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プロセスの発見から自律/自動化へ─プロセスマイニングの進化と超流動企業への道筋

Celonisは1万7000人超の聴講者に何を伝えたのか─Celosphere Live 2020[技術動向編]

2020年5月12日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

世界を覆うコロナ禍に対して、プロセスマイニングは大いに有効である──独Celonis(セロニス)は2回目の年次コンファレンスをリアルからオンラインに切り替えて開催(会期:2020年4月28日~30日)。欧米中心にプロセスマイニングの普及がさらに加速していること、同社の顧客企業がコロナ禍の中でも業務プロセス改革を継続していることをアピールしたが、今回はそれだけにとどまらない。“摩擦ゼロのプロセス”や“超流動企業”といった理想の実現に向けた技術・機能を発表し、市場リーダーとしてプロセスマイニングの進化を具体的に示した。以下、Celosphere Live 2020で明かされた最新の技術動向をメインに紹介する。

●Celosphere Live 2020[事例編:独ロバート・ボッシュ]“組織のデジタルツイン”でプロセス改善を迅速化─独ボッシュのプロセスマイニング実践
●Celosphere Live 2020[事例編まとめ]プロセス可視化・改善で先進13社が取り組んだこと─Uber、BMW、Bosch、ABBなど欧米プロセスマイニング事例
●Celosphere Live 2020[事例編:独Zalando]欧州最大手ファッションECのZalando、"プロセスマイニング+機械学習"で調達プロセスを最適化

「プロセスマイニングとは医療におけるX線である」

 「プロセスマイニングとは、医療におけるX線(レントゲン)である」(図1)。このアナロジーはプロセスマイニングの本質を明確に示している。1985年に発見されたX線は、20世紀初頭には医用画像撮影に広く使われるようになった。1970年代に入るとX線を応用したCT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)が登場し、現在は高度医療に不可欠な存在になっている。

図1:プロセスマイニングの本質。人体に対するX線と同等である
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 この伝で言えば、今はまだ認知度が高いとは言えないプロセスマイニングも早晩、企業に欠かせなくなるはずだ。わかりにくいかもしれないので、少し説明しよう。

 我々が何らかの異常を感じて医療機関を受診したとき、医師はまず問診や触診を行う。患者は自覚症状をあれこれ聞かれ、体温を測るよう指示され、聴診器を当てられる。だが問診や触診で診断できるのは軽症に限られる。より複雑な病気の可能性があれば尿や血液、細胞の検査などが加わるが、これらの検査では病変の所在や広がりがわからない。そこで手術となるが、これには大きなリスクを伴う。そのため今日の医療では、患者の身体にメスを入れる前に、レントゲンやCT、MRIといった装置が必ず用いられるわけだ。

 このことを企業に当てはめるとどうか。どんな企業にも何らかの問題や課題があるはずで、よほどうまく行っている(つまり、軽症)場合を除けば、専任の組織を置いたり外部コンサルタントに委託したりして、対処しようとする。その際にまず行うのは現場観察やヒアリングであろう。それらは必要であるにせよ、医師による問診や触診のようなものなので、自ずと限界がある。

 そこで、過去や現在の経営/事業指標を分析したり、同業他社をベンチマークしたりする。これらは医療で言えば血液検査のようなものだから、異常の有無や深刻さの度合いは把握できるが、問題の発生部位や広がりまでは把握しきれない。とはいえ、従前はそれ以上の手段がなかったので、ヒアリングやデータ分析から得た洞察を元に改革案を策定して実行に移すほかなかった。たとえうまくいかなかったり、奏功しなかったりしても、何もしないよりはましだからである。

 もし、ここに人体のX線撮影装置に相当する企業向けのソリューションがあったらどうか? 問題そのものや改善策の進捗状況の把握などはもちろん、事業変革やいわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)にも大きな効果をもたらすことが期待できる。内部の状況をリアルに示せれば、変革に慎重な部門や人に納得してもらいやすくなるからである。企業のためのX線撮影装置、それがほかならぬプロセスマイニングである。

 それでは、このプロセスマイニングという技術/ソリューションは現在、どんな実用性や機能を備えていて、どんな広がりを見せているのか? CTやMRIのような進化がここでも起こっているのか?──こうしたことを知る格好の機会が「Celosphere Live 2020」、プロセスマイニング最大手である独Celonis(セロニス)のプライベートコンファレンスである。初開催だった前回は、本社のある地元ミュンヘンの会場に各国からユーザーを招いて開催したが、今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大の状況から会場をキャンセルされ、全セッションをオンラインウェビナーで展開した(写真1)。

写真1:Celosphere Live 2020の配信スタジオの模様
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 Celonisによると、参加者数は初回の1000人余りから大幅に増え、1万5000人が事前登録して最終的には1万7000人超が視聴したという。オンラインによる利便性の高さだけでなく、世界的に関心が高まっていることも間違いないだろう。ここではまず、基調講演などで語られたこの分野のテクノロジー動向を中心に紹介する。なお、すべてのセッションはコンファレンスの公式サイトで録画が公開されているので(2020年5月初旬時点)、今からでも興味のあるセッションの視聴をお勧めする。

