ガートナージャパンは2022年12月1日、ローコード開発ツールの選定にあたって、ユーザーが事前に考慮すべき3つの観点を発表した。同社は、ローコード開発のニーズが急速に進む中で、多くの国内企業においてツール選定時の混乱や選定後の課題が顕在化していると指摘し、どのような点に留意して選定を行うべきかを解説している。
グローバルでローコード開発ツールの採用が広く進んでいる。ガートナージャパンは、2025年までに企業が開発する新規アプリケーションの70%にローコードまたはノーコードテクノロジーが用いられるようになるとの予測を示している。
「日本でも、企業においてITリソースやスキルが慢性的に不足する中で、働き方改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みに伴って、ローコード開発の適用が急速に進んでいる。一方で、国内企業には、ツールをどう選定してよいのか分からなかったり、選定後に機能不足や運営上の課題が顕在化したりする状況が見受けられる」(ガートナー)
同社アナリストでシニア ディレクターの飯島公彦氏は、「ローコード開発ツールを選定する際、その要件を適切に策定するうえで、開発機能の詳細だけをやみくもに検討するのではなく、実現したいアプリケーションの目的やユースケースを具体化するなど、事前に考慮すべき観点が漏れていないかを確認することが重要」と指摘する。同氏は、事前に考慮すべき観点として、次の3つを挙げている。
1. 採用する目的とビジネス成果を明確にする
ガートナーは、「ローコード開発ツールの適切な選定にあたっては、ビジネス上のどのような目的のために、あるいはどのようなビジネス上の問題を解決するためにツールを利用するのかを考慮する必要がある」と説明している。目的を明確化することで、多くの企業が選定時の「効果があるのか」という悩みや、適用後の「効果が分からない」といった状況を回避できるという。
同社は、ローコード開発ツール利用の主な目的として、「人材不足の解消とデリバリースピードの向上」「デジタルによるビジネス変革」「ビジネスの自動化と働き方改革」「アプリケーションの俊敏性向上」を挙げている。それらの効果として、リードタイムの削減、デジタル収益の拡大、残業時間の削減、顧客満足度の向上などが考えられる。
2. 具体的なユースケースを検討し、選定上の重点を見極める
ユースケースを事前に検討しておくことで、ツールを選定するうえで重視すべきものが見えてくるという。
典型的な例として、主にIT部門におけるシステム開発の内製化、事業部門がみずから必要なシステムやアプリケーションを開発する市民開発、アプリケーションモダナイゼーション(近代化、現代化)、ビジネスプロセスマネジメント(BPM)およびケースマネジメントの推進がある。最近の企業におけるDXの取り組みからは、業務の自動化や連携、インテリジェント化を進めるのにローコード開発ツールを適用するケースが見られるという。
市民開発での活用では、IT部門以外の、特にシステム開発のスキルを持たないビジネスユーザーが「自分でも使える」と感じられる容易さが重要だと説明している。
一方で、市民開発の推進者は、高度なプログラミング知識・スキルを持つユーザーの存在も考慮すべきであると指摘する。こうした上級レベルのユーザーには、レベルに応じて相応の開発機能を提供することが望ましく、一般のエンドユーザーが使うツールと分けるといった判断が必要だという。
「知見を持つユーザーは、企業全体の市民開発者コミュニティを形成していく上でのリーダー的な役割やIT部門との橋渡し役を担ってもらうべく、市民開発推進の当初より緊密なコミュニケーションをとり、信頼関係を構築することが望ましい」(飯島氏)
このほか、ローコード開発では、属人化/ブラックボックス化の回避、成果物の適切な共有・流通のためのガバナンス機能やセキュリティ、企業としての業務の正当性を担保するためのコンプライアンス機能なども求められる。これらはローコード開発ツール単体ではカバーできない部分も多いため、各種ツールと組み合わせると共に、CoE(Center of Excellence)のような横断的組織やレビュープロセス/ルールなどの整備を、適用の規模やユーザーの成熟度を勘案しながら行う必要があると説明している。
●Next:開発ツールからプラットフォームへ、捉え方の転換が必要に
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