従業員が自身の成長を実感しモチベーション高く仕事に臨める環境をいかに整えるかは、企業が持続的成長を遂げるための礎となる。もっとも、一人ひとりの思いやスキル、適性は異なるので、企業規模が大きいほどキメ細やかな人事施策が難しくなる。ここで、キャリアプランの策定や学習機会の提供にデータを最大限に活かすアプローチで注目されているのが人事クラウドサービスを展開するCornerstone OnDemandだ。同社幹部のJason Corsello氏に、人材管理を巡る昨今の市場動向や同社の戦略を聞いた。
Cornerstoneは1999年にオンライン学習(ラーニング)でスタートした企業で、ラーニングに加え、リクルーティング(採用)、パフォーマンス、コア人事と4つの製品分野でクラウドサービスを提供している。Corsello氏は同社で企業戦略・開発担当シニアバイスプレジデントを務める人物だ。顧客は3000社以上、ユーザー数は3350万人以上を数え、米国の大手小売Walgreens、ドイツの輸送物流DHLなどに加え、リコー、日立グループなども名を連ねる。
HRテックなどと言われて久しいが、Cornerstoneはどのように利用されているのか? ファストフードのWendy'sでは、一部店舗でCornerstoneのラーニングを用いて従業員にトレーニング機会を提供したところ、スキル獲得を短縮できた上、売り上げもCornerstoneを利用していない店舗より良くなるなどの成果が出たという。「Wendy'sの例は、必ずしも高度な専門性を必要とせず回転率が速いポストでも、トレーニングの機会を与えることでモチベーションが上がり、アップスキルできることを示している」という。
Corsello氏はスキルギャップの例も挙げる。「企業内であるポジションが空いたが、適したスキルをもつ社員がいない。外部から探すのは難しいことが多く、そうしたケースでは社内で育成するのが現実解。(技術を利用することで)効率よく既存社員に対してスキル開発ができる点に注目すべきだ」と指摘する。Cornerstoneでは「Skill Matrix」として提供している機能で、スキルギャップの効果的な解消を支援しているという。
例えばデータサイエンティスト。新しい職種であり慢性的に不足している状況下、その職務を担う人材を社内で育成できれば申し分ない。素養のある従業員に対して、データサイエンティストの業務内容や求められるスキルと、当人が現時点で備えている能力や技能のレベルを対比的に分かりやすく提示。今欠けているこのピースを埋めることができたら、より魅力的な人材として成長する達成感が得られるし、結果として社業にも今まで以上に貢献できることを伝えることがすべての起点となる。ここで、ラーニングソリューションでこれまで豊富な実績を積み上げてきた同社は、個々人のパフォーマンスなどのデータから最適な学習コースは何かを割り出し、提案できる。人事や直属の上司が候補となりそうな社員を見出して指示することもあれば、それぞれに最適化されたCornerstoneの個人ポータルにおすすめコースを提示し自ら学習してみようとするアプローチにも対応する。企業の規模が大きくなるほど、自社内にどんな才能が眠っているのか把握しにくくなるが、Cornerstoneはその問題を効率的に解決できるという。
このように“人財”育成に強い問題意識を持ち、どちらかというと現場で培ってきた経験則に頼りがちだった人事業務に最新テクノロジーを持ち込んで改革を図ろうという企業がCornerstoneを続々と採用している。これまで把握しきれていなかった個人のパフォーマンスやキャリアプランをデータに基づいて見える化し、従業員も会社も互いにハッピーになろうという思いが通底している。
キャリアパス、後継者育成もデータ主導で効率アップ
Corsello氏がCornerstoneの特徴としてもう一つ紹介する代表的な機能が、予測分析の「Insights」だ。クラウドサービスを提供していることから、同社には多種多様なユーザー企業の人材施策に関わる膨大なデータが個人を特定できない形で集約される。ビジネスの現場で活躍している人々の経歴や属性などを含むベストプラクティスが詰まっている宝だ。Insightsは、こうしたデータを使ってキャリア機会の可能性を予測・分析するもので、データに基づいた洞察からその人にとっての最適なキャリアパスを探し出す。
例えばプログラマーとしてキャリアをスタートした場合、シニアプログラマー、開発部門のディレクターなどとステップアップしていき、最後はCTOを目指すというのが一般的な姿だ。だが、ひょっとするとセールスに向いた能力を備えているのに本人や周囲が気が付いていないのかもしれない。様々なデータを組み合わせて分析することで、「本人が想像していないようなキャリアパス」を教えてくれることもあるという。
分析対象となるデータは、年齢など従業員の人口統計的なデータ、キャリア体験やスキル、どのような役割を経てきたか、どのようなトレーニングを受けてきたかなどの行動データ、パフォーマンスデータなどだ。顧客の同意に基づいて匿名化されており、量にして約3000社分となる。こうした膨大な実績データを蓄積しているからこそ、一人ひとりの自己実現を促してやる気を引き出し、ひいては組織を活性化させ会社全体の成長の原動力にするための“道筋”を合理的に導き出すことができる。それこそがCornerstoneが得意とするところであり強みでもある。