺といった不幸な事件があったこともあり、日本では生産性の向上策が不十分なままに、時短圧力が高まってしまった。

 「ここ数年で、労働時間に対する考え方は大きく変わり、多くの企業では残業が厳しく制限されている。20年前、『24時間戦えますか』という言葉が流行ったのと同じ国とは思えないほどだ。ところが、時短が先行した結果どうなったか。労働時間に含まれる日常業務に費やされる時間は減らず、創造的な作業の時間が減ってしまった。イノベーションの創出とは真逆の方向に進んでしまったわけだ」(阿部氏)。

 こうした歪んだ状態を正すには、日常業務の作業時間を大幅に減らす必要がある。このニーズにうまくはまったのが、RPAの急速な市場拡大の理由だという。

ロングテールの小粒業務をRPAで自動化

 それでは、企業はどんな業務からRPAによる自動化を進めればよいのだろうか。

 RPAによる自動化は、主に金融業界のバックオフィス業務から始まったが、現在では多種多様な業界で、バックオフィス/フロントオフィスの区別なく導入が進んでいるという。

 そこで阿部氏は、「比較的低コスト(数百万レベルから)で導入でき、既存システムへの影響が少なく、仕様変更に柔軟に対応できる」というRPAの特徴から、業務量の比較的少ない多様な小粒業務への適用を提案する。

 「企業内の業務を、作業量を基準に並べたとき、量の多い業務はすでに自動化されていることが多い。だが、作業量の比較的少ない小粒業務は、費用対効果の面から従来型のシステム開発による自動化が難しく、手作業による人海戦術で行われていることが多い。少量多品種の小粒業務は、ホワイトカラーの生産性を低下させる要因となっており、RPAによる自動化が最も効果を発揮する領域だ」(阿部氏)。

低コストで導入できるRPAは、少量多品種の小粒業務の自動化に適している低コストで導入できるRPAは、少量多品種の小粒業務の自動化に適している
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