[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

「競争より共創」を地で行く独シーメンス、種々のデジタル施策:第29回

2022年2月9日(水)麻生川 静男

ドイツの総合重電機メーカー、シーメンス(Siemens)。その企業スローガンは“Infinite opportunities from infinite data(無限大のデータから無限大の可能性が広がる)”である。新製品やそれに関連するトピックから、デジタル化を強力に推進するシーメンスの取り組みと根底にある戦略を紹介する。

 ドイツだけでなく、欧州を代表する重電機メーカーのシーメンスがデジタル化を加速させている。その成果の一部を一気に見ていくことにしよう。

CO2排出量管理システム「SiGreen」

 SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の観点から、CO2排出の削減が大命題となっている。取り組みにあたって、企業はどのぐらいCO2を排出しているのか、またそれぞれの製造行程でどれぐらい排出しているのかを正確に知る必要がある。そのためには、メーカーだけの情報では不十分で、サプライヤー、顧客、パートナーが、それぞれのCO2排出量(いわゆるカーボンフットプリント)に関するデータを交換できなければいけない。

 シーメンスの「SiGreen(シーグリーン)」は、これら複数の企業にまたがって製造過程におけるCO2の実排出量に関する情報の検索、計算、情報共有を可能とするシステムである。このシステムのために、同社は分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)を使った業界横断型のオープンなネットワーク「Estainium」を立ち上げた。

 SiGreenでは、分散型アーキテクチャの利点を生かしてハイレベルのデータ保護が保証されている。DLTと共に、暗号化された証明書を交換する仕組みにより、企業は機密情報の漏洩を心配することなく、データを交換することが可能になっている。メーカーだけでなく、関連する企業や顧客のすべてがCO2排出量データを共有することができる。

製造業マーケットプレイス「Industrial Edge」

 「Industrial Edge」は、シーメンスが運営する製造業マーケットプレイスである。ここには、シーメンスのエッジアプリケーションだけでなく、Braincube、Cybus、Seio Tec、TOSIBOXなどのゲートウェイを介してサードパーティも出品できる。実際に出品されている製品としては、接続端子、ハードディスク、データ視覚化ソフト、データ解析から、デバイス監視、エネルギー管理、資産管理にまで広範である。

 技術的な基盤として、Industrial Edgeに接続されているあらゆる種類のエッジデバイスを一元管理する「Industrial Edge Management System」がある。全エッジデバイスの状況を監視し、エッジアプリや各種ソフトウェア機能を特定のエッジデバイスにリモートでインストールすることを可能にする(図1)。

図1:Industrial Edge Management Systemの仕組み(出典:シーメンス)
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 シーメンスはIndustrial Edgeを普及させるために、自身はIndustrial Edge Management Systemをはじめとする基盤整備とサービスの拡充に努めている。狙いは、出品の中心をサードパーティの製品とすることで、Industrial Edgeへの参加者を増やし、活気づけることだ。

運転の最適化を図る「SINAMICS Drive Sim Basic」

 シーメンスは、動力関係においてもデジタル化をさらに進めようとしている。「SINAMICS Drive Sim Basic」は、実際の運転状況下における機械と周辺の状況に応じたシミュレーションを行うシステムである。また、「SINAMICS Analyze MyDrives Edge」というソフトウェアを、上述のIndustrial Edgeマーケットプレイスに接続することで運転データをほぼリアルタイムで解析することが可能という(図2)。

図2:SINAMICS Drive Sim Basicの概要(出典:シーメンス)
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制御盤用5Gルーター「SCALANCE MUM853-1」

 産業用の通信ネットワークは製造業のデジタル化に不可欠である。シーメンスは制御盤をバーチャル制御する5Gルーター「SCALANCE MUM853-1」を開発した。この制御器は現場で稼働しているアプリケーションプログラムを公共無線回線の5G、4G(LTE)、3G(UMTS)に接続することを可能とする。

 ルーターは公共の5G回線を介して、プラント、機械、制御装置やその他多くの機器を遠隔から制御することができ、柔軟性が向上する。5Gを利用するので、高速データ転送が可能となる。さらに、公共の5G回線だけでなくローカルな5G回線にも接続できるメリットがある。これらの利点を備えたSCALANCE MUM856-1は今後、製造現場で普及が見込まれるモバイルロボットや物流現場で用いる自動搬送台車など、高度なリアルタイム性が要求される分野への応用が期待されている。

ゼロトラストネットワーク/セキュリティの適用

 機器を遠隔操作する際には、情報セキュリティに万全の配慮をしなければならない。シーメンスは、自社の「Defense-in-Depth(深部まで守る)」セキュリティコンセプトを、Zscalarの協力を得てゼロトラストネットワークに則るよう変更した。つまり、通信相手を一切信用せず、すべてを厳格にチェックする方針の適用である。これによって、プラントの効率を大幅に向上させるエッジアプリケーションなどに用いる同社のLPE(Local Processing Engine)「SCALANCE LPE」もゼロトラスト型での運用が可能となった。

●Next:補充部品の予測管理、自動化設計、統合開発環境──見えてくるデジタル戦略の基本スタンス

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