矢野経済研究所は2020年6月11日、国内の働き方改革ソリューション市場の調査に基づき、主要7領域における製品カテゴリー別の動向、参入企業の動向、将来展望を発表した。2020年度の働き方改革ソリューション市場規模は、前年度比11.0%増の5186億円を予測している。新型コロナウイルス感染症への対応で、テレワーク関連ソリューションを中心に伸長したという。
矢野経済研究所の発表によると、2019年度の国内働き方改革ソリューション市場規模(事業者売上高ベース)は、前年度比6.0%増の4673億円と算出されている(図1)。
拡大画像表示
2019年度は、2020年夏に開催を予定していた東京オリンピック・パラリンピックへの対応として、東京都に事業所を構える企業を中心にテレワーク環境の整備が本格化した。また、2019年9月に日本に上陸した台風15号では、関東地方のJR・私鉄各社が計画運休を実施し、物理的に出社できない状況になったことで、事業継続性(BCP)の観点から各種働き方改革ソリューションを検討する企業が増加した。
また、中小企業では、2020年4月より働き方改革関連法における時間外労働の上限規制が適用されたことから、労務可視化・勤怠関連ソリューションなどを中心に導入が進んだ。
健康経営関連サービスについては、これまでコンプライアンス(法令順守)や企業ブランドの向上、優秀な人材の確保などの観点から健康経営関連サービスの導入が進んできた。「健康経営」とは、従業員の健康維持・増進を経営的視点から考え、戦略的に実践することである。
近年は、ストレスチェック制度の義務化や、経済産業省による健康経営優良法人認定制度の創設などを背景として、各種サービスが拡大傾向にある。2020年度以降、新型コロナウイルス感染症への対策を契機に、健康経営関連サービスの需要が喚起されると、矢野経済研究所は推察している。
企業の多くは、これまで対面でのコミュニケーションを前提とした勤務形態で、毎日顔を合わせることにより従業員の心身の健康状態を概ね把握してきた。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を想定した社会経済活動のなかでは、対面以外の方法で従業員の健康管理を行う必要性が高まる。
具体的な導入事例として、非対面での健康管理としてウェアラブル端末の活用や、メンタルヘルス対策の一環としてのパルスサーベイ(従業員に対する高頻度の意識調査)の実施、感情分析ソリューションの導入、心身の健康状態を維持・増進させることを目的とした健康関連イベント・研修の開催などが考えられると、矢野経済研究所は述べている。
2020年度の国内働き方改革ソリューション市場規模(事業者売上高ベース)は前年度比11.0%増の5186億円、2022年度には5898億4000万円までの拡大を、矢野経済研究所は予測している。今後は、新型コロナウイルス感染症への対策が、働き方改革ソリューション市場に大きな影響を与えると見ている。
日本政府による「新型コロナウイルス対策の基本方針」(2020年2月25日)や緊急事態宣言の発出(2020年4月7日/2020年4月16日)などにより、2020年3月以降、在宅勤務を主とするテレワークの実施が急速に拡大した。それにともない、Web会議システムを始めとして、社内SNS・ビジネスチャットやシンクライアント・クライアント仮想化(VDI)、オンラインファイル共有サービスなどの導入が拡大している状況にある。
さらに在宅勤務に加え、オンライン授業やオンライン営業などの社会経済活動のIT化・デジタル化に注目が集まっている。緊急事態時の事業継続性(BCP)の観点からも、企業や教育機関などにおける今後のIT投資の拡大が見込まれる。そのような状況のなか、矢野経済研究所は、働き方改革ソリューション市場は拡大基調にあるものと考えているという。
今回の調査の調査期間は、2019年12月~2020年5月で、調査対象は、働き方改革関連ソリューション提供事業者など。調査方法は、矢野経済研究所専門研究員による直接面談と、電話・e-mailなどによるヒアリング調査および文献調査を併用したという。
なお、シンクライアントとは、プログラムの実行やデータの保存といった機能をクライアント端末から切り離し、サーバーに集中させる仕組みを指す。クライアント仮想化とは、シンクライアントの実装方式の1つを指す。仮想化技術を活用し、ユーザーごとに1台の仮想マシンを占有させる方式のことである。