[市場動向]
ビジネスのデジタル化時代にSD-WANサービスが担う役割とは?
2017年11月30日(木)工藤 淳(フリーランスライター)
激しい市場の変化やグローバル化を背景に、ICTを活用した新たなビジネス創造が求められる中、デジタルトランスフォーメーションの重要なインフラとなるのが、よりパワフルでセキュアなネットワークだとKDDIは主張する。では、2017年10月に同社が発表した新しい法人向けネットワークソリューション「KDDI SD-Network Platform」は、新事業にチャレンジする企業にどのような価値を提供するのだろうか。
急速なデジタル化の中で「ビジネスの成長を牽引するIT」が求められている
新サービスの記者発表会に登壇した、ソリューション事業本部 ソリューション事業企画本部 副本部長 兼 クラウドサービス企画部長 藤井彰人氏は、現在我が国の企業にとって最も重要な課題はデジタルトランスフォーメーションだと語る。
「KDDIでは数多くのお客様との対話を通じて、日本の企業が直面する経営課題を探ってきました。その結果、全体の約3割の企業がイノベーションの実現方法としてテクノロジーの活用による新しい事業の創造を挙げていることが分かりました」(藤井氏)。
急速に進むデジタル化の波は、企業の成長戦略のあり方も大きく変えた。かつては業界の中で競合他社との差異化を考えていれば済んだが、今日ではまったく畑違いの領域から業界の商慣習などにとらわれない新たなプレーヤーが参入してくることも念頭に置かなければならない。
デジタルを活用したビジネスが当たり前になってくると、今度はデリバリーのあり方が重要になってくる。つまり、その製品・サービスをどう販売し、どのように届けるか、また顧客からのフィードバックをどうやって受け取るのか。ビジネスそのものに加えて、事業を取り巻く仕組み全体を視野に入れ、トータルで差別化を図る必要があると藤井氏は指摘する。
「そうした意味で、今後は自社のビジネスの成長を直接牽引してゆく“ビジネスIT”の重要性がさらに増していくでしょう。その変化に対する危機感が、イノベーションを最重要課題と位置づける企業の増加につながっていると見ています」(藤井氏)。
刻々と変化する市場のスピードに負けない、パワフルなSD-WANが登場
藤井氏は、企業がデジタルトランスフォーメーションを進める上で重視すべきポイントとして、「小さく」、「早く」、「トライ&エラー」という3つのキーワードを挙げる。
「具体的なプロジェクトを立ち上げるのも、これまでのように数年がかりで準備していては世の中が変わってしまいます。小さな規模で誰よりも早く立ち上げ、失敗体験や顧客の意見を即座に取り込みながら製品やサービスを最適化していくサイクルを、できるだけ速いスピードで繰り返すことが競争力につながります」(藤井氏)。
今回発表されたSD-WANサービス「KDDI SD-Network Platform」は、そうしたイノベーションを支えるのに十分なパワフルさと柔軟性を兼ね備え、コスト性にも優れたサービスだと藤井氏は強調する。
「刻々と変化するお客様のビジネスに負けないスピードで、ネットワークの側が積極的に変わってゆくことが、デジタルトランスフォーメーションを次のステージに進める力になるとKDDIでは確信しています。新サービスでは、クラウド活用によるテクノロジーのパーツ化や、サブスクリプション(従量課金)モデルを採用したのも、そうした理由からです」と藤井氏。
この結果、ユーザーはその時々に必要な技術だけを自由に選択できるようになる。またクラウドを使った時間分だけの課金なので、成功が未知数のプロジェクトのために、高価なサーバーやソフトウェアを購入する必要もない。
「このSD-WANの他にも、KDDIではお客様のビジネスの価値を高めるモバイルネットワークやポータブルクラウドなど、多彩なICT基盤を継続的にリリースしていく予定です。こうした一連の取り組みを通じて、お客様のビジネス創造の挑戦を全力で支えていきたいと願っています」(藤井氏)。
仮想化とソフトウェア制御でビジネスを加速する「KDDI SD-Network Platform」
