[市場動向]
「顧客や従業員とのつながりをより深く」エクスペリエンス管理はどこまで浸透したのか─クアルトリクス
2024年4月19日(金)神 幸葉(IT Leaders編集部)
顧客や従業員、ビジネスパートナーへのアプローチにおいて、エクスペリエンス(Experience、体験)が重要視されるようになり、この言葉が分野として定着しつつある。米クアルトリクス(Qualtrics)は、このエクスペリエンス管理(XM)に特化したソフトウェアベンダーである。同社の日本法人が2024年3月に開催した説明会では、同社の事業戦略のほか、従業員体験(EX)と消費者体験(CX)に関する調査結果への洞察が示された。
最新のAIでエクスペリエンス管理を強化する
米クアルトリクスは、独SAPグループ傘下のソフトウェアベンダーとして事業を展開していたが、2023年6月に米プライベートエクイティのシルバーレイク(Silver Lake)とカナダ年金制度投資委員会(CPP Investment)の買収により、SAPとの資本関係が解消されている。
ただし、「戦略的パートナーとして、SAPが有するオペレーティングデータと、当社のエクスペリンスデータを組み合わせ、顧客の業務課題解決に取り組んでいく」(クアルトリクス カントリーマネージャーの熊代悟氏、写真1)というのが現在のSAPとの関係である。
熊代氏によると、クアルトリクスのエクスペリエンス管理(XM)製品は、グローバル約2万社、国内約500社の導入実績があり、エクスペリエンスに特化したソフトウェアベンダーとしてのポジションを確固としたものにしている。
2023年7月には、生成AIを実装したXMプラットフォーム「XM/os2」を発表している。クアルトリクスはこれまで自社開発のAIを製品に実装してきたが、新プラットフォームで、世界的なトレンドになった生成AI/大規模言語モデル(LLM)をキャッチアップしていく。熊代氏は次のように説明した。
「AIは人と人とのつながりをより深くする。エクスペリエンス専業として、当社は人の感情にまつわるデータを世界中のどの企業よりも保持している。そこにAIの推論能力を掛け合わせることで、感情からさまざまなインサイトを即座に得られるようになる」
顧客を対象にしたエクスペリエンス管理は、顧客からのフィードバックをアンケートで収集し、分析・改善のアクションにつなげるのが一般的だ。XM/os2は、AIを駆使して、SNSの書き込みや電話による問い合わせなど、あらゆるデータを顧客体験として取り込み、顧客が発するさまざまなシグナルを検知・収集・分析することを可能にする。「現段階ではAIが行うのは理解、分析・可視化の段階までだが、その後のアクションにも適用していく」(同氏)という(図1)。
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クアルトリクスはグローバルで今後4年間、AI研究・開発に5億米ドル(約750億円)を投資し、XM/os2の機能拡張を順次行う計画だ。2024年は、日本のユーザーに向けて、アンケートデータ以外の間接的フィードバック収集・分析機能、VTT(Voice to Text、音声データのテキスト化機能)の日本語版をリリースするほか、日本語の自然言語解析(NLP)機能の強化を予定している。
合わせて、収集したエクスペリエンスデータをビジネスで活用するためのアドバイザリーサービス、CX/EXデータの相関分析サービスなどの顧客支援サービスに引き続き注力する。そのためのアドバイザリー、プラットフォームパートナーとの協業を強化するとしている。「エクスペリエンス管理は日々の積み上げが重要。成果につなげるために、これまでのデータの見方を変えてもらうための支援も続けていく」(熊代氏)という。
グローバル調査に見るエクスペリエンス管理の実態
エクスペリエンス管理という取り組みは、実際の企業や組織にどこまで浸透しているのか。クアルトリクスは、2023年夏に32の国・地域、約3万7000人を対象にしたグローバル調査を実施。「2024年従業員エクスペリエンス(EX)最新トレンド」としてまとめている。
同調査から見えてきたグローバルトレンドは「AI活用」「フロントワーカー対応」「新入社員(新卒・中途)対応」「従業員サーベイのあり方」「出勤制度」の5つだ(図2)。日本企業に影響度が高いと考えられるトレンドとして、AI活用、フロントワーカー対応、出勤制度を挙げ、企業が取り組むべきポイントを、同社 EX ソリューションストラテジー マネージャーの東田真樹氏(写真2)が紹介した。
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AI活用について、エンゲージメントの低い従業員が否定的になる傾向は、グローバルに比べて日本企業はさらに強いという。活用シーン別で見ると特に人事考課や採用面接など評価の領域で特に抵抗感が強いそうだ(図3)。とはいえ、「先進国の中で生産性が低いとされる日本が競争力を上げていくためには、AI活用は避けて通れない」と東田氏は指摘した。
しかし、目的が不明確なまま導入すると、利用が進まないだけでなく、従業員に不必要な不信感を与える危険性もある。東田氏は、「AIに対する従業員の納得感を高め、狙った効果を具現化するチェンジマネジメントがまずは必要。従業員エンゲージメントを改善して、経営層と従業員の信頼関係を再構築することが第一歩になるだろう」とした。
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フロントワーカー対応については、現場の声に耳を傾けるだけではなく、業務プロセスの改善など具体的なアクションにまで昇華する必要があるという(図4)。「産業構造や顧客ニーズが目まぐるしく変わる中で、顧客と直接接点を持つフロントラインワーカーの重要性は今後も高まっていく。現場で働くスタッフのエンゲージメントの自発的な貢献意欲をいかに高めていけるか。それが、顧客体験ひいては企業価値向上のカギを握る」(東田氏)
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出勤制度に関しては、コロナ禍が落ち着き、オフィス回帰の動きが高まっている中、エンゲージメント、継続勤務意向、インクルージョン、ウェルビーイングにおいて高い数値を示すのはハイブリットワーカーである(図5)。「全社で同一のルールを導入するのではなく、EXをはじめとするデータをクロス分析しながら、 部署や職種に応じてエンゲージメントと生産性を両立する最適解を探っていくことが求められる」(東田氏)
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