RPA(Robotic Process Automation)は、手軽さと即効性のある導入効果から急速な普及を遂げている。しかし、アフターコロナ時代のニューノーマル(新常態)を前提としたビジネスや働き方においては、従来のような個別最適ではない業務全体を見渡したデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる。では、そこに向けて、何を、どこから始めればよいのだろうか。6月30日にオンラインで開催された「プロセスマイニング コンファレンス 2020 Summer LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)では、NTTデータ イントラマート 代表取締役社長の中山義人氏が、プロセスマイニングを活用した全体最適のプロセス改革の具体的な進め方を解説した。
RPAによる個別最適から全体最適へ
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する手段として、多くの企業がRPA(Robotic Process Automation)の活用を加速させている。既存システムに手を入れる必要がなく簡単に導入でき、問題を抱えたシステムも表面上の利用効率を高めることができるのがその理由だ。
しかし、NTTデータ イントラマート 代表取締役社長の中山義人氏は、RPAには功罪の両面があるとし、「使えないシステムを温存する短期的な問題の解決にすぎず、システムの個別最適や複雑化、ブラックボックス化を進行させる結果になってしまう場合があります」と問題点を指摘した。
加えて、RPAは複雑な作業も容易に自動化できてしまうがゆえに、属人化した作業をそのままロボットに覚え込ませてしまうという“罠”もある。その後、業務に何らかの変更があっても、誰も中身がわからず改修やメンテナンスが行われず、使われないロボットが大量に残ってしまうという結果に陥ってしまいかねないのだ。
そこで求められるのが、個別最適ではない全体最適のRPA導入である。「まずは混沌とした業務プロセス(As-Is)をあるべき形(To-Be)に整理します。その上で期待どおりの業務パフォーマンスが発揮されているかどうか、実行状況のリアルタイムモニタリングを行う体制を作っていくべきです」と中山氏は説いた。
全体最適のプロセス改革を行う2つの方法
あるべきRPA活用のために目指すべき全体最適とはいかなるものか。まず考慮しなければならないのは、アフターコロナ時代においては、さまざまな制約が課せられた状況下でビジネスを遂行していかなければならないことだ。
中山氏が特に緊急性を要するものとして言及したのは、「従業員がどこにいても業務遂行できるか?」「顧客が密にならずに売上をどうあげるか?」といった2つの課題を捉えたプロセスの再定義であり、全体最適のプロセス改革に向けて次の2つの進め方を示した。
① 現状業務からスタートする方法
1つは現状業務からスタートし、現状業務の可視化を経て理想の業務を確立していくものだ。もっとも、ストップウォッチを用いた作業時間の計測や、現場へのヒアリングといった従来の方法ではファクトベースの情報を集めることが困難で、どこが業務上のボトルネックになっているのか正確に可視化することができなかった。
そうした中で登場したのがプロセスマイニングである。中山氏は「さまざまなシステムから生成されるログに基づいて現状業務を自動的に可視化し、業務上のボトルネックを解析することができます」とそのメリットを説いた。さらに独Signavio社が提供するプロセスマイニングツール「Signavio Process Manager」をデモンストレーションし、ログがまだ十分に集まっていない状況下でも業務プロセスをリアルに可視化できることを示した。
そして、これに続く理想的な業務プロセスを見出していく上で役立つのがBPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法)だ。複雑に絡み合あった業務プロセスをモデル図として可視化し、部門間をまたいだ業務プロセスのつながりや関係性を明らかにするフレームワークである。Signavio Process Manager上で可視化された特に遂行量の多い業務をこのBPMNに変換し、NTTデータ イントラマートのBPMツール「IM-BPM」にそのまま取り込んでシミュレーションを実行できるという。
業務上のボトルネックと推測される箇所にRPAを導入することで、コストやトータルサイクルタイムがどのように変化するのかを定量的に見比べることができるのだ。こうして試行錯誤しながらAs-Isの状態から全体最適のプロセスを導き出していく。
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もっとも、一度プロセスを策定すればそれで完了というわけではない。「新たなプロセスを実行すると、そこからまたログが生成されるので、それをもとにまたチェックを繰り返します。要するにプロセスマイニングを導入しただけですべての問題が解決するといったことはありえず、継続的なPDCAサイクルを支えていく基盤がトータルソリューションとして用意されている必要があります」と中山氏は強調した。
NTTデータ イントラマートでは、こうしたPDCAサイクルを確立するためのメソドロジー(開発方法論)を「DXアプローチ」として定義。ファクトデータから入る業務プロセス改革、現場の業務改善から入る業務プロセス改革、経営目線から入る業務プロセス改革を包括的にサポートするとともに、多くの事例を重ねることで豊富な知見を蓄積しているという。
② ERPのベストプラクティスからスタートする方法
全体最適のプロセス改革に向けた2つめの方法は、ERPベストプラクティスからのスタートである。
たとえばSAP S/4HANAでは最初からBPMに沿った形で標準的な業務プロセスが定義されており、それをベストプラクティスとしてSignavio Process Managerに取り込むことができる。中山氏は、「そこに各社独自の業務プロセスを組み込んでフィット&ギャップ分析を行うのです。もちろんそこでもシミュレーションを実施し、業務上のボトルネックがどこにあるのかを発見することができます。さらに運用開始後もさまざまなログを捉えながら、よりよいプロセスへと改善していくPDCAサイクルを、Signavio Process ManagerとSAP S/4HANA、IM-BPMの相互連携によって実践することができます」と強調した。
このように業務を可視化する基盤を最大限に活用することで、フィット&ギャップ分析から新たなプロセスの設定と開発、移行・結合テスト、オンボードでのテスト、運用監視サポートに至るまで、全体最適のプロセスを支える一連のERP導入作業をクイックかつ確実に進めていくことが可能となる。
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これまでもBPRに代表されるように全体最適のプロセス改革を目指した取り組みは数多くあったが、他部門の激しい抵抗にあうなど実現は容易ではなく、改革のモチベーションを維持するのが困難な側面もあった。
ただ、デジタルはあくまでもビジネスの変革をサポートする手段であって、それ自体が目的ではない。また、デジタル領域に対するアプローチも1つではない。そうした百社百様の最適解を見出していくことが、ここまで述べてきたプロセスマイニングを活用した全体最適のプロセス改革の本質であり、RPAのその先にある真のDXを推進していく。
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株式会社NTTデータ イントラマート
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