ビジネスプロセスの最適化に継続的に取り組むことが事業目標の達成を近づけ、ひいては競争優位性の源泉となる。2023年6月30日にオンライン開催した「プロセスマイニングコンファレンス 2023 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)において、ソフトウェア・エー・ジー(Software AG)の小原洋氏と龍澤昭悟氏が登壇し、プロセスマイニングが注目を集める背景や、ビジネスプロセスの具体的な改善手法、国内外での取り組みについて解説した。
世界中で1000万人以上のユーザーを抱える「ARIS」
顧客満足度や業務効率の向上、さらには収益の拡大…。企業におけるさまざまな事業目標を達成するにあたって、まずは「ビジネスプロセスの把握」が重要であることに異論を唱える人はいないだろう。ビジネスプロセスとは企業が市場価値を創出する一連の処理手順や判断基準、すなわちビジネスそのものであり、その深い理解を抜きにして自社の現状認識、ひいては目標達成への具体的な道筋を描くことは難しい。
もっとも、実情に目を向けると、プロセスの理解が各現場の担当レベルにとどまっているケースが少なくない。「組織変更などで担当者が現場から離れることによって、業務に分断と混乱が生じてしまうケースがそこかしこにあります」と指摘するのは、Software AG日本法人社長の小原洋氏だ。
「自社のビジネスプロセスへの知見は、事業の継続性という観点でも必須です。属人化させてはならず、ビジネスプロセスを可視化し、組織として共有すべきなのは明らか。つまりは“プロセスドリブン”な組織に変容すべきであって、それではじめて業務をどう見直すべきかの客観的な議論も可能になるのです」(小原氏)
その手法として、近年にわかに裾野を広げているのがプロセスマイニングだ。各種業務システムが生成するログの多面的な分析を通じて「実務現場で行われていること」を可視化し、改善に向けた足がかりとする。その先駆的ツールとして約30年前にリリースされ、今では全世界に1000万人以上のユーザーを抱えるのが、ソフトウェアAGの「ARIS」だ(図1)。
拡大画像表示
継続的なプロセス改善でプロセスエクセレンスを
ビジネスプロセスを把握することの必要性や重要性は認識されながらも、従前は一筋縄ではいかなかった。従業員へのヒアリングやアンケートなどが一般的だった当時、相応の手間や時間、コストを要することや、人の主観に依存しがちなことが、正確な可視化の“壁”だったのだ。それを打破するものとして期待と注目を集めるのが、データという客観的な事実でビジネスプロセスを短期間かつ正確に可視化するプロセスマイニングなのである。
現在、市場に関連ソリューションが幾つかある中で、小原氏がARISの強みの1つとして挙げるのが、把握した現状(As-Is)のプロセスデータに手を加えて再デザインする機能を標準で備える点だ。「つまり、As-Isデータを叩き台に、在るべき(To-Be)プロセスの検討に乗り出せるわけです。この手法であれば、現場の知識や経験が乏しくとも、業務の見直しのハードルを大きく引き下げられます」(小原氏)
小原氏によると、ARISによるAs-IsとTo-Beの比較/検証を通じた継続的なプロセス改善は、今後を見据えた持続的成長の礎になるという。プロセス品質を徹底的に磨き上げて他社の追随を許さない競争優位性を確立すること、すなわち「プロセスエクセレンス」への近道だ。実現の暁には、末端の社員までの業務の流れの把握と改善カルチャーの醸成を両輪に、継続的かつ全社的なオペレーション改善が実現することが、数々の実績ですでに明らかとなっている。
「ここにきてDXや業務自動化に取り組む企業からARISの引き合いが多く寄せられています。ARISがプロセス改善、さらに革新に大きく貢献すると評価されている証左と自負しています」(小原氏)
既存プロセスとの差異分析で改善の気づきを獲得
では、ARISによるプロセス改善は具体的にどう進められるのか。最初は言うまでもなく、現状のプロセス把握だ。業務の実行主体は「人」「システム」「人+システム」に大別され、ARISでは前述の通りに、システムログ(タスク名、タスクの開始/終了時間など)を取り込むことで、フロー図として自動的に可視化される。取り込みも簡単でCSVファイル形式以外に、他システムとの連携用コネクターも550種類以上用意されている。
