[ユーザー事例]

コロナ禍ゆえのサプライチェーン改革、カシオ計算機の新たな挑戦

2021年1月5日(火)田口 潤、杉田 悟(IT Leaders編集部)

今回のコロナ禍でサプライチェーンに支障をきたし、見直す必要に迫られている企業は少なくない。しかし製造業のサプライチェーンには社内外を含めて多くの組織やヒト、モノ、システムが関わるだけに、見直しは容易ではない。それをあえて実践するのがカシオ計算機だ。しかもわずか10カ月で改革を終える予定だという。同社生産改革・サプライチェーン改革担当シニアオフィサーの矢澤篤志氏に、どのように難題に取り組んでいるのかを聞いた。

 観光業や運輸業、飲食業などの産業に深刻な影響をもたらしている新型コロナウィルス感染症(COVID-19)。製造業が、その例外でいられるとは限らない。海外渡航の制限やロックダウンにより部品の調達や海外生産などのサプライチェーンが大きな影響を受け、販売面でも従来とは異なる需要変動の波に洗われる。だからといって単にコロナ禍が過ぎ去るのを待つわけにはいかない。いつ収束するのか、収束したとして元に戻るのかは分からないし、再び同様な事態が生じる可能性さえあるからだ。

 そんな状況にあるのが、AIやIoTを活用したスマート工場に取り組んできたカシオ計算機である(関連記事自社開発のAI/IoTを武器に─カシオ計算機が挑む生産ラインの自動化)。コロナ禍の中で、それだけでは十分に対応できない状況に陥った。そこで生産に関わるサプライチェーン、それに開発や設計に関わるエンジニアリングチェーンの刷新に踏み切ることを決めたという。サプライチェーンは2021年4月、エンジニアリングチェーンは2022年4月に、それぞれ新システムを稼働させる計画だ。

 とはいえ同社は「G-SHOCK」で知られるウォッチや電卓、電子楽器といった個人向けの製品だけでなく、レジスターなどの企業向け製品も手がけ、海外との取引も多い。製造業にとって中核であるサプライチェーンなどをリニューアルするのは、いくつもの外部企業や複数の部門がからむこともあって容易ではないはず。しかもコロナ禍という状況の中、そんな短期間に成し遂げられるのか。統括責任者である生産改革・サプライチェーン改革担当シニアオフィサーの矢澤篤志氏に取り組みの実際を聞いた。

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――サプライチェーン改革に取り組む背景を教えてください。

写真1:カシオ計算機 生産改革・サプライチェーン改革担当シニアオフィサーの矢澤篤志氏

 2019年5月に、カシオ計算機は中期経営計画を策定しました。そこではウォッチを中心とした時計事業の拡大、関数電卓など教育関数事業の成長、新規事業の創出、成長戦略を支える構造改革という、4つの成長戦略を打ち出しています。サプライチェーンの改革は、各事業の成長戦略を支える構造改革の一環と位置づけられるものです(表1)。

表1:アフターコロナでの前提と取り組み(全社構造改革)(出典:カシオ計算機)
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 経営陣は抜本的なサプライチェーン改革を求めていたのですが、現場ではそこまで踏み込めませんでした。1年近く検討を続けていましたが、そうするだけのきっかけも具体的な施策もなかったのが正直なところです。さて、どうしたものかというところに、今回のコロナ禍が起きました。

――カシオ計算機にも影響があったのでしょうか。

 もちろんです。3月から5月の第一波の初期の頃に、店舗など流通網の閉鎖により世界中で販売がストップし、売上げが下落しました。やむなく生産に急ブレーキをかけましたが、幸い流通網は早めに正常化し、売上げも戻り、しかもオンライン販売の波が一気に来たのです。時計や電子楽器のオンライン販売が強くなり、学校教育においても3年から5年後くらいだろうと読んでいたオンラインへのシフトが急激に進みました。そうなると今度はアクセスを踏まなければいけません。

 こうした状況に対応するために生産本部と営業本部が毎週、打ち合わせを行い、米国の店舗が閉鎖しているとか、欧州がロックダウンになったといった状況を踏まえて生産を減らしたり、在宅が増えて電子キーボードの需要が伸びたので増やしたり、といった調整をする必要がありました。しかし流通在庫というバッファがないオンライン販売が増える中、需要の振れ幅は大きくなり、仕組みを変えずに調整するだけでは限界があります。

――それでサプライチェーンやエンジニアリングチェーンを刷新する必要があると?

 ええ。この状況がもとに戻ることはないでしょうし、アフターコロナを見据えて、営業も含めたサプライチェーン(SCM)にメスを入れる結論に至りました。製品設計も根本的に見直す必要があるので、エンジニアリングチェーン(ECM)の改革も同時に進めます。

 時間軸について説明しますと、2020年3月にアフターコロナに向けた戦略や施策の検討を開始し、5月にはITインフラを含めたモノ作りのデジタル変革に踏み切ることを決めました。6月の役員会で私が指揮しながら専任部隊を組織してプロジェクトを進める方針が決定しました。SCMは2021年4月、ECMはPLM(製品ライフサイクルマネジメント)のリプレースもあるので少し時間がかかり、2022年4月に本稼働させる計画です。

――中期経営計画があったとはいえ、わずか3カ月で刷新を決めたと。加えてSCMを1年弱、ECMでも2年弱で終わらせる。中核業務を刷新するにしては短か過ぎると思えますが、なぜそんな期間でできるのでしょう。

 コロナ禍もデジタル化もそうですが、今日ではアジリティ(俊敏性)が重要です。時間をかけていたら意味がありません――というのは、半分だけ本当で(笑)、実際にはSCMもECMも以前から準備を進めていたんですよ。システムのグランド(全体)デザインを作ったり、ECMの刷新に必要なソリューションを選定していたり、といったことです。もう1つ、経営トップの問題意識もあるかも知れません。ご存じのように当社はオーナー経営なので、何事も早いです。

●Next:サプライチェーン改革の目的とは?

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