[市場動向]

量子コンピュータの性能は1年に2倍のペースで増え続ける─日本IBMが説明

2020年7月3日(金)日川 佳三(IT Leaders編集部)

日本IBMは2020年7月3日、説明会を開き、量子コンピュータの開発動向を説明した。現在、18台の量子コンピュータを保有しており、最も高速なコンピュータは、性能指標である量子ボリュームで32(量子ビットは53)である。量子ボリュームは2017年以降1年で2倍のペースで伸びている。同社によれば、今後も1年に2倍のペースで伸び続け、数年後には量子ボリュームが512や1024となり、何らかのアプリケーション分野でブレークスルーが起こる。

 日本IBMは、量子ゲート型の量子コンピュータ「IBM Q」を開発し、クラウドサービスとして提供している(関連記事日本IBMが量子コンピュータ「IBM Q」の進展を説明、数年後には現実の問題を解決)。アプリケーションからクラウドサービスを利用するためのAPIやSDK(ソフトウェア開発キット)も提供済み。24万人が利用しており、現在までに実行した演算数は1980億回に上る。論文の出版数は235本で、研究コミュニティ「IBM Q Network」のメンバーは106組織を数える。

 説明会では、同社の量子コンピュータの開発動向を説明した。現在、18台の量子コンピュータを保有している。このうち、最も高速なコンピュータは、量子ビットが53ビットで、量子コンピュータの性能指標である量子ボリュームの値は32である(関連記事IBM、53量子ビットの量子コンピュータを1カ月以内に商用サービス化)。量子ボリュームは、商用ブランドであるIBM Qを立ち上げた2017年時点の「4」から1年ごとに2倍に増えている。2018年が8、2019年が16、2020年が32である。

 「量子ボリュームの値は、今後も1年に2倍のペースで増え続ける」と、日本IBMで執行役員最高技術責任者研究開発担当を務める森本典繁氏は説明する。2020年現在の値が32なので、このペースで推移すると、2021年(64)、2022年(128)、2023年(256)、2024年(512)、2025年(1024)となる。「(2020年から)数年も経てば、特定のアプリケーション分野でブレイクスルーが起こる」(日本IBM)。

 同社によると、全世界で必要とする計算能力は、12カ月(1年)で2倍に増えている。古典的コンピュータの処理能力の向上ペース(18カ月で2倍)とはギャップがある。こうした経緯から、量子コンピュータに期待がかかっているという。

 量子ボリューム(量子体積)とは、量子コンピュータの性能を包括的に評価する指標である(図1)。量子ビットの制御と読み出しに関わるエラー、デバイス間の接続性やクロストーク(混信)、ソフトウェアのコンパイラ効率なども考慮しており、量子システム全体の性能を包括的に定量化する。

図1:量子ボリュームは、量子コンピュータの性能を包括的に評価する指標である。エラー率やコンパイラ効率なども考慮している。性能を高めるためには、量子ビットの数を増やすことだけでなく、磁気ノイズの影響などによるエラー率を下げることが重要になる(出典:日本IBM)図1:量子ボリュームは、量子コンピュータの性能を包括的に評価する指標である。エラー率やコンパイラ効率なども考慮している。性能を高めるためには、量子ビットの数を増やすことだけでなく、磁気ノイズの影響などによるエラー率を下げることが重要になる(出典:日本IBM)
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 米IBMが取り組むのは、量子ゲート型の量子コンピュータである。半導体による論理回路の代わりに量子ゲートを用いる。古典的なコンピュータが0か1の2値しか表せないビットを使って計算するのに対し、量子コンピュータは0と1を重ね合わせた量子ビットを使って計算する。これにより並列処理を高速化する。

 量子ゲート型の量子コンピュータの性能を高めるためには、量子ビットの数を増やすことだけでなく、磁気ノイズの影響などによるエラー率を下げることが重要になる。素材の改善などによってエラーを抑え、量子の重ね合わせ状態が持続するコヒーレント時間を長くする。

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