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[ザ・プロジェクト]

基幹システム刷新に再度挑むイトーキ、過去の教訓から描いた“あるべき姿”へ

グループ全社のデータ活用と事業変革を支える経営基盤を具現化

2024年10月2日(水)神 幸葉(IT Leaders編集部)

オフィス家具老舗メーカーのイトーキが、3年間で80億円規模を投じるIT関連施策を展開、その核となる基幹業務システムおよびITインフラの刷新に取り組んでいる。約20年間運用してきた基幹システムの刷新では、過去のプロジェクト中止経験を教訓に、システム設計とプロジェクト推進体制の見直しから着手。イトーキのシステムのみならずビジネスを変革する基盤として構築を推進する。プロジェクトを主導する同社 執行役員 DX 推進本部 DX 統括部長の竹内尚志氏に、取り組みの詳細を聞いた。

3年でIT関連投資に80億円、経営を加速させるITインフラへ

 創業134年のオフィス家具メーカーであるイトーキ。2024年12月期~2026年12月期の中期経営計画では売上目標1500億、利益目標140億を掲げ、さらなる成長を目指している。それらを達成するための重要戦略が「7Flags」だ(図1)。

 7Flagsの最上位、1・2番目に据える「Office1.0/2.0/3.0領域」とは、イトーキのビジネスモデルのフェーズを指す。創業以来の主要事業であるプロダクトベースの商品販売事業をOffice1.0、オフィスの空間設計まで含めた空間ベースの商品ソリューション提供事業をOffice2.0と定義。時代のニーズに合わせてビジネスを進化させてきた。現在、注力しているのが、オフィスの利用状況データを基にした“働き方”ベースのオフィスDXを提案するOffice3.0だ。

図1:2024年~2026年の中期経営計画における「7Flags」戦略(出典:イトーキ)
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 イトーキ 執行役員 DX 推進本部 DX 統括部長の竹内尚志氏(写真1)は戦略の意図を次のように説明する。「ニーズにあったオフィス家具を自社で製造して販売するOffice1.0のビジネスモデルは現在も当社の大きな核です。そして、将来的な変化に対応できる、データやIoTを活用した新しいビジネスモデルであるOffice3.0の確立は、中期経営計画において非常に重要なポイントと位置づけています」。

写真1:イトーキ 執行役員 DX 推進本部 DX 統括部長の竹内尚志氏

 このビジネスモデルの推進・具現化にあたって、竹内氏らDX統括部が主体となって取り組んでいるのが、4番目の「高収益化」である。グループ生産供給体制の再編と社内ITインフラの刷新によって生産・業務効率を高め、高収益化を図る構えだ。社内IT関連投資の総額は3年で80億円を予定する(図2)。

図2:高収益化の概要(出典:イトーキ)
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老朽化する基幹システム、前回の刷新計画は中止に

 イトーキの基幹業務システムは約20年間の長期稼働、いわばレガシーシステムに対し、つぎはぎの保守運用を続けてきた。その結果、ITインフラがスパゲティのように複雑に絡み合う状態に。2023年3月にはハードウェア障害で基幹システムが停止するトラブルも経験した。

 また、データ活用の高度化を図ろうにも、拠点・事業単位のサイロ化が極まって、必要なデータへのアクセスやデータ連携などの面でも不便なことが増えていた。老朽化した基幹システムの刷新と共に、データサイロを解消し、グループが横断的にデータを活用できるようにするためのITインフラの刷新・整備も待ったなしの課題となっていた。

 「世の中の変化や当社の新たなビジネス、事業部門からのさまざまな要望に応えていくには現在のシステムのままでは難しく、変化を捉えて、ビジネスの動きに対し、迅速に追従していける新しいシステムとインフラが必要でした」(竹内氏)

 基幹システムについては、5年ほど前にもリプレースの機運が高まり、5カ年で臨む刷新プロジェクトに一度は取り組んだ経緯がある。2018年 にあるERPアプリケーションを選定してリプレースに着手したものの、要件定義を行う過程で各事業部門から譲れないポイントが多く挙がり、最終的に大半の部分でアドオンが必要な状態に陥ってしまった。結果、プロジェクトは約3年が経過した時点で中止せざるをえず、同社にとって苦い経験となった。

