[ザ・プロジェクト]

建機革命から20年、“未来の現場”に向けたコマツのDX/オープンイノベーション

「DX銘柄2020 DXグランプリ」企業の戦略と実践[後編]

2021年4月15日(木)奥平 等(ITジャーナリスト/コンセプト・プランナー)

顧客である土木・建設業における現場の課題解決に立脚し、「KOMTRAX」や「スマートコンストラクション」などの提供を通じて、業界のデジタル化/バリューチェーン変革をリードし続けてきた小松製作所。2020年4月からは「デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション」を掲げて取り組みのフェーズを進化/深化させている。2021年、創立100周年を迎えたコマツが推進するDX/オープンイノベーションの実践と、その先に見据える“未来の現場”の姿を、軌跡を振り返りつつ紹介する。

長年ICTを駆使して課題解決に取り組んできた先進企業

 建機革命と呼ばれた「KOMTRAX」から20年。IoTが普及するはるか以前から、コマツは土木・建設業における現場の課題に対峙し、ICTを駆使して解決にあたってきた。本誌の読者なら皆ご存じの、ICT先進活用企業である。

 近年、経営の中核に据えているのが、2015年から進める「スマートコンストラクション」である。2013年初登場のICT建機を導入して、測量から施工・出来形検測までを3Dデータでつなぎながら施工の価値を最大化する取り組みだ(図1写真1)。当初からそのコンセプトを自社から顧客、そして業界・社会の課題解決に置いて推進してきたが、2020年4月からは「デジタルトランスフォーメーション(DX)・スマートコンストラクション」と、DXを冠した新名称でフェーズを進化/深化させている。その取り組みは、経済産業省と東京証券取引所の「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」の選定においても高く評価され、「DXグランプリ2020」に輝いている。

図1:スマートコンストラクション(出典:小松製作所)
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写真1:油圧ショベル機「PC200I-11」に搭載されたマルチGNSS対応インテリジェントマシンコントロール(出典:小松製作所)
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 DXスマートコンストラクションは長年の取り組みの集大成と言える。IT企業さながらの、IoTデバイス/アプリケーション群の提供による、プロセス単位での「縦のデジタル化」と、施工全工程をデジタルでつなぐ「横のデジタル化」。そして、実際の現場とデジタルの現場を同期させたデジタルツインによる施工の最適化を図っている。将来的には複数の施工現場をリアルタイムに遠隔でつなぎ、最適にコントロールする「奥のデジタル化」までを視野に入れている。

 同時に、企業や業界の枠を越えたオープンイノベーションを推し進める。その象徴とも言えるのが、土木・建設業界全体のプロセス変革を目的に、2017年10月よりNTTドコモ、SAPジャパン、オプティムと共同運営するオープンプラットフォーム「LANDLOG」だ。上述のDXスマートコンストラクションに基づくIoTデバイスやアプリケーション群は、グローバルR&Dプロジェクトとしてスタートアップ企業を中心とする開発パートナー20社と2019年4月より取り組んできた成果でもある。

 DXスマートコンストラクションを中核ビジョンに、DXとオープンイノベーションに挑み続けるコマツ。以下、同社のこれまでの軌跡と現在の取り組みを確認しながら、同社が導こうとする建築・施工の未来の現場を垣間見てみたい。


●Column●
DX銘柄2020/DXグランプリについて

 経済産業省と東京証券取引所が、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化を目的に、日本企業の戦略的IT活用の促進に向けた取り組みの一環として、2015年より5回にわたって共同で実施してきたプログラム「攻めのIT経営銘柄」を、2020年度よりDXの実践にフォーカスして「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に改定。過去最多となる533社のエントリーから「DX銘柄2020」選定企業35社と「DX注目企業2020」21社が選定された。DX銘柄2020のうち、「デジタル時代を先導する企業」としてトラスコ中山と小松製作所の2社が「DXグランプリ2020」に選定された(関連記事ポストコロナに向け、DXを先導するユーザーの着眼点は─「DX銘柄2020」選定企業の顔ぶれ“究極の問屋”を目指してデータドリブンに舵を切る─トラスコ中山の独創経営)。


国交省も注目する、顧客課題に立脚したスマートコンストラクション

 コマツが2015年から取り組むスマートコンストラクションは、顧客である土木・建設業における現場の課題解決に立脚している。

 慢性的な労働力不足やオペレーターの高齢化、安全確保とコストの両立での現場監督の苦慮……。施工現場にはさまざまな課題がある中、安全で生産性の高い、スマートでクリーンな未来現場を具現化していくには、最新の建機を提供するのにとどまらず、それらをつないで可視化するような仕組みが必要である──スマートコンストラクションはそうした発想に基づいている。

