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[イベントレポート]

官公庁が始めるDevOpsへの道─特許庁、知財デューデリジェンス標準手順書のオープン検証基盤にGitHubを採用

2017年11月22日(水)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)

特許庁は11月21日、企業が事業提携や企業買収などの意思決定を行う際に必要となる知的財産活動に関する調査(知的財産デューデリジェンス、以下"知財DD")の標準手順書を策定するため、その議論のプラットフォームとしてGitHubをベースにしたオープン検証事業「SKIPDD」を行うことを発表した。検証期間は11月21日から12月28日まで。特許庁 総務部 企画調査課 法制専門官 足立昌聡氏は「専門性と高いコスト、複雑な手続きを要する知財DDの世界にGitHubというオープンなプラットフォームを持ち込むことで、ユーザー間で活発でオープンな議論が行われることを期待している」と語り、官公庁によるソフトウェア開発以外でのGitHub活用事例として注目される。

e-GovではなくGitHubの訳

 日本にはすでに、法令やガイドラインを作成する際に国民から広く意見を募集するプラットフォームとして電子政府「e-Gov(イーガブ)」がある。しかしe-Govは原則的に意見公募は1回のみで、意見を提出する者は住所や電話番号といった個人情報の提出を義務付けられる。有識者による審議会での議論など重厚な手続きを前提としてるため、結果はオーソライズされたものとなるが、あくまで一方向性のプラットフォームであり、柔軟で活発な議論を呼ぶにはほど遠い。昨今の買収案件に見られるような民間企業とスタートアップをつなぐ"軽い"やり取りには不向きであり、「もっと軽く、しかも双方向にやり取りできる、ローコストな知財DD標準化のためのプラットフォームが必要」(足立氏)と判断したという。

(写真4)特許庁 足立昌聡氏

 知財DDの一般化を目指す特許庁がプラットフォームとしてこだわったのがオープンソースのバージョン管理システムである「Git」だった。オープンであること、インタラクティブな議論を促進できる基盤であることを重視したという。足立氏は「今回のプラットフォーム構築にあたってはGitで調達することは外せない条件だった。Gitベースであれば、意見をユーザ間で双方向にやり取りしながらガイドラインを開発することが可能になる。さらに従来のウォーターフォール型の行政ガイドラインの制定ではなく、DevOpsの考え方を適用することも重要だった」と語っており、その条件のもとで受託企業を公募、その結果、GitHubによるプラットフォーム構築を提案したNTTデータ経営研究所が選ばれている。

(写真5)特許庁が議論の検証基盤にGitを選んだ理由。ポイントはオープン性と透明性、そして双方向性を担保するプラットフォームであること

 SKIPDDでは検証期間終了後、できあがったガイドライン(標準手順書)をCreative Commonsのもとでオープンに公開することを予定している。これについて足立氏は「結果をオープンにすることで、知財DDに関する議論を活発にし、一般化する方向に向かってくれればいいと思っている。今回の結果を受けて知財DDのガイドラインに関する"亜種"が生まれることをむしろ我々は期待している」と語っており、SKIPDDを国内における知財DD発展のためのスタートラインと位置づけている印象だ。

 今回の検証事業のポイントは大きく2つある。ひとつは特許庁という国の組織がGitHubというオープンなプラットフォームを使ってパブリックコメントを募集すること、もうひとつはソフトウェア開発以外の目的でのGitHubを活用事例という点だ。いずれも米国では拡がりつつあるケースで、10月に米サンフランシスコで行われたGitHubの年次カンファレンス「GitHub Universe」においても数多くの非開発者向けの事例が発表されている。知財DDという専門性の高い分野をソーシャルコーディングの思想でもってサポートするという意味でも、また組織や業界の壁を超えたDevOps的なコミュニケーションを官公庁がスタートするという意味でも、これまでにないプロジェクトだといえる。1カ月という比較的短い検証期間でどんな知財DDガイドラインができあがるのか、引き続き注目していきたい。

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