[市場動向]

SaaS提供にかかわるさまざまなプレイヤー

SaaSが企業を変える日 第2回

2007年7月30日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

SaaS(Software as a Service)のエンタープライズへの浸透が開始されている。ソフトウェアの導入運用のコストや管理工数削減に意欲的な企業がSaaSに強い関心を示しているのだ。そのニーズに対して、SaaSを提供するサイドはどう動こうとしているのだろう。今回は、SaaS提供に関わるさまざまなプレイヤーたちを見ていきたい。

新しいフレームワークに向けて

 Google以前のIT業界は、すでに住み分けがほぼ終了したかのような閉塞感が色濃かった。ソフトウェアのジャンルでも新しいベンダーの登場よりも、買収や合併といった統合に向けたニュースばかりが目に付くことが多かったが、こうした流れをインターネットインフラの整備とウェブアプリケーションの普及が断ち切った。

 従来のパッケージソフトベンダーやSIerは、開発から営業・販売まで含めた完成度の高いビジネスモデルであり、豊富なノウハウを積み重ねていたため、その市場に新規参入するのは困難だった。しかし、SaaSはそうした既存の枠組みの窮屈さから抜け出し、新たなソフトウェアベンダーの参入の可能性が高まるとともに、従来のソフトウェアベンダーの多くもSaaSに対応した業態の見直しを迫られることになった。

 SaaSに関係したソフトウェアのビジネスを考える際に、従来のパッケージ提供型とは異なったアプローチをとる例が多く見られる。それは、「サービス」を成立させるために必要なパートナーを見つければいいというポイントに起因する。仮に自らがSaaSプラットフォームのベンダーにならなくとも、SaaSベンダーが公開したAPIを利用してソフトウェアを提供するパートナーのポジションを取ることも可能だ。

 こうした協業によって、ユーザーニーズに正確に応えるソフトウェアの効率的かつスピーディーな開発・提供が可能になる。一方、これまで1社提供にこだわってきた既存ベンダーは、従来の体制ではSaaSの発展速度に対応していくことが難しくなり、SaaSプラットフォームの提供者としての生き残りを図るために、新たなパートナーとの協業も視野に入れざるを得なくなってきている。

 SaaSの周辺では、開発のみにとどまらないさまざまなアプローチでの協業が図られている。最近のニュースを見ても、ネットスイートとホワイトパジャマジャパンのコールセンターシステムの提供や、日本SGIとメディアエクスチェンジ(MEX)のSaaSの流通までを視野に入れた提携、KDDIとマイクロソフトのオフィス&モバイル両面での利用を一本化するサービスへ向けた提携など枚挙に暇がない。さまざまなパートナーシップの構築が非常に加速している印象だ。

 そこからはIT業界全体を巻き込んでいくかもしれない、新たなフレームワーク参加への意思が読み取れるように思える。

業務アプリケーションの移行モデルが先行

 Salesforce.comやNetSuiteなどが扱っているCRMなどの業務アプリケーションは、従来のサーバー保有モデルからSaaSへ移行するメリットがわかりやすい。サーバーが社外に移動し、クライアントソフトがウェブブラウザーに代替されるという、システムの見た目としてシンプルな変更であったこともあって、ユーザーにコストや管理面などのメリットを説明しやすく、また、これまでサーバー構築・運営体制やコストの面で導入が難しかったスモールミドルの企業にも販路を広げられるため、ベンダー側の採算が考えやすい。

 CRMなどのサービス料金が下落傾向にあったことも、新しい業務アプリケーションベンダーに積極的なSaaS参入を決意させる原因のひとつとなっているように思える。また、もともと売り切りのモデルではなく、コンサルティングやサポートを付加した年間契約モデルであったため、ユーザーにとっても、このジャンルでのSaaS導入は馴染みやすいというアドバンテージもあった。

 従来、この分野でリーダー的な存在であったSAPやOracleもSaaSへの対応を発表してきている。Oracleは先行して提供していたOracle On Demandに加えSiebel CRM On Demandの提供も開始しており、以前から持っているサーバーユーザー保有型のソリューションと並行しながらもSaaSへの歩み寄りを強めている。SAPもCRMパッケージ「mySAP CRM」の機能をインターネット経由で提供する「SAP CRM On-Demand」を投入している。

 ただ、こうした既存のプレイヤーのSaaS対応が、提携がメインでなく従来型の「企業(技術)買収→新ジャンルへの参入」という手順を踏んでいることに、SaaS時代に必要とされるスピード感を満たせるのだろうかという一抹の不安を抱かせる。

 同様にグループウェアに関しても、ASPタイプも存在していた従来製品に対し、ネオジャパンがdesknet’sのApplitusなどを扱っているように、SaaSベンダーが他の業務アプリとの統合型で提供を開始しているため、ここでも今後SaaSをキーワードにした競争が強まってくることだろう。

 また、これまでサーバー構築を必要としなかったOfficeスイートなどのPCスタンドアローンインストールのビジネスアプリケーションに関しても、管理負荷の軽減を目指して[0]SaaS化の試みは増加している。GMailを中心に据えたGoogle Apps Premier Editionは国内でも商用サービスとして提供されており、ほかにソースネクストがMSOffice互換ソフトをテスト中であったり、米国では多数の同ジャンルサービスが提供されているなど動きは激しい。

 Google Appsは無料のEducation Editionでは日本大学の学生向けに数万人を対象にした大規模導入がはじまっているが、企業導入の国内事例はまだ少なく、大企業などへの浸透はこれからの課題だろう。


図1:業務アプリケーションのSaaSへのモデルスライド)

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