[ユーザー事例]
DXグランプリ選出のトプコンと日本郵船、経営トップが明かすビジョンと実践
2023年8月7日(月)奥平 等(ITジャーナリスト/コンセプト・プランナー)
トプコンと日本郵船。「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄」のいわゆる常連とまでは言えなかった両社が2023年6月、初のDXグランプリに選出された。早期から自身の「DXのあるべき姿」を描いて具現化に向けて取り組みを重ねてきた企業が、いよいよ成果を出し始めたことの証左だ。前回の概要編に続き、今回は事例編として、両社の経営トップが発表会の受賞スピーチで語ったビジョンとアクションをお伝えする。
●概要編:経産省・東証、「DX銘柄2023」32社などを選定、常連に加えて初選定も多数
トプコン
デジタルで「医・食・住」の社会的課題の解決を図る
2020年度から3年連続で経済産業省・東京証券取引所の「DX銘柄」に選定され、ついに「DXグランプリ」に輝いたトプコンは、東京都板橋区に本社を置く光学機器メーカーである。「医・食・住に関する社会的課題をDXで解決するグローバルソリューションプロバイダー」を掲げて、医療機器や測量機器などの製造・販売を行っている(図1)。
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同社の経営は、上述のスローガンにあるように医(ヘルスケア)・食(農業)・住(建設)への貢献。いずれも世界の人々が豊かな生活を営む上で欠かせない分野だ。DXグランプリ受賞スピーチに立ったトプコン 代表取締役社長 CEOの江藤隆志氏(写真1)は、この3分野のグローバル展開を加速している姿を、歴史と変遷を振り返りながら説明した。
ターニングポイントとなったのは1994年、建設分野において米国のベンチャー企業Advanced Grade Technologyを買収したこと。これを契機に建設におけるICT施工の領域に参入。自社の強みである高精度測定技術による「位置決め(Positioning)」技術を確立し、建設工事ワークフローの一元化を指向した「建設工事の工場化」を実現した。これにより、世界的なインフラ需要に伴う技術者不足への対応、気象変動に伴う災害の頻度・規模の拡大を踏まえた防災・安全性の向上に寄与している。
さらに医療分野、農業分野においても、これまでの延長線上になかった新しいコンセプトを次々と打ち出し具現化していった。医療分野では、世界的な高齢化と眼科医師不足という社会課題に対して、眼検診におけるスクリーニングの仕組みを提供。無症状の集団を対象とする検査で罹患者や発症が予測される患者を抽出し、早期発見・早期治療に貢献している。また、農業分野では世界的な人口増加に伴う食糧不足への懸念、温暖化や気象変動による農作物被害や生産減少を視野に、営農サイクルの一元管理に立脚した「農業の工業化」を追求している(図2)。
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創立100周年ビジョンにリアルワールドデータの活用
以上のように、トプコンはメーカーとして良い製品やサービスを提供するだけではなく、業界の課題に真摯に対峙して、「データ共有・一元管理」を基軸に技術と製品・サービスを融合させた解決策をクラウドベースで提供するに至っている。それだけに江藤氏は、同社の現在地を「デジタル化と自動化による生産性や品質向上に立脚した各分野のプラットフォーマー」と位置づけ、今後の展望を次のように語った(図3)。
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「『尖ったDXで、世界を丸く。』をキャッチフレーズに、リアルワールドデータの活用を前提としたさらなる効率化に邁進し、新しいイノベーションの創出と持続的成長を果たしていきます。また、創立100周年となる2032年をターゲットに、データ分析に基づく、課題への先回り対応を可能とするソリューションに昇華させていきたいと考えています」
最先端技術の融合により、医・食・住の社会課題解決を目指す同社のスタンスと意気込みに、会場からは大きな拍手が送られた。
日本郵船
「5つのX(変革)」を描いてDX/ESG経営を推進
DXグランプリのもう1社、日本郵船(本社:東京都千代田区)は、2016・2017年に「攻めのIT経営銘柄」、2021年にDX銘柄に選出され、こちらも今回初のDXグランプリとなった(図4)。ご存じのように我が国を代表する3大海運会社の1社で、1885年の創業以来、海に囲まれた島国における貿易量の99%以上を担う海運を中心に、人々の暮らしや生活に欠かせないロジスティックスを支えてきた。
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同社 取締役会長の長澤仁志氏(写真2)は、「Bringing value to life. デジタルの力でESG経営を目指す日本郵船」と題して、スピーチを行った。2030年ビジョンとして、「総合物流企業の枠を超え、中核事業の深化と新規事業の成長による未来に必要な価値の共創」を掲げる日本郵船は、その実現に向けて2023年3月、2026年度までの4年間の新中期経営計画を発表した。
その成長戦略の核に据えられているのがESG経営で、新たにESG戦略本部を設置すると共に、ABCDEの頭文字を並べた5つの「X(変革)」を新たな経営戦略の柱として位置づけている。「AX」はAmbidexterity(両利きの経営)、「BX」はBusiness Transformation(事業変革)、「CX」はCorporate Transformation(人材・組織・グループ経営変革)、「DX」はもちろんDigital Transformationで、「EX」はEnergy Transformation(脱炭素戦略の本格化)を意味する(図5)。
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●Next:「ABCDE=5つのX」の具体的アクションと成果例
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