[市場動向]
経産省・東証、「DX銘柄2023」32社などを選定、常連に加えて初選定も多数
2023年6月19日(月)奥平 等(ITジャーナリスト/コンセプト・プランナー)
経済産業省、東京証券取引所、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2023年5月31日、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」の選定企業を発表した。「DX銘柄2023」32社(DXグランプリ企業2社を含む)、「DX注目企業」19社に加えて、新設の「DXプラチナ企業2023-2025(3年間の時限措置)」に3社が選定された。DXグランプリには、トプコンと日本郵船が、初のDXプラチナ企業には中外製薬、小松製作所、トラスコ中山の3社が選ばれた。本稿では概要編としてこの日の発表の全体像をお伝えする(事例編はこちら)。
●事例編:DXグランプリ選出のトプコンと日本郵船、経営トップが明かすビジョンと実践
4年目を迎えて定着に向かう「DX銘柄」
「DX銘柄」は、経済産業省と東京証券取引所が、東証上場企業(プライム、スタンダード、グロース)の中から、「企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、すぐれたデジタル活用の実績が表れている企業」を、業種区分ごとに選定して公表する取り組みだ。
経緯として、経産省と東証は2015年より経営革新や収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT活用に取り組む企業を「攻めのIT経営銘柄」として選定してきた。2020年からこれをDX銘柄と改め、単にすぐれた情報システムの導入、データの活用にとどまらず、デジタル技術を駆使してビジネスモデル変革・経営変革に果敢にチャレンジし続けている企業を対象に選定を行っている。そこには当然、我が国の産業の成長・発展にはDXの推進が不可欠であり、そのベストプラクティスを広く知らしめることで、全業界全体の再興につなげていきたいという思いが内包されている。
その中にあって、名称変更後から4年目・4回目を数える「DX銘柄2023」は、大きな分岐点となりそうだ。それは、発表会の活況ぶりからもうかがえる。2021年、2022年の発表会は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴いオンライン開催を余儀なくされた。だが、今回は4年ぶりにコンファレンス型の開催(会場:イイノホール&カンファレンスセンター、東京都千代田区)が復活し(オンライン配信も併催)、収容人数500名の会場がほぼ満席となった(写真1)。
調査に回答したエントリー企業すべてに案内し、名刺交換会を併催した事務局の努力と工夫もあるだろうが、やはり「DX銘柄」という施策自体が定着し、投資家を含めたステークホルダーが熱い視線を注ぐようになってきたことが、多数の企業の参加につながったと言えよう。
今や上場企業のIRや中期経営計画に「DX」を掲げていない企業は皆無に近いが、意識のレベルは、これまでの“必要性”から“必然性”のフェーズへと確実にシフトしている。企業のDXに対する取り組みは着実に実態を伴い始めているのである。
常連に加えて新規の台頭が目立つ
経産省のDX施策として、2020年5月に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づく「DX認定制度」があるが、DX銘柄にエントリーするためには、DX認定の取得が前提となる。
なお、DX認定の申請は2022年9月に同省が改訂した「デジタルガバナンス・コード2.0」の新基準に準拠する内容となっており、DX銘柄2023の選定においてもこれを踏まえて、①デジタルガバナンス・コードの改訂に伴う調査項目・審査ポイントの変更、②投資家目線での調査項目の追加、③業種別選定企業数の緩和などがなされている。
その中にあって今回は448社がエントリー。厳正な審査を経て、下記の企業がDXグランプリ、DX銘柄2023(表1)、DX注目企業(表2)、DXプラチナ企業2023-2025(表3)に選定された。
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注目すべきは、攻めのIT経営銘柄からの常連企業に加えて、新たに選定された企業が数多く含まれていることだ。32社のうち、大林組、第一三共、ヤマトホールディングス、双日、アスクル、クレディセゾン、東急不動産ホールディングス、プロパティエージェント、H.U.グループホールディングスと初登場の企業が約3割を占める。また、満を持して再登場してきた企業も多い。
グランプリの2社、トプコンと日本郵船にしても、いわゆる常連とまでは言えなかった企業である。このことは、自身の「DXのあるべき姿」を模索し続けてきたそれぞれの企業が、いよいよ収穫の時期を迎えていることを意味している。
DXの成熟を象徴するプラチナ企業
まさに新旧・業種・業態入り乱れて百花繚乱の選定となったDX銘柄2023だが、その背景を、ガートナーのテクノロジーハイプサイクルになぞらえると、具体的な事例が顕在化していく過程で、国内企業のDXが「黎明期」から「過度な期待のピーク期」を経て、理解が深まる「啓発期」へと向かいつつあるようだ。要はこれまでのDXの推進を通じて得られた成果が、ここにきて業種・業態特有の傾向としてではなく、個社単位のオリジナルなDXの形として表れ始めている。
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このことを象徴しているのが、DXプラチナ企業に選定された3社(写真2)と言っても過言ではない。DXプラチナ企業は、本銘柄施策の開始当初からDXに対して傑出した取り組みを「継続」している企業を選定するもので、3年連続でDX銘柄に選定されていること、過去にDXグランプリに選定されていることなどが条件となっている。今回、選定された3社は、いずれもDXを自社のパーパスや経営戦略の中枢に据え、その成果の維持・向上に努め続けている。
中外製薬(DX銘柄2022/DXグランプリ)は、「デジタルを駆使したAI創薬」を従来から取り組んできた独自の抗体創製技術や中分子創薬技術と融合させることにより、いまだ有効な治療法が見つかっていないアンメットメディカルニーズ(Unmet Medical Needs)への突破口を開き、世界でも類を見ないテクノロジードリブンな医薬品メーカーとしてのポジショニングをさらに強化していこうとしている(関連記事:中外製薬が挑む「デジタルを駆使したAI創薬」その進捗と成果)。
小松製作所(DX銘柄2020/DXグランプリ)は、「DXスマートコンストラクション」という概念の下にESGの課題解決と収益向上の両立に挑み続けている。CPS(Cyber Physical System)に基づく “未来の現場”を深化させるべく、オープンプラットフォームに立脚したエコシステムを強化しつつ、さらなるイノベーションの具現化に注力する(関連記事:建機革命から20年、“未来の現場”に向けたコマツのDX/オープンイノベーション)。
トラスコ中山(DX銘柄2020/グランプリ)は、勘と思い込みを排除する「データドリブン経営」へと鮮明に舵を切り、モノを供給する流れを可視化するサプライチェーンはもとより、ロジステックの各プロセスにおいてもたらされる価値を徹底追及するバリューチェーンを創出し、“究極の問屋”としての存在感を堅持し続けている(関連記事:“究極の問屋”を目指してデータドリブンに舵を切る─トラスコ中山の独創経営)。
DXプラチナ企業3社に見る「競争力の継続」の重要性については、DX銘柄2023評価委員会の委員長を務めた一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏が、発表会の基調講演の中でも触れている。
要約すると、「DXがビジネスに与えるインパクトが確信へと変わる中で、企業はそれをいかに継続させていくかという段階に突入している」ということだ。DXを瞬間的なインパクトに終わらせずに、PDCAサイクルの中で常に昇華させていく意義を問う「DXプラチナ企業2023-2025」の創設は、今後とも企業の励みとなり、産業界の成長・発展に寄与していくに違いない。
●Next:国際競争力ランキングで下位に沈む日本、その復興策としてのDX
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