 名称から推察できるが、スマートコンストラクションの考え方は、国土交通省の「i-Construction」との整合性を有している。i-Constructionは「ICTの全面的な活用などの施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す」ことを目的として、同省が2016年度より展開する取り組みだ。

 上述のようにコマツのスマートコンストラクションの始動は2015年で、同省はi-Constructionの策定にあたってコマツの取り組みを参考にしたという。実際、建設業におけるデジタル活用の基準も、i-Constructionの公表を契機に抜本的改定となっており、一企業の取り組みが業界全体に影響を与えた形だ。社会基盤を担う建設業を国家としてバックアップするi-Constructionと、顧客が直面する課題の解決から始まったスマートコンストラクション。スコープの違いはあるものの、コンセプトは同じ方向を向いている。

ダントツバリュー/KOMTRAXから始まった建機革命

 今のDXスマートコンストラクションに至る経緯を振り返ってみる。2000年代以降、コマツは「DANTOTSU Value(ダントツバリュー)」を掲げて「ダントツ商品」「ダントツサービス」「ダントツソリューション」の3軸を展開する。

 ダントツ商品は、他社が数年かけても追いつけない最新技術などを導入した製品を指す。2008年のハイブリッド油圧ショベル、2013年のICT建機、2019年の人検知衝突軽減システムなどがそれに当たる。ダントツサービスは、工場出荷時にダントツであった商品が、顧客の元で長年にわたり使い続けられる中で、常に品質を維持し続け、顧客の現場でダントツであり続けるための施策として位置づけられた。

 ここでコマツが投入したのが、機械稼働管理システム「KOMTRAX(Komatsu Machine Tracking System、コムトラックス、図2)」である。IoTが普及するはるか以前、2001年の時点で標準装備を始めている。建設機械にGPSや通信システムなどを搭載し、建機の位置や稼働状況を一元管理するこのシステムは、保守管理や省エネ対策などに有効と評価され、現在では全世界で約60万台(2020年時点)のICT建機が稼働している。

図2:KOMTRAX(出典:小松製作所)
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 ダントツ商品やダントツサービス、とりわけKOMTRAXを展開する過程で、コマツは顧客の建機からの継続的なデータ収集の仕組みを整え、それが新たな競争優位基盤となっていった。一方で、通信技術とセンサー技術を融合したIoTが登場。その進化に伴い、コマツはデータ活用を通じて、顧客の課題解決へ向けて舵を取る。

 単に機器の自動化・自立化を実現するのみならず、「モノ」から発せられるデータを有機的につなぐことで、測量から検査までを含めた現場全体を見える化し、施工オペレーション全体の最適化を図る「コト」の改善を起こそうという発想だ。そのコンセプトを具現化したのが3つ目のダントツソリューションであり、その核を担うのが、すでに国内1万以上の現場で導入されているスマートコンストラクションというわけだ。

 「ダントツ商品とダントツサービスは、コマツの意思の下に自社のオペレーションを改善していくことに主眼を置いていました。それに対して、ダントツソリューションはお客様の課題やオペレーションに立脚し、生産性や安全性を改善していくことを目的としています。そこが大きな違いです」。こう説明するのは、コマツの執行役員でスマートコンストラクション推進本部 本部長を務める四家千佳史氏(写真2)である。四家氏は、3つのダントツの関係性を踏まえて、DXの本質を次のように説明する。

写真2:コマツの執行役員でスマートコンストラクション推進本部 本部長を務める四家千佳史氏

 「当社はICTならびにデジタルを重要なファクターと位置づけ、積極的に採用しています。ただし、目的はあくまでも、施工プロセス全体の中で“安全で生産性の高いスマートでクリーンな現場”を実現すること。ICTやデジタルは、そのための手段に過ぎません。その過程において、お客様の施工プロセスに変革が起きたとき、それこそがDXと言えるのではないでしょうか。そのためには当然、コマツもまた変革を促していかなくてはなりません。DXはデジタル活用による業務改善・効率化や生産性向上にとらわれがちですが、その本質は変革なのです。また、ICTやデジタルを目的化してしまったら、部分最適はできても、全体最適にはつながりません。その意味で、自社やステークホルダーのみならず、業界全体に変革を促していきたいということこそ、スマートコンストラクションの原点にしたいと考えています」

 なお、コマツは2021年の創立100周年とその先のあるべき、目指すべき姿を描いた2019~2021年度の中期経営計画において、3つのダントツを進化・レベルアップさせることでダントツバリューを築いていくことを宣言している。

 そこでは、「安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場」という顧客価値の創造を通じて、ESG課題の解決と収益向上を両立することを目指しており、「DXグランプリ」の選定に際しても、その実践が高く評価された。それだけに、顧客志向に立脚したダントツソリューションの中核をなすスマートコンストラクションは、コマツのサスティナビリティ経営における重要な戦略的支柱と言える。

●Next:スマートコンストラクションを具現化する先進テクノロジー活用

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