富士通は2022年11月8日、量子コンピューティング技術と、スーパーコンピュータなどのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を組み合わせたハイブリッド型の計算技術を開発したと発表した。必要に応じて量子アルゴリズムとHPCアルゴリズムを切り替えることで、計算の精度を高める。さらに、シミュレーション時間を推定する技術を開発し、指定した時間内でベストな結果が得られるようにした。まずは、材料開発など量子化学計算の領域をターゲットとする。
富士通は、量子コンピューティング技術と、スーパーコンピュータなどのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を組み合わせたハイブリッド型の計算技術を開発した。必要に応じて量子アルゴリズムとHPCアルゴリズムを切り替えて計算する。これらの使い分けを意識することなく使える利用環境「Conputing Workload Broker」を提供する(図1)。
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まずは、創薬や新材料開発で利用する物質の特性を計算で解明する量子化学計算の分野をターゲットとする。原子と電子のふるまいを分析するものであり、量子コンピューティングの応用領域として一般的な領域である。これを、量子コンピューティングとHPCの片方のみを使う場合よりも高精度・高速に計算できるようにする。
2022年11月現在、量子コンピューティング技術として、同社の量子シミュレータを使う(関連記事:富士通、36量子ビットの量子シミュレータを商用スパコン64ノードで構築、2022年9月には40量子ビットへ)。HPCとしては、富岳ベースのスーパーコンピュータ「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700」を使う(関連記事:富岳ベースの商用スパコン「PRIMEHPC FX700」、コアあたり性能を高めたCPUを用意)。
ハイブリッド計算の実現にあたって開発した技術は大きく2つある(図2)。
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1つは、アルゴリズムの精度を判別する技術である。分子に対するアルゴリズムの収束の様子を分析することで、量子とHPCのどちらのアルゴリズムが物理現象を適切に表現できているかを判別する。富士通は次のように説明している。
「HPCアルゴリズムが精度的に不得意とする問題では、アルゴリズムが解を算出するまでの収束状況に特定のパターンを検出することから、問題に対して試験的にHPCアルゴリズムで前処理を実行することにより、適したアルゴリズムを判別できるようになる」(図3)
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もう1つは、量子化学計算のシミュレーションに要する時間を推定する技術である。「量子化学計算では、無数に存在する分子構造ごとの収束性の正確な推定が難しく、事前に精度の高い解を得るための時間や費用の見積りが困難だった。今回、適応型AI技術を用い、分子構造とアルゴリズムの反復計算と計算時間の関係性を学習することで、事前に計算量を推定可能なAIモデルを構築した」(富士通)。精度の高い解が得られるまでの計算量を基に、必要な時間や費用を算出できるようにしたという(図4)。
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上記2つの技術によって得られた、量子/HPCアルゴリズムの判別情報や、推定の計算時間と費用、さらに計算資源の使用状況を加味することで、利用者が望む計算時間や費用に応じて量子化学計算の性能を最適化する。これにより、量子やHPCといった計算資源を意識することなく、自身の要望に最も沿う形で、量子化学計算の問題を解けるようになるという。