ITインフラ統合を成功に導く6つの指針—仮想化技術の導入前に「アーキテクチャデザイン」を実施せよ
2009年1月28日(水)CIO INSIGHT
今号では、CIO INSIGHTから2本の記事を掲載する。1本はITコスト削減に向けた、ITインフラ統合に関する注意点。いきなりインフラ統合に向かうのではなく、その前にインフラの棚卸しとシステム全体のデザインが必要だと主張する。もう1本は、クラウドコンピューティングに大きく足を踏み入れた、ある米企業の事例。クラウドへの移行は、システムだけでなく、CIOの役割にも変革をもたらしつつある。(翻訳 : 古村浩三)
景気後退が深刻化する中、CIO(最高情報責任者)はIT投資コストをいかに抑制・削減するべきかを真剣に検討する必要がある。まず着手すべきところで言えば、サーバーやストレージを初めとしたIT機器・ITインフラの統合だろう。
景気後退が鮮明になる前の2007年8月に、米国の調査会社であるフォレスター・リサーチが行った調査では、企業のIT責任者の多くがサーバーやストレージ、あるいはデータセンター全体のインフラ統合を計画中、もしくは近い将来、統合を予定すると回答した。今となってはなおさら、多くの組織においてITインフラ統合の必然性は強まっている。統合にも当然、コストはかかるが、設置スペースや電力料金など確実にコストダウンを見込めるからだ。
しかしITインフラの統合は、「仮想化OSを活用してサーバー台数を減らせば済む」といった単純なものではない。きちんとステップを踏み、計画的に実施しなければ、本来得られたはずの効果が得られなくなる。そこでCIO INSIGHTは、CIOや専門家への取材をもとにITインフラ統合に向けた指針をまとめた。
- アプリケーションの現状を理解する
- システムの全体像を描く
- 仮想化でハードウェア数削減
- サーバーの前にストレージの統合を
- 仮想化以外の方法も検討する
- コスト削減以外の効果を見いだす
の6項目である。
指針1
アプリケーションの現状を理解する
「ITインフラの統合の前に、まず自社のシステムに存在するアプリケーションの精査を行うべき」。米国の経営・技術系コンサルティング企業、ダイヤモンド・マネジメント・アンド・テクノロジー・コンサルタンツ(以下ダイヤモンド・マネジメント社)のパートナー兼CTO(最高技術責任者)のクリス・カラン氏は、こう語る。「そこでIT部門は自社のビジネス戦略や方向性を考慮して、どのアプリケーションを残し、どれを取り除くかを検討する必要がある。廃棄するアプリケーションにより生じる、システム内の機能的ギャップも把握し、アプリケーション廃棄計画を検討すべきだ」(カラン氏)。
理由は明解だ。企業内には、事実上、稼働していない、つまり不要であるにもかかわらず除去していないアプリケーションが少なからずある。これを残したまま、インフラを統合しても無駄が多くなってしまうからだ。事実、カラン氏は、ある保険会社で取り組んたインフラ統合プロジェクトで、まずアプリケーションの精査を実施。その後サーバーとストレージの大規模な統合に着手し、大きな成功を収めたという。
指針2
システムの全体像を描く
次に必要なのは、将来の情報システム・アーキテクチャや、それを実現するための過程をきちんと設計し、必要なリソースを動員する仕組みを作っておくことだ。具体的には、インフラ統合にたどり着くまでのアーキテクチャの変遷を策定し、現行のプロセスや各組織の役割を評価し、それらがインフラ統合によってどのような影響を受けるかを検討する。
ダイヤモンド・マネジメント社では、それを“アーキテクチャ・デザイン”と呼んでいる。カラン氏は「ITインフラの統合を適切に行うには、今後1〜3年のビジネス計画や関連するビジネスの機能を考慮した、システム全体のアーキテクチャ・デザインがなければならない」と主張する。
米国ペンシルバニア州に本社を置く化学メーカーであるクエーカー・ケミカルのCIO、ブラッド・マニング氏も、インフラ統合には前もってシステムの全体像を描いておく必要があると指摘する。「大きな組織では、インフラ統合を行う前に組織の形態とITの全体像を把握しておくべき。インフラ統合の一環としてプロセスの改善も行う必要がある」(マニング氏)。
もちろん仮想化技術の活用も重要である。サーバーやストレージを統合する手段として欠かせない技術であり、システム資源の効率的な活用や柔軟性の向上、結果としてITコストやエネルギー消費の削減を可能にするからだ。
指針3
仮想化でハードウェア数削減
米国農務省は現在、全国に点在する業務用サーバーや農場向けのプログラムを実行している3000台以上のサーバーを、4ないしは5カ所のデータセンターに集約するプロジェクトを推進している。セキュリティの強化とITコスト削減が目的だ。ここではサーバー仮想化が大きな役割を果たしている。同省は、仮想化によりサーバー数を、少なくとも30〜40%削減できると見ている。
前述のクエーカー社も、サーバーがリース切れを迎えた場合、仮想化に踏み切るという取り組みを行っている。サーバーやストレージを効率的に使用できるようになり、関連する経費の節減も実現しやすくなったという。同社のマニングCIOは、「仮想化技術は充分に成熟してきており、採用について頭を悩ませることはない。今日の統合プロジェクトは、仮想化技術なしには考えられない」と断言する。
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