[市場動向]
「AIを使いこなすには“長期戦”が必要だ」─QlikのカポネCEOがAIプロジェクトの成功パターンを解説
2024年11月28日(木)愛甲 峻(IT Leaders編集部)
「ChatGPT」の公開以来、ビジネス変革の可能性に大きな期待が寄せられてきた生成AIだが、業務活用においてクリアすべき課題は多く、成果を上げるのは容易ではないということも明らかになってきている。米Qlik日本法人のクリックテック・ジャパンが2024年11月18日に開催した説明会に、米国本社CEOのマイク・カポネ氏が登壇し、生成AI活用のプロジェクトを成功に導くためのポイントを解説した。併せて、生成AIにより非構造化データから自然言語で情報を引き出せるツール「Qlik Answers」の日本での提供を発表した。
生成AIの活用は過度な期待を避け“長期戦”で
2022年11月に米OpenAIが「ChatGPT」を公開して以来、生成AIの可能性は過熱気味にもてはやされてきた。米クリック(Qlik)でCEOを務めるマイク・カポネ(Mike Capone)氏(写真1)は、企業による生成AI活用はこれまでのところ、必ずしも成果に結びついていないと見る。「トップダウンで進められたAIプロジェクトの多くが失敗に終わっている。生成AIはあらゆる問題の答えだとみなされてきたが、実際はそうなっていない」(同氏)。
過度な期待が寄せられる時期が過ぎつつある現在は、生成AIを安全かつ倫理的に活用し、その価値を引き出すための方法が問われ始めているという。不正確な生成結果によるビジネスへの悪影響や、AI関連の罰則を伴う法規制の増加など、生成AI活用に伴うリスクも顕在化している。
こうした状況を踏まえて、「生成AIを使いこなすには、長期戦に挑む必要がある」とカポネ氏。短期的な成果を追うのではなく、長期的な視点で必要な取り組みを進める忍耐強さが求められると強調した。
では、生成AIをうまく活用している企業は、どのように取り組みを進めているのか。カポネ氏は成功事例に共通するポイントとして、(1)さまざまなユースケースやAIモデルを組み合わせることによる失敗のリスク低減、(2)AIに対応したデータの整備、(3)ガバナンスやセキュリティを担保するための仕組みづくり、の3つを挙げた。
1つ目は、ユースケースやAIモデルを1つに絞らず、複数を組み合わせることで、プロジェクトが失敗するリスクを低減すること。従来の予測型AIや人間の能力の活用も含め、さまざまな要素でAI戦略を多様化することが重要だという(図1)。
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「ユースケースや機能の選定にあたっては、スケールしやすいものが望ましい」とカポネ氏。例えば、後述の「Qlik Answers」のように、非構造データから求める情報を抽出するという生成AIのユースケースは、意思決定に携わる多くのナレッジワーカーを、部門横断的に支援できるとした。
2つ目は、AIに対応したデータの整備だ。カポネ氏は望ましいデータの性質として、データの多様性、利用可能性、発見可能性、安全性、正確性、リアルタイム性の6つを列挙し(図2)、これらを担保できるデータ基盤の構築が重要であると述べた。
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ガバナンスが焦点に、米国企業はデータアーキテクト/スチュワードに投資
3つ目は、ガバナンスやセキュリティを担保するための仕組みづくりだ。カポネ氏は必要な取り組みとして、生成AIの開発・利用の方針を定めるポリシーの明文化や、規制順守やリスク管理などのガバナンスを担う組織の確立、データの品質やセキュリティを確保するためのシステム/プロセスの整備などを挙げた(図3)。
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近年では、データガバナンスの重要性に対する認識が広がっており、米国ではデータアーキテクトとデータスチュワードへの企業の投資が拡大し、予算を再配分する傾向が見られるという。「多くの企業において、データ戦略が部門単位の垂直的なアプローチから、部門横断の水平的なアプローチに移行している」(カポネ氏)。
カポネ氏は「すぐれたデータがなければ、生成AIは役に立たない」として、AI活用を念頭に置いた新たな戦略でデータガバナンスに取り組む必要があると指摘。こうした考えの下、クリックは2023年5月にデータ統合や品質管理の専門ベンダーである米Talend(タレンド)を買収し、製品ラインアップを強化している(関連記事:「低品質なデータが大惨事を引き起こす」─AI時代に専門家が訴えるデータ品質の重要性)。
●Next:さまざまなデータソース上の非構造化データから洞察を引き出す
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