企業・組織におけるデジタルツール(アプリケーション、サービスなど)の効果的な導入・活用を促す新しいアプローチとして、デジタルアダプションプラットフォーム(Digital Adoption Platform:DAP)と呼ばれる製品分野が登場し、徐々に注目が高まっている。表面的な機能から「単なる操作ガイド」の印象を持つ向きも少なくないが、10年以上前からこの市場に取り組むWalkMe(ウォークミー)によれば、それは大きな誤解であり、デジタルアダプションがもたらす全社的な業務改善効果を訴えている。同社日本法人の代表を務める小野真裕氏に、WalkMeに備わる機能やデジタルアダプションの本質的な価値を聞いた。
デジタルアダプションとは?
WalkMe(ウォークミー)は、2011年にイスラエルのテルアビブで創業したデジタルアダプションプラットフォーム(DAP)の専業SaaSベンダーである。現在は米国サンフランシスコにも本社を置き、グローバルに事業を展開する。同社のDAPは2000社以上に導入されており、地域は北米、イスラエルを含むEMEA、APAC、そして日本国内まで幅広い。日本でも100社以上がすでに利用しているという。
デジタルアダプション(Digital Adoption)とは何か。WalkMeは自社のDAPを、従業員が業務アプリを利用しているときにガイドを表示するなど、アプリ利用を定着化するための支援を行い、目的の業務を迅速に遂行するためのツールであると説明する。2017年頃に定義された製品分野で、現在ではガートナー(Gartner)やエベレストグループ(Everest Group)などのグローバル市場調査会社も調査対象市場として扱っている(図1)。
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WalkMe日本法人で代表取締役社長を務める小野真裕氏(写真1)はこう説明する。「デジタルツールを導入するということは、それで成し遂げたいことがあったはずです。その手段としてユーザーがツールの使い方を習得しますが、当然、習得が目的ではありません。DAPに従ってスムーズに処理が進められれば、だれでもツール本来の力をより早く、より多く引き出せるようになります」
起業の発端は、母親からのヘルプコール
WalkMeがイスラエルで創業したきっかけは、共同創業者自身の体験からだったという。──共同創業者の母親が、モバイルバンキングを使うことができず、息子に電話でヘルプを求めた。そこで電話をかけて操作方法を教え、母親は無事に操作することができたが、翌週になるとまた同じ内容の電話がかかってきた。共同創業者は、こうしたことは世の中全体で起きているかもしれないと気づき、この課題をテクノロジーで解決しようとして起業した──。
WalkMeの狙いは的中した。実際、新たに導入されたアプリやサービスの操作がわからず、業務が停滞する事態が世界中の企業で起きていた。大企業では多数のSaaSが導入されており、その数は450種類を超えており、そのうち約半分がアクティブではない=使われていないという調査結果もある(図2)。
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導入したアプリ/サービスが、なぜ社内で十分に使われないのか? WalkMeは「デジタルフリクション(Digital Friction:デジタルの摩擦)」の問題を、エンドユーザーと管理者の両面で挙げている(図3)。WalkMeのようなDAPは、このデジタルフリクションの問題を解消し、導入したアプリの利用を活性化させることを目的としている。
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業務アプリ/サービスのUXを改善する仕組み
WalkMeが対象とするのは、HTMLで書かれた業務アプリケーション/サービスだ。SaaSをはじめ、Webブラウザで動作するものなら何にでも使え、エンドユーザーのブラウザに専用の拡張機能を組み込むことで利用を始められる。
小野氏によると、WalkMeはAPIの接続もあるが、Webブラウザの拡張機能を使った疎結合をコンセプトにしているという。そのため、SAPを適用するSaaSの提供元との特別な契約を必要としない。企業のIT担当者は、エンドユーザーに拡張機能を一括配布することで、容易に導入することができる。
言葉より画面を見たほうがわかりやすいだろう。画面1・2は、WalkMeが適用されたSalesforceの画面で、「マネージャーメニュー」や「営業部員メニュー」などのガイドボタン/ウィンドウやフォーム入力支援のハイライト表示などがWalkMeによって追加されている。また、画面3は従業員自身のデスクトップに常時起動させておく形で使うフロントエンドツール「Workstation」である。
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ガイドボタンは、IT担当者向けの管理画面からノーコードで設定できる。SalesforceやSuccessFactorsなど、世界中で使われている主要なSaaSについては、あらかじめガイド表示のテンプレートが用意されており、それらを基に、IT担当者が自社独自のガイドや注釈などを追加できるようになっている。
ガイドだけでなく、自社にとって不要な項目にはマスクをかける機能が備わっている。余計な表示を消すことでエンドユーザーの誤操作を減らし、目的の業務に専念してもらうことができる。
では、WalkMeでは実際どんなことが可能になるのか。一例に社員の入社時手続きがあり、小野氏は社用のスマートフォンを貸与するプロセスで、会社がServiceNow上に構築した社員向け購買ポータルサイトで行う手続きの流れを示した。
新入社員は購買ポータルサイトでスマホの機種や本体カラーなどの仕様を選択することになるが、WalkMeが適用されているので一連の手続きがほとんど自動で進む。会社が選択させないようにしている仕様にはマスクが施されている。初めて操作する人でも迷わずに最短距離で目的を果たすことができる。
また、個別のガイドだけでなく、複数のアプリ/サービスにまたがる業務プロセス/フローの支援も可能だ。「WalkMeワークステーション」と呼ぶ機能で、ユーザーの業務を起点に、何を使えばよいのかをナビゲーションしてくれる。ナビゲーションに従えば、プロセスの遷移に合わせて次々とアプリを切り替えることができ、操作に困らずに業務を完了させられる。
「WalkMeが操作に介入することで、ユーザーは、開発元やUIの異なるアプリ/サービスを切り替えながら使っていても、統一されたガイドを頼りに作業を進めることができます。これが業務のUXを改善し、効率の向上につながるのです」(小野氏)
●Next:なぜ、DAPが全社的な業務改善/IT投資最適化につながるのか?
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