大日本印刷(DNP)が基幹業務システムのクラウド移行を推進中である。2022年11月に移行(リフト)を終え、続いてシステムを刷新(シフト)していく計画だ。2001年以降、事業構造の転換を進めている同社にとっては今回の移行は待ったなしだったという。それはどういうことで、どんな考えや工夫があったのか。グループの情報システムを統括し、業務ITの戦略と実行を司る同社 常務執行役員の金沢貴人氏に聞いた。
事業変革の中でオンプレミス基盤の老朽化が課題に
日本を代表する印刷会社の1社として知られる大日本印刷(DNP)。社会や産業界のペーパーレス化など印刷事業が縮小する潮流をいち早くとらえ、2001年から印刷技術(Printing)を情報技術(Information)と掛け合わせた「P&Iソリューション」という事業ビジョンを推進してきた。
この段階では顧客の課題解決を図るという位置づけだったが、2015年には顧客の先にある社会を自ら見据えて、社会課題を解決するイノベーションを生み出していく「P&Iイノベーション」に変え、新しい価値の創造の柱へ、さらに同社が推進するDXの基本姿勢となっている(図1)。
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言葉だけではなく、事業構造の転換も進めている(図2)。DNPは雑誌や書籍などの出版印刷事業に加え、すでにエレクトロニクス部門で世界有数の製品を展開するメーカーでもあるのだ。
例えば、EV(電気自動車)の2次電池の外装材であるバッテリーパウチや、ディスプレイ用光学フィルムでは世界シェア1位を誇る。2022年3月期のグループ全体の売上高は約1兆3441億円。売上では、情報コミュニケーション部門などが過半数を占めるものの、営業利益面ではエレクトロニクス部門が半分以上に達するまでになっている。
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こうした事業構造転換の中で進めるのが、システム刷新だ。常務執行役員としてITを統括する金沢貴人氏(写真1)は、「当社の事業ポートフォリオは大きな変革期にある。紙に印刷する商品を製造していた時代のシステムを、それに合わせて刷新するのは必然」と説明する。
例えばエレクトロニクスや高機能マテリアルを中心に、海外企業の買収、海外における工場の新設など、海外進出も進めている。「それに伴い、ガバナンスをさらに強化していく。グループ全体におけるシステムの革新やセキュリティ強化は必須だった」(金沢氏)。
「強烈なカスタマイズ」体質からの脱却
DNPの既存システムは、オンプレミスのシステム基盤上で各事業部門の業務システムが横並びで稼働している状態だった。一部のコミュニケーションツールや海外事業部門の業務アプリケーションのいくつかはSaaSを利用していたが、基本的には各部門の要望に応じて情報システム部門が個別にシステムの構築と運用・保守・改善を行っていた。
これ自体は多くの企業に共通するITの構築・運用体制だが、違いもあった。情報システム部門による「強烈なカスタマイズ」(金沢氏)がそれだ。「印刷事業という作り込みの世界で長年事業展開してきた経緯があり、情報システム部門も事業部のニーズに可能な限り応える思いが強かった。例えば使用するメールソフトも要望を受けてカスタマイズするなど、様々な部分で作り込んでいた」(同氏)。
金沢氏は、「この状況から脱却しなければ」という強い思いを抱いていた。「新たな技術が次々に登場する今日、社内に閉じた技術の使い方だけをしていては取り残される。それ以上に既存システムの改善や運用にIT人材のリソースをとられ、競争領域に生かせなければ、会社の成長の足を引っ張る可能性さえある。ITリソースの再分配と投資の適正化に舵を切ることは重要なテーマだった」。
クラウド移行方法としてリフト&シフトを選択
業務システムの刷新は2段階で進めている。システム基盤をクラウドサービスに移行するクラウドリフト「LIFT」と、業務システムのマイクロサービス化などを行うクラウドシフト「SHIFT」である。今回、実施したプロジェクトは前者のLIFTだった。事業継続性とセキュリティの強化や、老朽化したオンプレミス基盤の運用負担の低減などを目指した(図3、4)。
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このうち事業継続性は、いわゆるBCP/DR(事業継続計画/災害復旧)のこと。同社の拠点である関東での災害時に事業が継続できるように、クラウドリフトを機にクラウド上で東京と大阪のリージョンの異なるデータセンターの機能を実現したのである。
移行先として選定したクラウドサービスは、Oracle Cloud Infrastructure (OCI)である(図5)。オンプレミスのシステム基盤の一部にOracle Database専用基盤を利用しており、それがシステム全体の75%を占めているだけに、スムーズな移行は重要な要件だった。AWSやMicrosoft Azureではデータベース分割が必要になるが、OCIはその問題がなく、拡張性もあったという。オンプレミスと同等の性能が出せることを保証されている点も安心材料だった。
一方、アプリケーションの多くはVMware仮想化環境上にあり、約600の仮想マシンが稼働していた。「VMwareに精通した技術者も多数抱え、相当深いところまで使い込んでいた。その部分のクラウド移行もOCIのVMwareソリューションならスムーズにいくメドが立っていた」(金沢氏)。
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●Next:クラウド移行の体制・成果と、全社で進める攻めのITへの人材シフト
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