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[データ駆動型社会を支える「データスペース」の実像─ハンズオンで理解するその価値と可能性]

次代を担うデータ基盤「データスペース」とそのテクノロジー[前編]:第1回

2024年8月28日(水)越塚 登(東京大学大学院 情報学環 教授)

ビジネスの高度化はもちろん、社会運営にとってもデータ活用の重要性は論を俟たない。一方で、データがサイロ化しシステムや組織内で留まっていては、その真価は発揮されない。データを十全に生かすには、信頼性を担保しながら組織や国境を越えて共有・連携するためのプラットフォーム、すなわち「データスペース」が必要となる。連載の第1回となる今回は、東京大学大学院 情報学環 教授/一般社団法人データ社会推進協議会 会長の越塚登氏が、データスペースの価値や必要とされる背景、カギとなる技術要素を解説する。

データ駆動型社会のインフラとしてのデータ連携基盤

 データの重要性が叫ばれるようになって久しく、その価値は広く認識されるようになりました。データ駆動型社会を支える社会インフラは、日本ではデータ連携基盤と呼ばれています。

 数十年前より、企業や組織内では、データベースなどのツールを使ってデータを整備/利用していますが、データ駆動型社会におけるデータの取り扱いの大きな変化は、各社・組織がデータを組織内部に抱え込んだサイロ化を解消し、組織横断的にデータを連携させることです。それによる新しいデータの活用が期待されており、そうした状況を実現する社会インフラとしてデータ連携基盤が重要視されています。

 私も、2021年4月に一般社団法人データ社会推進協議会(Data Society Alliance:DSA)を設立し、データ連携基盤の構築に向けた取り組みである「DATA-EX」を推進してきました。このDSA/DATA-EXについては、本連載の中で追って紹介します。

データ主権を実現するプラットフォーム:データスペース

 組織の壁を超えてデータを連携させる場合、データの作成者や利用者とは異なる第三者がデータの収集やデータ流通のイニシアチブを独占することへの警戒感が世界的に高まっています。これは、まずパーソナルデータの取り扱いで顕在化し、欧州におけるGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)や、現在はデータ主権(Data Sovereignty)という考え方に発展しています。

 データ主権とは、自身に関する/自身が作成したデータを自らが管理することや、特定の場所で収集・保存されたデータはその場所の法律に従って運用することなどを含んだ概念です。

 複数のプレーヤー間でデータを共有・流通・連携させる際に、データ主権を実現するための技術的・社会的プラットフォームとして、「データスペース(Data Spaces)」という概念が主に欧州から発信されています。日本で言えば、上述のデータ連携基盤にデータ主権の考え方を色濃く導入したものと考えられます。

 データスペースを少し堅く定義すると、特定のガバナンスに基づいて、複数のプレーヤーがデータを共有・流通させ、何らかの事業的・社会的目的の実現を目指すための技術的・社会的な仕組みです。その実現にあたって、データ主権やプレーヤーとデータのトラスト・信頼性、平等性と開放性、相互運用性といったコンセプトが重視されます。これらを実現するための重要な技術要件が、連邦型アーキテクチャです。

データを集約せずに連携する連邦型アーキテクチャ

 データ駆動型社会の実現に向けて、データのサイロ化を打ち破り、複数のプレーヤー間でデータの共有・流通・活用を進めるには、だれもがアクセスできる場所にデータが集められて管理されていると便利です。しかし、データ主権の考え方に依れば、自身のデータは自身で管理するものであって、第三者に管理を委ねるものではありません。

 したがって、データ提供者は自身でデータを個別に管理しつつも、データをサイロ化せず、データ利用者からはワンストップで扱えるようにすることが望ましいと考えられます。これを実現する構造が連邦型アーキテクチャです(図1)。

 連邦型アーキテクチャは、データスペースのカギとなる技術アーキテクチャです。具体的には、個別に管理されているデータを、SSO(シングルサインオン)による認証を経て、共通APIで相互接続することで実現します。連邦型アーキテクチャについての詳細は、具体的なシステムの実例と併せて、本連載の中で解説します。

図1:データを一か所に集約する中央集権型アーキテクチャ(左)と分散させたまま管理する連邦型アーキテクチャ
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新しいデジタルインフラとしてのデータスペース

 インターネットは、これまで世界のデジタルインフラを担ってきました。地理的透明性を実現し、地球のどこからでも国境を越えて、デジタルデータを送受信できるようになったことで、グローバルなデジタル空間が構築され、その上で多くのデジタル産業が発展しました。

 データスペースとは、言わばこのインターネットの上に構築する、デジタルデータを共有・流通・連携させるための新しいデジタルインフラです。インターネットによる国境を越えたグローバルなデジタル空間の上に、データ駆動型経済に求められる、データ主権に基づいた規範と信頼性を構築しようとしているのがデータスペースなのです(図2)。

図2:新しいデジタルインフラとしてのデータスペースの位置づけ
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●Next:データスペースは欧州で先行、GHG排出量規制への対応にも期待が高まる

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