インターネットイニシアティブ(IIJ)は2017年12月5日、IIJによるIoT(Internet of Things)への取り組みについて説明会を開いた。同社ユーザー企業のIoTへの取り組み事例では、PoC(概念検証)レベルでは増えているが、実際の活用はこれから。こうした中、IIJみずからIoTに取り組んでいる例として、農業IoT分野における水田の水管理システムについて説明した。
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「ネットワークやセキュリティや運用管理など、IoTが抱える技術的な課題はクリアになってきた。問題は、具体的な利活用シーンが乏しいことだ。既存ビジネスの延長で取り組む企業はあるが、新しい取り組みはこれからだ」――。IIJのクラウド本部クラウドサービス2部ビッグデータ技術課長の岡田晋介氏は、IoT事例の現状をこう俯瞰する。
IoTのシステム構築案件は新たな試みであるため、PoCが依然として多く、実際の活用にはまだ至っていない。IIJに相談を持ち掛けるユーザー企業の部門も、これまでのような情報システム部門ではなく、現場の事業部門から問い合わせが半分を占める。こうした中、IIJみずからがIoTを活用したシステムを確立すべく、システム化の取り組みを始めている。
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IoTへの取り組みの例としてIIJは、農業分野におけるIoT事例として、水田の水位を遠隔管理する水管理システムについて詳しく説明した(関連記事:IIJ、水田の水管理コストをIoTで50%削減する実証実験)。水位が下がっている時や水温が高い時に、水を供給して水位を上げたり水温を下げたりするシステムだ。2018年4月ころに始まる田植えシーズンから実証実験を開始し、2020年3月末までの研究期間を経た後に商用化する。
みずからIoT事例として水田の水管理システムを構築
水管理システムの狙いは、水田の水管理コストを50%削減することである。水田には、水管理、農薬散布、雑草除去、田植え稲刈りという4つの作業があり、このうち水管理が、もっとも簡単な仕組みでシステム化できる分野となる。水管理は大変な作業であり、地図上でバラバラに分散している1枚1枚の水田ごとに、軽トラックなどで移動して手動で管理しているのが実態である。
水管理システムのフィールド実験では、1個1万円の水田センサー(水位および水温を計測)を300個と、1個3万円の自動給水弁(給水弁のバルブをモーターの力で回して、水を出したり止めたりする装置)を100個、水田に配置した。これらデバイスと通信する基地局として、低消費電力の無線通信規格で免許が要らないLoRaの基地局を設置した。基地局からはLTE回線を使ってクラウドに接続する。アプリケーションは、APIでクラウドにアクセスする。
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水田センサーの価格である1万円や、自動給水弁の価格である3万円は、既存のシステムに比べたら安いが、まだまだ高いと、IIJのネットワーク本部でIoT基盤開発部長を務める齋藤透氏は指摘する。「農業ITを拒む要因は、儲からないこと。水田1枚から得られる収入は10万円程度なので、ここに10万円のシステムは導入できない。IoTセンサーなどのデバイスは、数千個のレベルでは安くならない。数十万個のレベルで作らないと、量産効果が出ない」(齋藤氏)。
なお、IIJのモバイルデータ通信契約は200万回線を超えており、特にIoT用途での導入が増えている。現在は、法人向けのモバイルデータ通信用SIMの3枚に2枚がIoT用途である。用途は、IIJが実施したIoT向けモバイルデータ通信に関するユーザー調査では、監視カメラなどカメラ用途がもっとも多い。