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[データ駆動型社会を支える「データスペース」の実像─ハンズオンで理解するその価値と可能性]

データスペースが拓く将来─エコシステム形成と国際連携で新たなデータ経済圏の構築へ:第12回

2024年11月20日(水)清家 大嗣(東京大学大学院情報学環 特任助教)

ビジネスの高度化はもちろん、社会運営にとってもデータ活用の重要性は論を俟たない。一方で、データがサイロ化しシステムや組織内で留まっていては、その真価は発揮されない。データを十全に生かすには、信頼性を担保しながら組織や国境を越えて共有・連携するためのプラットフォーム、すなわち「データスペース」が必要となる。最終回となる本稿では、データスペースを開発する国内外の取り組みや国際連携に触れながら、21世紀の新しいデジタルインフラとしての期待と展望を示す。

 本連載では、これまでに11回の記事を通して、データスペースの取り組み・技術について紹介してきました。

 第1回第2回では、データを集約せず、特定のガバナンスに基づき共有・流通・活用を可能にするデータスペースの概念や、欧州および日本における取り組みを解説しました。

 第3回では、データスペースの概念実証・技術テストをするための東京大学データスペース技術国際テストベッド(International Testbed of Dataspaces Technology: ITDT)について紹介しました。

 データスペースを実際に動かしながら学ぶための、具体的な手順も扱いました。第4回からの3回分は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で開発された国産のデータ連携基盤であるCADDEシステムの概要と実装を、ハンズオン形式の解説を試みました。

 第7回からは4回にわたり、さまざまなオープンソースプロジェクトを推進する欧州の非営利団体Eclipse Foundationが開発を進めるEDC(Eclipse Dataspaces Components)の概要と実装を、同じくハンズオン形式で詳説しました。

 最終回となる本稿では、これまでの回を踏まえ、データスペースを開発している国内外のグローバルな取り組み・連携に触れつつ、21世紀の新しいデジタルインフラとしてデータスペースがどのように社会に普及していくか、期待と展望を述べたいと思います。

新しいエコシステムとしてのデータスペース

 データスペースは巨大な分散システムであり、データを集中的に管理する主体が存在しません。そのため、データスペースの持続可能性を保証するためには、1社単独で運用されるデータ基盤とは異なる、まったく新しいビジネスモデルが必要になります。

 データスペース以前の分散システムであるWinny(※1)やビットコイン(※2)でも、システムの開発・維持コストをだれが負担するのか、という点は大きな問題でした。システムの運用者、データの提供者、利用者といったステークホルダーが損をしない枠組みづくりが大切です。

 2024年11月にオーストリアのウィーンで開催されたデータスペースに関する国際コンファレンス「Global Data Spaces Connect 2024」においても、経済的利益をもたらすデータ共有のユースケースやデータスペースを紹介するセッションが行われ、パネルディスカッションではビジネスモデルに関する活発な議論が交わされました。コンファレンスの模様は本稿末をお読みください。

データスペースにおける協調領域と競争領域

 巨大な分散システムであるデータスペースでは、さまざまなステークホルダー間の協力が求められます。ステークホルダー間で協調してシステムを運用させるためには、共通のプロトコルを規定する標準化や、相互運用性(Interoperability)、認証を実施するためのトラスト基盤も必要になります。これらの要素は協調領域といえるでしょう。

 一方で、ビジネスモデルに基づく参加企業への経済的なインセンティブを巡って、データスペースを構成する一部の要素では競争的な開発・運用が行われる可能性があります。

 現状では、コネクタを始めとしたコンポーネントの多くはオープンソースソフトウェア(OSS)を利用して協調的に開発・実装されている一方、Web Appのような、ユーザがデータスペースを利用する際の顔であるインタフェースは各社で独自に開発するケースが多いです。

 画面1は東京大学テストベッドで運用しているCADDEシステムのWebアプリケーションで、画面2は独sovityが開発しているコネクタをデプロイできる機能を持つWebアプリケーションです。これらは競争領域の一例と言えるかもしれません。

画面1:CADDEシステムのWebアプリケーション
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画面2:独sovityが開発するWebアプリケーション
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データスペースの持つ機能と応用可能性

 ここでは、本連載を振り返りつつ、データスペースの応用可能性について考えてみましょう。例えば、欧州連合(EU)が定めるAI規制法(AI Act)では、リスクの高いAIに対して、技術文書の作成、ログ管理、透明性、AI利用者への十分な情報提供を要求しています(Article 11~13に該当)。これらについては、第4回で紹介した、データの加工履歴などを記録できる来歴管理サーバが有用かもしれません。

 さらに、AI規制法ではデータガバナンスについても言及されており、そこでは個人データの不正使用禁止、プライバシー保護、適切なアクセスコントロールの必要性が挙げられています(Article 10に該当)。この要求事項を満たすには、第9回のハンズオン中で紹介されている「ポリシー」の設定を用いたデータ利用制御が有効と考えられます。

 また、2019年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて提唱され、日本のデジタル庁が推進しているDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)では、「プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する、国際的に自由なデータ流通の促進を目指す」というコンセプトを掲げています(※3)。この実現には、第7回で紹介されている、語彙やデータモデルの共通化による相互運用性確保の取り組みが役立つかもしれません。

[参考文献]
※1:金子勇,アスキー書籍編集部[編],Winnyの技術, ‎ アスキー,2005

※2:Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(https://bitcoin.org/bitcoin.pdf
※3:デジタル庁,政策,DFFT(https://www.digital.go.jp/policies/dfft

●Next:先行する欧州との連携が進む

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