現実世界で起こる状況をデータとして取り込んでデジタル(仮想)世界で再現し、そこでの分析結果を現実世界にフィードバックする──デジタルツイン(Digital Twin)技術の活用が本格化している。Industrie 4.0を唱道するドイツは近年この分野への注力を強めている。今回は最近の現地報道から、同国におけるデジタルツイン関連のトピックを2つ紹介する。1つはデジタルツイン関連の業界団体設立、もう1つはデジタルツインの理解度や実施状況に関する調査結果である。
現実世界とデジタル世界の橋渡しを担うデジタルツイン
Industrie 4.0におけるデジタルツイン(Digital Twin/独Digitaler Zwilling)の役割とは、現実世界とデジタル世界のインタフェースとなることだ。データドリブンなモデルによって、中堅・中小企業の工場設備メーカーから自動車や大規模な装置産業に至るまでの産業を互いに密接に結びつけることを目指す。
独機械工業連盟(VDMA)および独電気電子工業連盟(ZVEI)は2020年9月23日(現地時間)、デジタルツイン関連の業界団体、Industrial Digital Twin Association(IDTA)の設立を発表した。主管のVDMA、ZVEI、Bitkomをはじめ設立メンバーは23社。日本でも知られているABB、Bosch、SAP、Siemens、Volkswagenもメンバーに名を連ねている(写真1、注1)。
注1:IDTW設立メンバー23社:ABB、Asentics、Bitkom、Bosch、Bosch Rexroth、Danfoss、Endress+Hauser、Festo、Homag、KUKA、Lenze、Pepperl+Fuchs、Phoenix Contact、SAP、Schneider Electric、Schunk、Siemens、Trumpf、Turck、VDMA、Volkswagen、Wittenstein、ZVEI
ドイツの国策であるIndustrie 4.0の普及促進団体として、同国にはすでに産学官連携の中核組織、Platform Industrie 4.0(PI 4.0)が存在する。PI 4.0と新設立のIDTAの役割分担は、政治的な議論を担うのがPI 4.0、技術的問題を議論するのがIDTAとなっている。
Industrie 4.0の広範な展開でカギを握ると考えられているのが、2016年にPI 4.0が発表した「管理シェル(Administration Shell)」だ。Industries 4.0参照アーキテクチャモデルのRAMI 4.0(Reference Architecture Model Industry 4.0)で規定されている6レイヤの1つ、アセットに密接に関わる概念で、生産設備・機械、部品、製品など現実世界のさまざまなアセットをIndustrie 4.0に接続するためのモジュールとして実装される。
オープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクトとして、管理シェルの開発コミュニティが運営されている。管理シェル自体の設計や接続のためのモジュールの開発・テストおよび認証、利用企業のトレーニング、パートナーエコシステムの構築を軸にして作業が進められている。
2019年11月にニュルンベルクで開催されたSPS 2019で、管理シェルのプロトタイプが出展された。このときの来場者の反応は良好で実用化が期待されている。
IDTAは今の管理シェル開発コミュニティをグローバルコミュニティのレベルにまで引き上げることを目指している。すでにその概念や利点が理解され、多くの企業が賛同しているが、欧州やグローバルでの認知度はまだまだ低い。周知のターゲットにはアジアや米国も含まれる。IDTAは、管理シェルがOSSプロジェクトであることの強みが効いてくると考えている。
Industrie 4.0のこれまでの進展から、管理シェルのような仕組みは、実際どれぐらい多くのアセットがモジュールと連携可能になるかが勝負である。要は、業界から幅広い支持と技術支援が得られないと失敗するということだ。この点でIDTAはすでに、Automation Markup Language、eCl@ss、OPC、Profibusなどの組織・団体から賛同を表明されている。
●Next:ドイツ語圏企業デジタルツイン調査から判明したこと
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