教訓を生かしてシステム/インフラ刷新を再起動

 そうしている間もシステムの老朽化やデータのサイロ化はどんどん進む。前回のプロジェクトでの反省を踏まえて、イトーキは改めて基幹システムとITインフラの刷新に挑むことになった。

 過去の教訓から、システムは設計のレベルからの見直しを図る必要があった。例えば、前回採用したERPは領域ごとにモジュールが明確に分かれていたことで、モジュールごとのワーキンググループが形成され、部分最適が生じてしまった。

 今回は、グローバルに展開する販売・会計情報をグループ全社で可視化・把握し、トータルで経営資源最適化に向かえるシステムの姿を描いた。そのうえで、複数の製品・ソリューションを改めて検討した。

 検討の末、経営資源のグローバル統合、業務プロセス/フローの標準化、現場の業務可視化の観点から、日本オラクルのクラウドERP「Oracle Cloud ERP」を採用した(図3)。竹内氏は、「クラウドの基盤上にアプリケーションとデータが載って、それらを統合するというOracle Cloud ERPのコンセプトがグループ全社で経営資源の活用を図りたい当社のニーズに合致した」と話す。

図3:Oracle Cloud ERP導入で目指すもの(出典:イトーキ)
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 竹内氏は、基幹システムの刷新で実現するのは、単なるシステムのリプレースではなく、ビジネスそのものの変革であると強調する。プロジェクトの基本方針を次のように説明する。「基本的な考え方は『迷ったら、やらない、作らない』です。まずは老朽化が進んでいた部分を優先し、要るか要らないかの議論になった部分は一旦保留にしてプロジェクトを推し進めています。その後優先度に従って段階的にシステムを作り上げ、最終的には目指した標準化・簡素化・自動化を実現します」

 プロジェクト推進体制にも教訓が生かされる。前回はベンダーと特定の担当者のみで進めたことで情報共有に齟齬があったが、今回は営業、受注、在庫管理、生産指示、物流、請求といった関連部門の担当者全員がミーティングに参加するようにした。

 「全員参加では時間がもったいなく非効率という声もあるが、業務プロセスは部門をまたいでつながっている。他部門を顧みずに自部門の状況のみで対話したことで上手くいかなかった前回のやり方を改めました」と竹内氏。要件定義も、現場の人間からプロセスリーダーを選定し、部門の業務状況について具体的な説明を行ってもらい、ERPに業務を合わせるか、カスタマイズが必要かの判断を行っているという。

 基幹システムの刷新でITインフラがクラウドにシフトすることで、データ管理のしかたも刷新される。図4は、システムの老朽化とデータのサイロ化によって業務プロセス全般で苦労していた刷新前のAs Is、全社のデータ管理基盤が整備され、業務プロセス全般が効率化・迅速化された刷新後のTo Beを図示したものだ。

図4:現状とITインフラ刷新を通じて目指す姿(出典:イトーキ)
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ERPの適用領域と段階的導入、目指す効果

 こうして、イトーキにおいてOracle Cloud ERPの導入が段階的に進んでいる。2023年4月に経営管理を担うEPM(Enterprise Performance Management)アプリケーション「Oracle EPM」、2024年1月に財務会計・経理を管理するFIN(Financials)アプリケーション「Oracle FIN」の導入が完了し、本番稼働している(図5)。

 EPMの導入を機に管理会計が会計領域から独立し、FINの導入ではERP内に財務会計の関連情報がすべて集約される仕組みを構築。経営判断に必要なデータの抽出、予算策定や決算資料作成にかかる時間の短縮など、スピーディな経営の意思決定を可能にする仕組みが整ったという。

図5:Oracle Cloud ERPの導入領域(出典:イトーキ)
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 現在は、最終段階としてサプライチェーンの最適化を図る「Oracle SCM」を2024年11月の稼働予定で取り組んでいる。サプライチェーン領域には見積もり、受注、調達、運送、納品、請求といったプロセスに生産管理も加わるが、現時点では既存の生産管理システムのインテグレーションを予定している。

●Next:データを生かす空間づくり、未来のものづくりを支える生産管理の次の姿

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