「KDDI SD-Network Platform」は、いわゆるSD-WAN(Software Defined WAN)と呼ばれる、ソフトウェアによって制御されるWANサービスだ。ユーザー企業の拠点に「SD-BOX」という専用機器を設置して仮想化し、ソフトウェアで柔軟なネットワーク制御の仕組みを実現する。
新規申し込みはすでに2017年11月1日から始まっており、12月5日からサービス提供をスタート予定。当初は国内のみだが、準備が整い次第、日本を含む37の国および地域へグローバル展開が決まっていると、ソリューション事業本部 ソリューション事業企画本部 ネットワークサービス企画部長 梶川真宏氏は語る。
「現在、お客様のネットワーク環境は、企業内にとどまらず、インターネット経由で社内の閉域網からクラウドへと拡がり、大規模化・複雑化しています。それに伴って、トラフィックの増加によるパフォーマンス低下やシステムリソースの不足。またビジネス環境の変化にネットワークの構成がついていけないといった問題も起こり、こうした一連の課題を改善したいという声が日増しに増えています」(梶川氏)。
クラウドのビジネス利用が今後ますます拡がっていくのが確実である以上、ユーザーとクラウドを結ぶネットワークの強化・改善は必須課題だ。そうした点で、SD-WANは非常に有効な選択肢となる。たとえば回線容量なども、仮想化によって自由に変更できるため、一時的に膨大なトラフィックが押し寄せても即座に帯域を拡張し、高い通信品質を維持できる。また社内の組織変更や拠点追加が頻繁に行われる場合なども、そのつど最適なネットワーク構成に変更が可能だ。企業が激しい変化の時代を生き抜く上で、SD-WANは成長の力となるネットワークインフラだといえよう。
攻めのビジネスを可能にするSD-WANの3つのアドバンテージ
「KDDI SD-Network Platform」の大きな特長として、「迅速なスモールスタートが可能」、「パフォーマンスの最大化」、「クラウドの安全な活用」の3つがある。
1.迅速なスモールスタートが可能
KDDI SD-Network Platformの導入は、「SD-BOX」と呼ばれる専用機器をユーザー企業の拠点に設置すれば完了だ。SD-BOXにはネットワークに必要なハードウェアやソフトウェア、運用・監視機能、保守機能までがパッケージ化され、ユーザーは自社に必要なものだけをニーズに合わせて選択できる。このため、とりあえず最初は“お試し”的に少ない機能で始めて、必要に応じて他の機能を追加していくといった「小さく早く始められる」点が、これからSD-WANを導入してみようと考えている企業にはお勧めだ。
拡大画像表示
2.パフォーマンスの最大化
一口にトラフィックといってもメールや一般のWebアクセスのような“軽い”ものから、基幹アプリケーションや音声・ビデオデータのような“重い”ものまでさまざまだ。KDDI SD-Network Platformでは、VPNとインターネットを組み合わせ、トラフィックの“重い”、“軽い”による使い分けを始め、その時々の回線品質や混雑状況に応じて自由にルートを選択して、常に安定した高品質な通信を維持できる。
拡大画像表示
3.クラウドの安全な活用
これまでMicrosoft Office 365などのSaaSを利用している企業では、いったん自社のデータセンターのセキュリティを経由して各拠点に接続させるケースが多かった。これをSD-Network Platformでは、SaaSと拠点間を直接インターネットで接続し、トラフィック集中によるボトルネックを解消している。
また海外拠点なども含めたオープン環境向けには、シマンテックとの連携による「KDDI Security Cloud」やCASB(Cloud Access Security Broker)を提供。さまざまなクラウドサービス利用の際のセキュリティ確保や、シャドーIT対策を可能にしている。
拡大画像表示
梶川氏は、「こうしたネットワーク機能をパッケージ化したインフラとして提供するだけでなく、常にお客様の声に耳を傾け、ご要望やご指摘などをフィードバックしながら、サービス改善・追加に努める体制を整えていることも、SD-Network Platformが、他社のSD-WANと大きく異なる点です」と語る。自社のビジネスの成長に貢献する、パワフルでセキュアなネットワークを探している企業にとって、SD-Network Platformは注目に値するサービスといえよう。