プロセス改善はここからが本番だ。プロセスマイニング画面では各種グラフ表示により、プロセスのパフォーマンスを確認できる。Software AGでARIS担当 シニアソリューションアーキテクトを務める龍澤昭悟氏は「プロセスの月別の件数や平均処理時間などの簡単なものから、一連のプロセスにおける問題の根本原因の分析もクリック操作だけで実施できます。それらを参考にすることで、業務のどこを見直すべきかの気づきが得られます」と説明する。
このプロセスで大いに活用を見込める機能が「適合性検査(コンフォーマンスチェック)」だ(図2)。これは、後述するモデリングツールで作成した、標準化後の業務プロセスをプロセスマイニング側に取り込み、既存プロセスとの差異を分析する機能だ。差異の程度は数値として明示。併せて原因も文章として提示されるため、結果確認を通じて優先順位を付けつつ即座に対応の手を打てる。
拡大画像表示
もっとも、システムログがない場合はどうするのか。そこで用いるのが、一からプロセス図を描いたり、As-Isのプロセスデータに手を加えたりするためのモデリングツールだ。個々の業務用のテンプレートをマウスで選択し、画面に配置する操作で容易に作図できる。そのデータを再度プロセスマイニング側に移し、ダッシュボードを利用してシミュレーションすることも可能だ。
全社的なプロセス改善では、判断のブレを避けるためにも確固とした方針を掲げるのが望ましい。「そのための、経営戦略を起点にビジネスプロセスを描く機能群もARISのモデリングツールの特徴です」と龍澤氏。具体的には、戦略図やKPI割当図、KPIツリーなどのモデルを標準でサポート。その上で、可視化されたプロセスとともに、ビジネスの重要性やそのKPI、個別目標などをARISのレポジトリで共有しつつ両ツールによるプロセスの見直しを継続することで、情報の散逸を防止した確実な変更管理が実現し、目標に着実に近づけるのだという。
プロセス最適化に挑む国内外の事例が続々と
ARISで成果を上げる企業は国内でも数多い。事業のスピードと効率向上に向けデジタル化に戦略的に取り組む伊藤忠商事では、ARISにより全社規模のプロセス可視化を推進。わずか2カ月間で10〜15%のプロセスを可視化し、作業効率の向上と自動化すべき領域の特定につなげている(図3)。現在はRPAにより自動化された400以上の業務のARISへのマッピングを進めている最中だ。
拡大画像表示
また、交通インフラシステムを手掛ける日本信号は、基幹システム刷新の下準備として業務プロセスの可視化に着手。プロセスマイニングツールとしての高い機能に加え、既存のSAPとの親和性の高さからARISに白羽の矢を立て、SAPデータへの直接アクセスにより、ユーザーによる多様な切り口での分析を実現している。
「政府系機関でも数多く利用されています。例えばアラブ首長国連邦のドバイでは、人口増により行政サービス需要が増加し続ける中、ARISによるプロセスの可視化と再設計を通じてサービスコストの大幅減を達成しています」(小原氏)
プロセスマイニングという1つの側面にとどまらずに、「プロセス最適化による競争優位性の創出」を継続的に支援する機能群が“スイート”として網羅的に提供されていること、さらにはビジネスプロセスに軸足をおいて約30年の間に蓄積してきた豊富な知見を有すること。それらがSoftware AGの大きな強みであり、市場での存在感は益々際立っていくはずだ。
●お問い合わせ先
ソフトウェア・エー・ジー株式会社
URL:https://www.softwareag.com/ja_jp.html
E-Mail:Marketing-jp:@softwareag.com
- 10年間で事業利益を約10倍に拡大! 少数精鋭で業績をあげる組織の基幹システム構築方法とは?(2023/09/04)
- プロセスマイニングがRPAの効果を最大化UiPathが提示する「目指すべきプロセス刷新」の在り方とは?(2023/08/31)
- 次世代のプロセスマイニング技術が業務プロセスの複雑性を紐解く(2023/08/03)
- 自動化技術とセットでハイパー・オートメーションを加速!─VUCA時代におけるプロセス改善のあるべき姿とは(2023/07/27)