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[市場動向]

メガプラットフォーマー規制の第1弾、経産省の「デジタルプラットフォーム取引透明化法」を紐解く

2021年4月20日(火)佃 均(ITジャーナリスト)

日本政府は数年来、デジタルプラットフォーム事業者と利用者間の取引の透明性・公正性を確保するための法整備に取り組んできた。いわゆるメガプラットフォーマー規制である。2020年5月27日成立/2021年2月1日施行の「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(デジタルプラットフォーム取引透明化法)に基づき、経済産業省は同年4月1日、6社5サイトを「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定した。市場に政府の指導が入ることの心理的影響は大きいが、現時点ではどうとらえておけばよいのか。

6社5サイトを「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定

 メガプラットフォーマー規制対象の発表があったのは2021年4月1日なので、ニュースと呼ぶには十分に古い。ただ、発表内容から要点を簡潔にまとめて、付加情報を添えて本誌の読者にお伝えするバリューを持ったトピックである。同規制を担当している経済産業省のデジタル取引環境整備室長の日置純子氏から話を聞くことができたので、そこで得た情報も含めて解説を試みたい。

 まず、発表内容。少なからずの方が、新聞やWebのニュースで次のような内容の記事を目にしたに違いない。

▽経済産業省は2021年4月1日、アマゾンジャパン、楽天グループ、ヤフー、Apple Inc.およびアイチューンズ(注1)、Google LLCの6社5サイトを「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定した。今年2月に施行した「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(デジタルプラットフォーム取引透明化法)に基づくもので、6社は取引条件などの情報開示ばかりでなく、公正な取引のために実施した措置や事業の概要などを自己評価した報告書を毎年度提出することが義務づけられる。

▽また、経産省は同時に、物販総合オンラインモール(ECサイト)とアプリストアの出店者から、苦情や相談を受け付ける窓口(Digital Platform Consultation Desk:DPCD)を設置した。ECサイトに関する相談は日本通信販売協会(JDMA)、アプリストアに関する相談はモバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)となっている。プラットフォームを利用する事業者は、取引上の課題や悩みを専門相談員に無料で相談できたり、苦情を申し立てたりすることができる(図1)。

注1:iTunes株式会社のことだが、アップルのコンテンツ配信サービス「iTunes」と区別するために本稿ではカタカナで表記する

図1:「特定デジタルプラットフォーム提供者」の認定(出典:経済産業省)
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一律的な「GAFA規制」ではない

 規制対象のメガプラットフォーマーは、経産省の発表文では6社だが、「5社」と表記したメディアもある。注1を付したアイチューンズを数の内に入れるか入れないかの違いだが、デジタル取引環境整備室によると「アイチューンズは日本国内でApple Inc.と一体で事業を営んでいると認められる」「厳密には6社だが、実質5社という意味で両方正しい」という。

 また、Apple Inc.とGoogle LLCは、米国の本社が対象だ(本誌の表記ルールと異なるが、本稿では例外的に、発表文の表記のままで記している)。デジタルプラットフォーム取引透明化法は国内法なので、適用は国内の事業者に限られるのではないかという質問が多く寄せられているそうだ。これについて日置氏は、「日本国内で事業を営んでいれば、外国法人も日本の法律の適用範囲。これは独占禁止法と同じ考え方です」と説明する。

 ちなみに「Apple Inc.と一体で国内事業を営んでいる」とされたアイチューンズは東京・六本木に本社を置く日本の企業だが、Apple Inc.の100%出資子会社で、2020年9月末の第16期決算公示によると売上高は4367億円となっている。東証1部上場のサイバーエージェント(2020年9月期:4785億円)には及ばないが、国内の音楽・動画配信サービス市場で圧倒的な強さを持っていると言っていい。

 誤解があるといけないので断りを入れておくと、今回の規制対象指定は企業そのものに対してではない。前3社はECサイト/ショッピングモールの「Amazon.co.jp」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」の3サイト、後3社はアプリストア/マーケットプレイス「App Store」「Google Playストア」の2サイトに限定したものだ。

 いわゆるGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)への一律的な規制ではなく(F=Facebookは指定外だが)、インターネットを使うデジタルプラットフォームを介した取引で、一定の国内流通総額があれば「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定される。今回はオンラインモールで3000億円以上、アプリストアで2000億円以上が基準だった。

 このことは中国の御三家BAT(Baidu 百度、Alibaba 阿里巴巴、Tencent 謄訊)や、新御三家TMD(Toutiao 今日頭条、Meituan 美団、DiDi 滴滴出行)なども一定の要件が認められれば規制の対象になることを意味している。同時に日本生まれ・日本育ちが楽天グループだけというのは、何とも寂しいところではある。

どこまで、どのように網をかけるか

 メガプラットフォーマーの行き過ぎた「取引上の優位性を利用した不公正・不透明な取引」について、政府が議論を開始したのは2017年6月の「未来投資戦略2017」においてだった。デジタル市場の取引実態が問題視され、独占禁止法の適用可否が議題となった。

 以後、以下のような3年越しの議論を積み上げて法整備が行われた。結果、2021年2月1日に施行され、今回の指定は行われたというわけだ。

●プラットフォーム型ビジネスの台頭に対応したルール整備を盛り込んだ「未来投資戦略2018」を閣議決定(2018年6月)
●「デジタルプラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」設置(同年7月)
●「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」(同年12月)
●「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」(2019年5月)
●「デジタルプラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」(2019年10月)
●「特定デジタルプラットフォームの透明性と公正性に関する法律」案閣議決定(2020年3月)
●「特定デジタルプラットフォームの透明性と公正性に関する法律」成立(2020年5月)

 「プラットフォーム型ビジネス」の特徴は、インターネットとWebを運営者、利用者の共通基盤にしていることだ。多くの消費者を集めることができれば、より多くの事業者が多種多様な製品・サービスを出品し、それがまたさらに多くの消費者を集めるという「ネットワーク効果」が指摘されている。製品・サービスを購入する消費者と出品する事業者をロックインし、消費者と出品事業者の情報を集積して活用することが、事業を大きくするポイントだ。

 ただし、「Google」や「Yahoo!」の検索エンジン機能やニュースサイト、「LINE」のコミュニケーション機能などは、その利便性において社会インフラに準じる地位を獲得している。また、アマゾンのクラウドサービス事業者、AWS(Amazon Web Services)は日本政府に加えて、メガバンクのシステム基盤にも採用されている。規制を設けるとして、どの範囲まで網をかけるのか、どのような規制を設定するかが課題だった。

●Next:経産省が問題視するデジタルプラットフォーマーの7つの取引慣行実態

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