[データ駆動型社会を支える「データスペース」の実像─ハンズオンで理解するその価値と可能性]
次代を担うデータ基盤「データスペース」とそのテクノロジー[後編]:第2回
2024年9月11日(水)越塚 登(東京大学大学院 情報学環 教授)
ビジネスの高度化はもちろん、社会運営にとってもデータ活用の重要性は論を俟たない。一方で、データがサイロ化しシステムや組織内で留まっていては、その真価は発揮されない。データを十全に生かすには、信頼性を担保しながら組織や国境を越えて共有・連携するためのプラットフォーム、すなわち「データスペース」が必要となる。今回は第1回に引き続き、東京大学大学院 情報学環 教授/一般社団法人データ社会推進協議会 会長の越塚登氏が、日本におけるデータ活用の取り組みの変遷や、データスペース構築に向けた政府や自治体の動向、アカデミアが担う役割について解説する。
日本におけるデータ活用への機運の高まり
我が国におけるデータの共有・流通・連携の動きは、2011年3月に発生した東日本大震災を契機とするオープンデータ推進の取り組みから盛んになりました。まずは国や自治体が持つ公共データがオープンデータ化されました。また、政府の総合科学技術・イノベーション会議(Council for Science, Technology and Innovation:CSTI)が第5期科学技術基本計画(2016〜2020年度)の中で「Society 5.0(注1)」のコンセプトを打ち出し、その中でも実世界のデータが重要視されました。
注1:Society 5.0は、内閣府が構想する、日本が目指すべき社会像のこと。サイバー空間/フィジカル空間を高度に融合させたシステムで、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会を指す。
その後、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第二期(2018〜2022年度)の中で、分野間データ連携基盤の研究開発が進められました。その成果として、「CADDE(Connector Architecture for Decentralized Data Exchange)」と名付けられたシステムが開発され、現在はオープンソースソフトウェアとして公開されています。
また同時期から、デジタル田園都市国家構想(2021年〜)やスーパーシティ構想(2022年〜)を含むスマートシティ関連施策が推進されており、その中でもデータの活用は重視されています。各都市におけるスマートシティのデジタルプラットフォームとして、データ連携基盤を含む「都市OS」の構築が推奨されました。
データ社会推進協議会 (DSA) の活動とDATA-EX
2021年4月に、産官学の連携により分野を超えたデータ社会を実現し、世界と協力し貢献を図るために一般社団法人データ社会推進協議会(Data Society Alliance:DSA)が設立されました。
DSAではデータ社会の実現に向け、データ連携基盤構築のための共通技術や標準を提供しており、その取り組みの総称を「DATA-EX」と呼んでいます。また、都市OSにおけるデータ連携基盤として、エリアデータ連携基盤の推奨モジュールの提供や、その導入/活用支援なども行っています(関連記事:複数の産業分野をまたがった日本のデータ流通基盤「DATA-EX」を構築する─DSAの越塚登氏)。
国際連携においては、GAIA-XやFIWARE Foundation、IDSA(International Data Spaces Association)とMOU(Memorandum of Understanding:覚書)を締結しています。また、国際的にデータ社会実現の取り組みを連携する組織として、IOFDS(International Open Forum on Data Society)を設立しました。
データスペース構築に向けた動きが加速
我が国では近年、データスペース構築に向けた動きがさらに拡大し、加速しています(図1)。
政府では、経済産業省がウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)、国土交通省が国土交通プラットフォームの取り組みを進めています。また、内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第三期では、モビリティ分野のデータスペースとしてJMDS(Japan Mobility Data Space)プロジェクトを推進しているほか、複数課題を超えたSIPデータスペースの構築を進めています。また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に設置されたデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)およびデジタル基盤センター(DISC)の取り組みも挙げられます。
自治体レベルでも、東京都の東京データプラットフォーム(Tokyo Data Platform: TDPF)や大阪府の大阪広域データ連携基盤(Osaka Regional Data Exchange Network:ORDEN)、つくば市のデータ連携基盤、高知県のSAWACHI(農業データ基盤)やNABRAS(漁業データ基盤)などの構築/実運用が始まっています。特にスマートシティ分野では、データ連携基盤/都市OSの導入が進んでおり、デジタル化横展開推進協議会が構築フェーズから活用フェーズへの移行を強く支援しています。
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●Next:データスペース構築におけるアカデミアの役割
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