[ユーザー事例]
「顧客と従業員の体験価値」を核にしたデジタル変革、LIXILのCXリーダーが成果を明かす
2025年8月4日(月)神 幸葉(IT Leaders編集部)
住宅設備機器・建材メーカーのLIXIL(本社:東京都品川区)が、顧客と従業員の体験価値の向上を目的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進めている。コロナ禍の逆境を機に生まれたオンラインショールームの拡充や生成AIの積極的な導入などで、体験価値に資する効果が現れているという。2025年7月17日にZVC JAPANが開催した「Zoom Experience Day Summer 2025」に、LIXIL 常務役員 CX部門リーダーの安井卓氏が登壇。「LIXIL流EXとCXを向上させるDX」と題し、ここ5年間の取り組みと成果を明かした。
DXの核は、顧客と従業員の体験価値を高めること
LIXIL(リクシル)は2011年4月、国内大手住宅設備機器・建材メーカー5社の統合によって設立された住生活の総合メーカーだ。INAX、TOSTEM、GROHE(グローエ)、American Standardなどのブランドを擁し、住宅のトイレ、バスルーム、キッチンの水まわり設備や、窓、ドア、エクステリアといった建材など幅広い製品を開発・製造・販売している。パーパスに「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」を掲げている。
同社は、顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の価値向上を図るべく、早期から全社を挙げてデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる(図1)。

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LIXIL 常務役員 CX部門リーダーの安井卓氏(写真1)は、同社のDXについて次のように説明した。「CXとEXの向上につながらなければ、デジタル化する意味はない。当社ではあらゆる施策において、CX/EXの向上に寄与するかどうかを重視している」。

逆境から顧客接点を広げる─オンラインショールーム
LIXILは世界150カ国以上で事業を展開しており、売上構成は国内事業が約7割、海外事業が約3割だ。しかし、国内主要事業は、新築住宅の着工件数が減少傾向にあり、市場の縮小が進んでいるという。
その対策として同社は事業の軸を新築からリフォームへとシフトする方針を定めたが、新築市場よりも市場規模は小さく、市場そのものを拡大していく活動も必要になる。
「市場を創造する活動は、当社がこれまであまり手がけてこなかった領域で、これまでの事業の延長線上にはない取り組みに挑戦していく必要がある。そのためにはDXが不可欠だ」(安井氏)
同社ではDXに本格的に取り組む前から、ZVC JAPANのWeb会議システム「Zoom Meetings」やコラボレーションツール「Zoom Workplace」などを積極的に導入し、拠点や組織の壁を越えたコミュニケーション環境の整備に努めてきた。
また、2019年にはアカマイ・テクノロジーズのリモートアクセス環境をクラウド型で利用できる「Enterprise Application Access(EAA)」を導入している。コロナ禍当初、全従業員分のVPNライセンスを発行しておらず、在宅勤務をスムーズに開始できない企業が続発していたが、EAAを導入済みだったLIXILでは、2万5000人規模のリモートワーク環境を1週間も経たずに構築できたという。
一方で、コロナ禍の外出制限により、LIXILを象徴する店舗型ショールームへの顧客の来店が大幅に減少し、ビジネスの停滞を招くことになった。そこで、2020年から開始したのがオンラインショールームだ。「もともと、ショールームでの接客にはさまざまなデジタルツールを活用していたため、オンライン移行で顧客に提供できないのは「実際の商品に触れる体験」のみ。それ以外はすべてオンラインで再現可能だった」(安井氏)という。
オンラインショールームでは、顧客は自宅内の写真を共有しながら、設置シミュレーションや具体的なサイズの確認などをしながらリフォームの相談などが行える。また、単身赴任などで離れて暮らしていても、家族と一緒に接客を受けることもできる(画面1)。安井氏によると、ショールームに勤務する従業員は女性が多く、ライフスタイルの変化や家庭事情による休職・退職も少なくなかったが、働き続ける選択肢が広がったのも大きなメリットになったという。

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このオンラインショールームは実際にCXの向上につながっているか──それを分析すべく、クアルトリクスのアンケートツール「Qualtrics XM」を合わせて導入している。Qualtrics XMでは、課題の要因分析において何が主要因かを含めてリアルタイムで可視化できる。例えば、オンラインショールーム開始当初は顧客ロイヤルティを測る指標のNPS(Net Promoter Score)が低下していたが、分析により、接客時間が印象悪化の原因と分かり、改善に取り組めたという。
●Next:オンラインショールームのサービス拡充、生成AIの活用方針
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