人間が手作業で行っているPC操作を、ソフトウェアロボットによって自動化するRPA(Robotic Process Automation)は、この1年でにわかに注目を集めるようになったITキーワードだ。注目を集めるだけでなく、実際の導入も急速に進んでいるという。本稿では、RPAツールの導入支援を数多く行うアビームコンサルティングの安部慶喜氏による講演をもとに、RPAの市場拡大の背景と、導入時のポイントを論じてみたい。

RPA導入のポイントを失敗事例から学ぶ

 RPAは、定形作業であれば、業界や業務内容を問わずに適用することができる。また、導入リードタイムも1~2か月と短期間であり、導入企業の97%が適用業務の作業量を5割以上削減できているという。

 だが、RPAへの取り組みが容易というわけではない。自社だけで取り組みを進めようとしたが、立ち行かなくなってコンサルティング会社に相談してくるケースもある。阿部氏は、そうした失敗事例から導き出されたRPA導入時のポイントとして、以下の3つを挙げた。

(A) 机上の検討に時間を掛けすぎないこと

 机上検討にどんなに時間を掛けても、想定外のことは発生する。検討に時間とコストを掛けた結果、社内の反発が強まり、プロジェクトが頓挫することもある。

(B) 業務部門とIT部門が一体で取り組むこと

 業務部門だけで導入すると、ガバナンスの効かない野良ロボットが発生しかねない。また、IT部門だけで開発すると、業務で使い物にならないロボットになる恐れが高い。

(C) 導入後の運用ルール・体制を決めておくこと

 運用ルール・体制の検討が不十分なまま導入を進めると、業務部門でも統制の取れない野良ロボットが作られる可能性がある。RPAツールを使えば、社内情報を収集するようなロボットも簡単に作れてしまう。ロボットをきちんと管理するためのルールと体制が必要だ。

RPA導入の主な失敗原因とその内容。これの裏返しが導入時に注意すべきポイントになるRPA導入の主な失敗原因とその内容。これの裏返しが導入時に注意すべきポイントになる
拡大画像表示

 このうち、(B)の業務部門とIT部門の役割分担については、次の2パターンがあるという。

(1) 業務部門と連携しつつ、開発はIT部門主体で行い、運用は業務部門が行う
(2) 開発も運用も業務部門主体で行い、IT部門はガバナンスに徹する

 阿部氏によると、IT部門主体で開発・導入を進めるケースが主流だが、業務部門との役割分担を志向する企業も一定数あるという。

RPA導入・運用における業務部門とIT部門の役割分担RPA導入・運用における業務部門とIT部門の役割分担
拡大画像表示

 確かに「業務プロセスの変更に柔軟に対応できる」というRPAの長所を最大限引き出すうえでは、業務部門主体で開発・運用を行うほうが有利だ。最初はIT部門主体で導入を進める場合でも、並行して業務スタッフのトレーニングを行い、徐々に業務部門主体の体制に移していくのが良さそうだ。

 最後に、阿部氏はRPAの将来像と人間の働き方について次のように語り、講演を締めくくった。

 「今後のRPAは、人工知能やIoTなどとの連携を強め、仮想知的労働者(デジタルレイバー)へと進化し、より広範囲な作業が行えるようになる。企業のあらゆる業務にデジタルレイバーが入り込むようになったときに、人間に求められる役割は、『高度な機能スペシャリスト』、『クリエイティブな事業推進者』、『プロセスイノベーター』の3タイプになるだろう。このうち、プロセスイノベーターは、RPAやAIを操って業務プロセスをデザインする新しい職業だ」(阿部氏)。

RPAが発達してデジタルレイバープラットフォームを形成した将来における人間の役割RPAが発達してデジタルレイバープラットフォームを形成した将来における人間の役割
拡大画像表示

 デジタルトランスフォーメーションへ向けた模索が企業で進められるなか、IT人材の不足は各所で叫ばれているが、RPA技術者も爆発的な需要の拡大に追いついていない。企業が全社規模での導入を見据えてRPAに取り組むのであれば、外部の支援企業に頼るだけでなく、人材育成も急ぐべきだろう。