[インタビュー]

DX=組織全体の変革はまずIT部門から、そのためにITリーダーがなすべきこと─Box Japan古市社長

2021年7月19日(月)指田 昌夫(フリーランスライター)

クラウドストレージサービスを提供する米Boxの日本法人、Box Japanで代表取締役社長を務める古市克典氏は、システムエンジニアやITコンサルタント、外資系IT企業の日本法人社長としてキャリアを積んだ後、2013年にBoxの日本法人設立と同時に社長に就任。日本企業のクラウド活用を初期から支援してきた人物である。同社代表としてさまざまな顧客企業のトップと対話する中で、古市氏はデジタルトランスフォーメーション(DX)や企業変革に取り組む日本企業にとっての課題や困難を痛感しているという。それは何で、氏が考える解決策とは──。

「ITは部下任せ」の経営者はいまだに存在する

 日本企業が世界共通の課題と言えるデジタルトランスフォーメーション(DX)に向かおうとしているが、多くはうまく進むことができていない。海外、特に欧米企業との比較では「周回遅れ」の声も上がっている。Box Japanの代表取締役社長、古市克典氏(写真1)は、DXの推進がうまくいかない企業の共通項の1つとして、以下のようなことを指摘する。「もちろんDXを目指すべきですが、その前に企業がすべきことがあります。コーポレートトランスフォーメーション(CX)、つまり企業・組織全体の変革です。ここから始めなくてはならないと考えています」

写真1:Box Japan 代表取締役社長の古市克典氏

 図1は、古市氏が示したDXのロードマップである。ここでCXは、企業の組織構造や社員の意識変革を指すが、具体的にどう変わるべきなのか。古市氏は、多くの企業の経営者や事業部門のトップと話してきた中で、4つのポイントが見えてきたと話す。

 「まず、経営者や事業部門のトップが、ITを正しく本質的に理解することが必要です。企業の幹部と話をしていても、そのうち一定の割合で『DXはCIO、IT部門長に任せている』という方がいます。もちろん専門家に任せていること自体は悪いことではありません。しかし、経営者自身のIT部門への評価軸が従来のまま変わっていないとしたらまずいのです」

図1:DXのロードマップ(出典:Box Japan)
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 従来の評価軸とは、もっぱらコスト削減とリスク低減である。IT部門はいかに問題を起こさず、コストを下げるか、この2点で評価されてきた。逆に言うと、冒険をして問題を起こせば一方的に叱られるため、新しいこと、変更することにきわめて消極的になっていたという。この視点だけで見ると、新しいIT(システム、アプリケーション、ツールなど)の導入は、ことごとく却下になる。

 「新しいITは、それによるリターンがあるから導入するもの。経営者はそれを理解して、IT部門に対してリスク低減、コスト削減を指示するだけでなく、享受できるメリット、期待できる利益に対する評価を適切に与えなければいけないと考えます」(古市氏)

IT部門はもっと攻めの意識を

 IT部門が、その業務活動で自社の経営やビジネスに貢献する──そんな攻めの意識を持ってもらうようにするのと同時に、IT部門自身の組織の強化、持つ権限の強化を図るべきだというのが、古市氏の考えるCXの2つ目のポイントだ。

 よく知られていることだが、日本では、ITを外部のシステムインテグレーター(SIer)に依存している企業が非常に多い。「ここは米国と日本の企業を比べると大きな差がありますね。情報サービスの業界がここまで巨大なのは、日本以外では見たことがありません」と古市氏。需要があるから業界が大きくなり、数多ある専門家集団に任せれば安心なのでさらに需要が増す──そんな構造で、企業とSIerの関係は続いてきたわけだ。

 だが、これからの時代を考えると、外部依存のままでは立ち行かないと古市氏は指摘する。「外部のSIerは、当然ながら顧客企業のビジネスを知り尽くしているわけではありません。従来型のIT施策だと、大規模な基幹システムの導入プロジェクトを行う際、SIerの社員が何年も顧客企業に常駐して、業務を1つ1つシステムに落とし込んでいきました。このやりかたで業務とITのすり合わせがなされてきたのです。半面、これはコストが膨大にかかること。しかも皮肉なことに、SIerの手で作り込まれた業務システムの機能のうち、顧客が実際に使うのは一部に限られるケースがとても多いです」

真のクラウド活用を主導できるのはIT部門

 そんな従来型ITのコストを抑え、ムダをなくしていくために、起こったのが2010年代から始まった企業におけるクラウド活用の動きだ。その後の状況は周知のとおりで、SaaS(Software as a Service)に始まり、PaaS(Platform as a Service)やDaaS(Desktop as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)と、オンプレミス(自社保有・運用)からクラウドへのシフトが急速に進んでいる。

 クラウドの取り組みの主体も、オンプレミス時代のIT部門から業務部門へと移りつつある。インフラやシステム/アプリケーションの稼働基盤を調達するIaaS/PaaSはともかく、特にSaaSに関してはその動きが顕著だ。しかし、ここで問題が生じる。クラウドの活用が加速し、しかも業務部門の主導にシフトしていると言っても、実際は簡単な話ではないとして、古市氏はこう指摘する。

 「標準的なITの仕組みと、自社の業務内容を両方を把握していないと、クラウドを真に使いこなすことはできません。クラウド活用で得られる価値の最大化、これができるのはやはり企業内のIT部門なのです。そういう自覚を持って、自社の業務にマッチする活用のしかたを定めていく必要があるでしょう。その際、経営者はIT部門に対してそれを可能にする人員と予算をしっかり付けることが重要です」

●Next:DXの道のりで、IT部門がまず変わり、全社が変わる

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