[インタビュー]

製品開発のコアにカスタマーエクスペリエンスを─Domoのデザイン統括責任者

米Domo ユーザーエクスペリエンス担当バイスプレジデント クリス・ウィルス氏

2019年12月10日(火)齋藤 公二(インサイト合同会社 代表)

デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れで、新規事業の創出や課題解決に「デザイン思考」を導入する企業が増えている。これまで主にB2Cで語られることの多かった手法だが、BIツールベンダーの米Domoは、製品開発のコアにユーザーエクスペリエンスを掲げ、その手段としてのデザイン思考を重視している。ユーザーエクスペリエンス担当バイスプレジデントとして、同社の“デザイン”を統括するクリス・ウィリス(Chris Willis)氏に、B2Bではまだあまり聞かれない領域の話を聞いた。

IT部門がデザインを学ぶことに意味はあるのか?

 IT部門の担当領域が大きく拡大してきている。これまでの担当領域の中心は基幹系システムや業務システムの企画開発、維持管理、安定運用だった。ところが近年は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の掛け声の下、新しいITの取り組みに参加し管理することはもちろん、基幹系システムの継続的な改善や機能強化まで求められるようになった。

 IT部門の腕の見せ所は、システムをいかに堅牢にして信頼性を確保するかだった。ところが、DXの取り組みでは、俊敏性や拡張性が最優先となり、ときには部品単位での堅牢性や信頼性は捨てることさえ求められる。1つ1つの部品が脆弱であってもサービス全体が維持できれば良しとする考え方だ。

 こうしたシステム構築の発想の違いは、企画段階から求められる。これまでのシステム開発はしっかりとした要件定義から始まり、機能を作り込み、全体を組み上げていくスタイルが主流だった。IT部門の役割も、業務部門からヒアリングした内容をいかに要件定義書にまとめあげ、ベンダーに的確に指示できるかにあった。

写真1:最近はユーザーとともにデザイン思考を実践するため、共創スペースを設けるITベンダーが増えてきている(写真は日本IBMの本社にある共創スペース「IBM Client Experience Center」)

 ところがDXの取り組みでは、システム開発のスタイルはウォーターフォールからアジャイルに変わり、IT部門が業務部門と一緒にビジネスを考えていく姿勢まで求められるようになった。その際には、デザイン思考などのアイデア創出の方法論や、リーンスタートアップにおけるMVP(Minimum Viable Product)の作成など、これまで培ってきたサーバーやネットワークの運用管理ノウハウからかけ離れた方法論でさえも学ぶ必要が出てきた。

 日々の運用管理に忙殺されるなか、そうした新しい方法論を身に着けていくことは簡単ではない。デザイン思考などは、システムから遠いところにあると感じられる方法論。これを学ぶことに意義を見い出せない担当者も少なくないだろう。IT部門がデザインを学ぶことは必要なのか。

 そんななか、サービス開発におけるデザインやデザイン思考の重要性を訴えるのが、米Domoでユーザーエクスペリエンス担当バイスプレジデントを務めるクリス・ウィリス(Chris Willis)氏だ。Domoは、2010年にジャシュ・ジェイムズ(Josh James)氏によって創業されたデータ連携プラットフォームを提供するSaaS企業。基幹システム連携やETL/DWH/BIといったエンタープライズの領域をクラウドで革新し続けているベンチャーの中で、デザインはどう位置づけられているのか。初期メンバーとしてビジネスにも関わってきたウィリス氏が語ってくれた。

カスタマーエクスペリエンス優先のサービス開発を

──デザインチームの責任者であり、ユーザーエクスペリエンス担当バイスプレジデントを務めていらっしゃいます。どのようなミッションをお持ちですか。

 Domoに参加することが決まったとき、ジャシュから言われたのは、Domoのプラットフォームのコアにはカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)があるということです。多くのベンチャー企業は会社のコアにテクノロジーがあり、それを使ってユーザーに利便性を届けます。しかし、ジャシュは、顧客の体験こそが会社の中心にあると考え、私にそれを託すことで実践しました。

 実際、今日までに顧客からたくさんのフィードバックをいただくことができ、ユーザーエクスペリエンスに関する賞もいただいています。ジャシュの狙いは成功したと言っていいでしょう。多くのエンタープライズ企業向けサービスでは機能が中心になりがちです。しかし、われわれの強みはサービスの中心にカスタマーエクスペリエンスがあることなのです。

写真1:米Domo ユーザーエクスペリエンス担当バイスプレジデントのクリス・ウィリス氏

──米国ではデザインやカスタマーエクスペリエンスをサービスの中心に置くことは一般的なのでしょうか。

 いいえ。AppleやSpotify、AirbnbといったB2C企業には必ずデザイン責任者がいます。しかし、B2B企業でデザイン責任者がいるケースは稀です。ジャシュは私に対して「優先順位のトップにくるのはデザインだ」とよく言います。デザインを最上位に据え、そこから機能を考えていくことでプロダクトの開発はスムーズに進みます。デザインが良ければすべてがうまくいく。そんな考えを持っているのです。

──Domoは、ETLやBI、データ分析といった企業システムとしてきわめてトラディショナルな領域でビジネスを展開しています。トラディショナルなユーザーの多くは新しい分析手法などの機能こそが重要だと考えるのではないでしょうか。

 われわれはデータサイエンティストのような専門家だけにサービスを使ってほしいわけではありません。すべての人が使える、民主化されたプラットフォームを作ることが目標です。トラディショナルなツールの問題点は、データを共有したいと思っても使いにくいことにありました。ソフトウェアを利用するために、使い方を学ぶ必要があります。そうではなく、スマートフォンのアプリのように、教えられなくても簡単に使えることが重要だと考えたのです。

●Next:「直感的に使える」がダメなわけ

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