コロナ禍をプロセスマイニングで乗り越える

 Celosphere Live 2020の基調講演スピーカーを務めたのは、Celonisの共同創業者・共同CEOのアレキサンダー・リンケ(Alexander Rinke)氏だ。大きく、①COVID-19との戦いの中でユーザー企業がプロセスマイニングを活用しているさま、②Celonisの最新状況と中期ビジョン、およびプロセスマイニングの生みの親であるウィル・ファン・デル・アールスト博士へのインタビュー、③新サービス/機能の紹介と解説、といった構成である。

 ①に関してリンケ氏は、まず顧客企業の取り組みを紹介した。トイレタリー製品をはじめとする日用品・医薬品メーカーの英レキットベンキーザー(Reckitt Benckiser)、重電・エネルギーマネジメント大手の仏ABB、製薬用コーティング・添加剤メーカーの米カラコン(Colorcon)は、いずれもコロナ禍におけるボトルネックの発見、購買可能な取引先への変更などにCelonisを活用し、サプライチェーンの維持に効果を上げたという(図2)。このうちABBは「COVID-19 Map」で知られる米ジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)の感染状況データも利用している。

図2:コロナ禍で成果を上げたグローバルメーカー3社
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 電子部品・機器の大手専門商社、米アヴネット(Avnet)はオンラインで出演。エンタープライズエフェクティネス担当バイスプレジデントのステファン・マウラー(Stefan Maurer)氏は、「医療・ヘルスケアの顧客へのデバイス供給が難しい状況になった。しかしCelonisのソリューションが警告してくれたおかげで、問題を最小限にとどめることができた」と話す。コロナ禍の中で開催されたコンファレンスの基調講演として、この辺りの話があるのは当然だが、それでも社名を出して4社が登場したのは、顧客ベースの広がりをうかがわせる。

 続いてリンケ氏は、Celonisの現状およびプロセスマイニングの広がりに話を移した。要約すると以下の内容である。

──2019年と2020年における新規顧客の90%がクラウドサービス「Celonis Intelligent Business Cloud」を採用しており、Celonisはマルチテナントのクラウドソリューションを提供するベンダーになった(注:2019年初頭まではオンプレミスのソリューションだけを提供していた)。IBCの無料版である「Celonis Snap」もすでに5万人が利用しており、ユーザーコミュニティが急速に広がっている。

 Celonisは2019年に130%の成長を遂げ、企業価値は25億米ドル(約2800億円)と評価されている。社員は1000人を超え、2019年末には2億9000万米ドル(約310億円)の投資を獲得した。これで当社は顧客をサポートし続けるために未来に向かう準備を整えたことになる。

 大学などアカデミアとの関係も一貫して維持・強化している。現在、連携する世界の大学・研究機関は320に及び、2万5000ライセンスを大学関係者に無料提供している。プロセスマイニングやAIなど530の教育コースを提供中だ(図3)──。

図3:Celonisを特徴づけるものの1つに、アカデミアとの緊密な関係がある

顧客調査で浮き彫りになったサプライチェーンの課題

 リンケ氏の講演は、絶好調で言うことはない状況にも聞こえるが、現状に満足しているわけではないようだ。「コミュニティの拡大に火がついたが、(顧客の取り組みは)実際のところスタートしたばかりだ。非常に多くのオペレーショナルフリクション(業務遂行における非効率)がある。我々は数百の顧客について業務プロセスのステージを調べ、どんなフリクションがあるかを、(ヒアリングやアンケートではなく)生のデータを収集して分析した。それは予想だにしない、ショッキングな結果だった」(リンケ氏)。

 何がショッキングだったのか。1つは調査対象企業におけるOn Time Shipment Rateが平均で42.8%と、50%を下回っていたこと(写真2)。On Time Shipment Rateはあまり聞かない用語だが、On Time Delivery Rate(納期順守率)とほぼ同じと考えられる。「この結果はサプライチェーンに問題があることを示すもので、顧客満足の低下につながる重大な問題だ」(リンケ氏)。

 もう1つは、Touchless Invoice(請求処理自動化)の比率が26.6%にとどまったことだという。リンケ氏は「70%以上の請求を人が処理しており、大きな時間の無駄だ。これに対し英ボーダフォン(Vodafone)はプロセスを改革し、以前の13%から現在では83%に向上させている」と、改善の余地の大きさを指摘する。

写真2:「調査の結果、出荷期日順守率は5割以下だった」とアレキサンダー・リンケ氏は顧客企業側の課題を指摘した

 欧州のIT企業らしく、フードロス(食品ロス)の問題も俎上に載せた。「食品は毎年、生産量の3分の1に相当する16億トン、金額にして1兆2000億ドルが廃棄されている。その80%は消費者ではなく、過剰生産や長大な流通販売網、過剰在庫などサプライチェーンに起因している」とリンケ氏は指摘し、次のように語った。

 「ある企業のCFOが私にこう言った。『大企業のCFOを務めるのは、エアバス(Airbus)のような巨大旅客機をコンピュータ支援なしに操縦するようなものだ』。それに対して私はこう伝えた。『Celonisはあなたのコンピュータになる』と」。

●Next:“摩擦ゼロプロセス”や“超流動企業”とは? 実現の道筋は?

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