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[データマネジメント2021]

データ駆動経営を実現する組織の在り方とは? 事例で学ぶデータアーキテクトのミッション

2021年4月20日(火)

デジタルトランスフォーメーション(DX)時代を迎えた今、膨大なデータを収集、分析し、新たな気づきを得てビジネスに活かすことが企業にとって喫緊の課題となっている。データの効果的な活用を全社的に行っていくために不可欠な存在となるのがデータアーキテクトだ。「データマネジメント2021」のセッションにデータ総研の伊藤洋一氏が登壇、事例を基にデジタル時代におけるデータアーキテクトのミッションについて解説が行われた。

デジタル時代におけるデータマネジメントの在り方

 20世紀型のビジネスモデルは、大量生産や標準化、工業化社会を前提としたものだった。だが、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代を迎えた現在は、コンシューマーの体験価値を創出しエンゲージメントを高められるような、人とのつながりを前提としたビジネスモデルへの変革が求められている。

 これまではSoR(Systems of Record)と呼ばれる基幹系システムのデータを中心に業務が行われていたが、これからはSoE(Systems of Engagement)、すなわち、コンシューマーとの接点を構築し、そこで創出される様々なデータを活用していくことが重要となる。

「今やデータは『ヒト・モノ・カネ』と同じように「育て、守り、生む」ことが求められています。経営資源としてのデータを管理するとともに、その品質や価値を高めていくことがデータマネジメントの守備範囲です。具体的には、データを皆が使えるように集めて整理するのがデータマネジメントの仕事であり、そのデータを基にサービスを考え、顧客に体験価値を提供していくのがサービスマネジメントの仕事になります」とデータ総研の伊藤氏は説明する。

株式会社データ総研 データマネジメントスクール シニアコンサルタントマネージャ 伊藤洋一氏

 DXの実現にはデータマネジメントとサービスマネジメントの両輪が欠かせないが、サービスごとにデータが作られるため、個別最適に陥りやすい。だが、データは共有化することで様々な価値を生み出すものだ。したがって、データは1カ所に集めて共有し、様々な人々が活用できるようにしなければならない。

データガバナンス、データマネジメントの組織モデル

 DXを推進する企業のデータガバナンス、データマネジメントの組織モデルを考えた場合、両者を分離させるとともに、データガバナンスは経営視点で循環させ、データマネジメントは現場を育てる視点で循環させることが重要となる。

「データガバナンス」と「データマネジメント」組織モデル

 そうしたことから、データガバナンス・データマネジメント組織の体制も分離し、それぞれが担う役割を明確化させる必要がある。

 この時、データガバナンスチームは社内に1つ、データマネジメントチームは業務領域ごとに組織し、業務領域を横断するケースにはステアリングコミッティ(運営委員会)による調整を行うようにする。

「データガバナンス」と「データマネジメント」組織の体制と役割

 データマネジメントチームは業務ドメインごとに存在することになり、業務部門長でデータ設計・品質の責任者となる「データオーナー」、業務を熟知しデータ定義や要件調整を行う「データスチュワード」、データの最適化やガバナンスの実行を担う「データアーキテクト」の3人が揃って初めてデータマネジメントが可能になる。

 一方、データガバナンスチームでは、CDO(Chief Data Officer)が全社的な経営戦略に基づいてデータ戦略を策定し各マネジメントを機能させ、CDA(Chief Data Architect)が全社的なデータ最適化のためのデザイン、ルール作成、そして人材育成を推進していく役割を担っていく。これらの組織体制を構築、運用していくことで、様々な業務やプロジェクトをうまく機能させることが可能になる。

現場主導のデータ活用によって生まれた課題とデータアーキテクトの役割

 伊藤氏はDX推進における組織的なデータ活用の事例を紹介した。

 DX推進を掲げるY社では、DX推進部門主導でクラウドベースのデータ管理プラットフォーム(DMP)を構築している。DX推進部門所属のデータサイエンティストは、企画担当者の依頼に基づき、SNSやWebアクセスログなどを分析、新商品の販売予測や客層予測を提供していた。当初の利用者はCRM推進グループだけだったが、その後、商品企画グループやプロモーション推進グループにも利用が拡大していった。なお、このDMPの開発に際して情報システム部門は関わっていなかった。

 先に述べた組織モデルに照らし合わせてY社のDMPの状況を分析すると、データガバナンス部門が存在しておらず、データマネジメントも行っていなかった。また、DX推進部門の現場担当者はデータの開発が主業務であり、データサイエンティストは企画部門からの依頼を受け、データの収集、整形、提供、検証を担当していた。

Y社の組織モデル

 そうした中でいくつかの課題が浮上する。1つが、データサイエンティストのモチベーションの低下だ。データアーキテクトとSEの仕事をデータサイエンティストが担っており、その業務の8割はデータ収集と整形に充てられるなどして、本業である分析に時間を割くことが困難になっていたのだ。

 また、生産性の低下も課題として挙げられていた。DX推進部門の目標値は2日で1案件を完了させることにあったが、実際は案件ごとに2~8日とバラツキが発生していた。この原因には、データ分析依頼の都度、複数人のデータサイエンティストが自由にDMPにデータを作っていたため、①「データ分析の数だけデータが作られてしまっていた」、②「担当者が変わると、どのデータが使われているかもわからなくなってしまっていた」などの理由で、DMPにデータの“汚れ”が生じ、使い勝手が悪くなっていたことなどがある。その結果として、DMPに格納されているデータがどういった目的で作られたのか、使えるデータはどれなのか、どのような意味をもったデータなのさえもわからなくなってしまっていたという。

 これらの課題を解決するため、Y社が採用した方策が、データアーキテクトの設置である。データアーキテクトによるデータマネジメントを行うことで、データの適正な管理を行うようにしたほか、データサイエンティストは運用管理業務から解放され、本来の業務である分析に専念できるようにした。併せて、データカタログとデータモデルも構築、データサイエンティストに提供できるようにしたことで、生産性向上を果たすことができた。

Y社の解決策:データアーキテクトの設置

 クラウド化が進んだことで、情報システム部門以外でもシステムを構築できるようになった。その結果、業務側の主導によるデータ活用が進められるようになったが、事例で説明したように様々な課題が生じるケースも少なくない。組織的なデータの円滑な運用と効果的な活用のためには、データアーキテクトの存在がますます不可欠となっている。

 伊藤氏は、従来のデータアーキテクトに求められるスキルと、今後求められるスキルについて、下記を示した。

従来のデータアーキテクトに求められるスキルと新たに今後求められるスキル

 最後に伊藤氏は、データアーキテクトの人材育成法について次のように説明し、セッションの幕を締めくくった。

「上司はデータアーキテクトを育成する環境を作らなければなりません。特に、職場で経験させられる場を作ること、手本を見せられる師匠をつけて観察させることは必ず必要です。また、師匠は弟子が行っている作業を観察し、困難な時だけ支援を行い、上達に伴い支援を徐々に取り除いていくようにします。最後にもう一度振り返る場を与え、足りない知識や経験を気付かせるというサイクルで育てていくのです」(伊藤氏)。

データアーキテクトの人材育成サイクル

●お問い合わせ先

株式会社 データ総研
URL: https://jp.drinet.co.jp/

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