いくつものシステムで利用されるデータの整合性を取るための「マスタデータ管理(MDM)」は、データ活用の基盤と言える取り組みだ。ただし、MDM単体では効果を数値として算出しにくく、有効性を経営層に納得させるのが一苦労だ。結果、プロジェクトが途中で頓挫することも現実問題として多い。「データマネジメント20201」のセッションで、JSOLの有澤太氏が、その打開策の一端を教示する。
MDMは必要だがROIの提示が実施の足枷に
社内のあらゆるデータベース(DB)が利用すべき唯一絶対のデータがマスタデータだ。ただし、個別最適化したシステムでの運用を通じて、本来は同一であるべきマスタデータに齟齬が生じることもしばしばだ。同じデータが複数の意味を持てば、当然、データ分析の精度はそれだけ低下してしまう。
データ分析における、この大きな問題への対応策がデータの整合性確保のための「マスタデータ管理(MDM)」だ。そして、その支援にいち早く取り組んできたのがJSOLである。約10年前にMDM事業に着手して以来、同社では独自のMDMソリューション「J-MDM」を武器に、多様な業界のリーディングカンパニーに対してMDMの実施を支援してきた。
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もっとも、MDMは一筋縄ではいかない取り組みだ。JSOLの有澤太氏はその理由の1つに「ROI(投資対効果)算出の困難さ」を挙げる。「MDMはマスタデータの一元化を目指す、全社横断型の大規模な取り組みとなります。必然的に経営層からはROIの提示を求められますが、MDM単体の有効性は数値としては明確に算出しにくく、経営層から理解を取り付けられないことでプロジェクトが頓挫するケースが我々の経験でも少なくないのです」(有澤氏)。
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これは言い換えれば、MDMのROIをどう可視化できるかが、プロジェクト推進の鍵を握っているということでもある。
MDMの効果を可視化する3つの観点
有澤氏がそのために必要性を訴えるのが、MDMの効果を次の3つの観点から深堀りすることだ。
① 管理業務の改善
最初は、「管理業務の改善」の観点だ。企業の生き残りをかけた事業統合やグローバル化が進む中、マスタデータ管理の手間は増す一方だ。その背景には、内部統制でマスタデータの妥当性の担保や、証跡・権限管理のためのデータへの厳格なアクセス管理が不可欠だが、組織の拡大や変更に伴い、それらの業務が煩雑化してしまうことがある。管理にリソースを取られることが、データと利用プロセスの双方の改善の足かせにもなっている。MDMはこうした管理業務の改善において大きな力を発揮する。
「管理業務改善の鍵は、統制内に組み入れられているマスタの更新履歴によるプロセスの見える化です。これにより、例えば営業部の申請を基に、いくつもの部署が管理項目の追加やチェックを行い、最終的にシステム部がマスタ登録を行うというマスタ運用業務のボトルネックを可視化でき、マスタ管理業務の標準化や共通化といった見直しが可能となります。BIツールにより進捗を分かりやすく可視化し、ワークフローと照らし合わせることで進捗管理も可能です」(有澤氏)。
そこで削減された工数と時間に基づくオペレーションコストの総額がROIとなるわけだ。
② データ品質の改善
次が、「データ品質の改善」の観点だ。マスタ登録のルールが存在しながらも、徹底されづらいことがマスタデータの品質低下の一因となっている。データの登録時の抜けや、ルールにそぐわない管理項目の追加などが代表例だ。人手での作業である以上、それらの完璧な防止は不可能である。名寄せやクレンジングなどのツールを利用すればデータ品質を一定水準に維持することは可能だが、ツール導入に多大なコストを要することが難点だ。
対して有澤氏が提示するデータ品質改善の策が、データ活用に前向きな企業で広く利用されている各種ツールの活用だ。
「例えば、EAIツールにより必須項目の登録抜けを、また、EAIとMDMの組み合わせにより登録データのエラーを自動チェックできます。BIツールを利用すれば、各種ルールを基に類似レコードを探し当て、目視確認により重複など有無を容易に確認できます。ツールごとの得意とする処理を組み合わせることで、時間とリソースを最低限に抑えつつ、データ品質のチェック基盤として活用できるのです」(有澤氏)。
この場合、データ品質チェック業務におけるコスト削減額がROIとなる。
③ 業務・データ自動化(データ連携)
最後が、「業務・データ自動化(データ連携)」の観点だ。マスタデータのゴールデンレコードを基に、データのいわば清流化のために、多様なシステムとのデータ連携の仕組みをEAIにより追加する手法だ。
これにより、システム追加時などのデータ連携や、各システムに分散したマスタデータごとのメンテナンスの手間が抜本的に省け、その削減総額がROIになる。
ROI算出法はプロジェクトの狙いによっても変化
有澤氏は、JSOLが手掛けたとある日本企業でのJ-MDMによるマスタ運用のプロセス統合と、グローバル経営分析のためのグローバルマスタ統合の事例を紹介した。
同社では、国内のデータ管理部がプロジェクトを主導。グローバルでの経営管理指標(KPI)を設定したうえで、マスタ登録の仕組みの整備を皮切りに、MDMによるグローバルでの情報分析基盤の構築に取り組んだのだという。
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この事例で注目したいのが、マスタ登録は日本国内でのみ行えるようにしたことだ。「各国の商慣習の違いなどから、グローバルでのルール統一と順守が現実的に困難なことが理由としてあります。そこで、各国からの要望を踏まえてデータ管理部が対応したマスタデータを用意することで、データのすべてを日本のコントロール下に置いたのです。もっとも、あるべきデータ管理法はプロジェクトの狙いにより変わり、必然的に、経営に最も有効なROIの算出方法を見極める必要があります」(有澤氏)。
このケースでは最終的に、ワークフロー基盤によるマスタ運用効率化と、職制に応じた権限制御による統制を実現。マスタデータの冗長性の排除などを柱とするマスタデータの品質確保の仕組みを整備したのだという。
「MDMのROIはプロジェクトの進め方によっても把握の困難さが変わります。全マスタが対象のビッグバン型MDMでは、中長期の業務改善の活動となるため、スモールスタート型より難度は上がる一方で成果は大きくなります。それらを俯瞰的に把握したうえROIをどう示すかが、IT部門の腕の見せ所でしょう」(有澤氏)。
JSOLはROI把握の観点からもMDMに取り組む企業の心強い右腕となりそうだ。
●お問い合わせ先
株式会社JSOL
URL:https://www.jsol.co.jp/
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